128.地獄の野営訓練
苛立ちのあまり思いっきりスパルタで叩き上げた。
どこの軍隊を育てているんだと言われても仕方がない。
紅唐白が居ようが、ガンガン高レベルモンスターが続出するのだ。
索敵と隠密のレベルが30以上でも関係なしとばかりに襲ってくる。
折角幸運値を分散させているのに『意味なくね?』と首を傾げてもおかしくない状況。
初期の私と同じように、敵を倒しても直ぐ次の敵に遭遇するという悪循環。
まさに、これぞアーラマンユの呪いだ!
あの邪神めっ、いつか必ずぶっ殺してやる。
「全員戦闘態勢を取れ! 前衛壁役、強化を使って踏ん張れ。付与師は、前衛に痛覚遮断・衝撃遮断・攻撃強化付与。ヒーラーは、前線の負傷者をヒールで回復しつつ回避に専念。魔術師は、水魔法で口と鼻を塞げ! こんな森の中で火魔法を使ったら、私がその場で地獄見せたるからな!」
団体さんWelcomeな状態で、モンスターが入れ食い状態である。
全然嬉しくはないがな!
初日で何人かは脱落すると思ったのに、しぶとく全員生き残っている。
皆、冒険者登録は済ませているので一歩塀の外を歩けば自己責任となる。
仮雇用なので死なせるわけには行かないが難点だ。
「「「「「はい!」」」」」
レベル1桁の人間が、レベル3桁代のモンスターを狩りまくる現実は地獄としか言いようがない。
常に魔力を使わせ極限状態を保つ。
レベルが低いなりの戦い方を叩き込む。
火力が弱いなら頭を使って、確実に安全な方法で敵を倒す。
城壁から1番近い森で野営訓練をした。
戻ろうにもモンスターが邪魔して戻れないので、やけくそで野営したったわ!!
寝る時は、虫よけと魔物除けを散布し多重結界で寝床を確保しきっちり8時間の就寝。
私は、その間に拡張空間ホームを通じてアンナから決済の書類を大量に押し付けられた。
最高責任者は私だけど、拡張空間ホームをこんな使い方しないで欲しい。
これでは、何のために後任を育てたのか分からないではないか。
「くそぉぉお! アンナの奴、私にばっか仕事を押し付けやがって。何が『合宿の間に溜まった書類です』だ。全部アンナ1人で決済出来るものばかりやん。免許取得出来ひんかったからか!?」
クソクソ言いながら書類を鬼気迫る勢いで片っ端から片付けていく。
サイン+捺印が面倒臭い。
適当にしたら、時々アンナが滅茶苦茶な企画を潜り込ませているので、それも出来ない。
お蔭で速読のスキルがいつの間にか取得していたよ。
「お疲れ様です。レン様、外にも聞こえてますよ」
そう言いながらコーヒーを出されて、私の集中力は一気にダウンした。
赤く長い髪を1つに束ね、爽やかな笑みと共に私の1歩後ろに控える姿はまさに軍人そのもの。
美形に労わられても、全然嬉しくない。
「イーシェンか、コーヒーありがとう。明日も強化合宿は続くんだから、さっさと寝た方がええで」
「会頭が働いているのに、部下は休めませんよ」
イーシェンにそう指摘されて、私は一理あるなと頷いた。
「私の事は気にせんでええよ。いざとなればドーピングしてでも、この演習を完遂させるからな」
しなかったら、アンナにどんな嫌味を言われるか分からない。
「行き成り戦闘訓練でしたから、命が幾つあっても足りませんよ……」
イーシェンは、遠い目をして言った。
「私も同じ心境や。何で私よりもレベルの高い奴らが、うようよ出くわすんか全然分からんわ。キヨちゃんが居てくれなかったら、合宿初日で全滅してたで」
私の膝ですよすよ眠る紅唐白を撫でながら苦い顔で溜息を吐けば、
「そうですね。全滅しかけそうになる度に、雷で相手を動けなくさせて頂きましたから。流石は、太陽神の神使様ですね」
と返された。太陽神の信者ゲットだぜ。
「キヨちゃんがいる時点で最低限の身の安全は確保されているからな。多少手荒な訓練をしても問題ないって事やろう。人を気遣えるだけの余裕があるなら、もう少し厳しくしてもええな」
「それは勘弁して下さい」
「それは、明日やってくる魔物さん達に言ってや」
風呂も入れない1週間の野営合宿は、無事終了したのだが何故か精鋭の軍隊並みに成長した新人を見て、アンナが目を輝かせて第2弾の野営合宿を計画しようとして大喧嘩したのだった。




