116.王家の使い
留美生がアンナを抱き込んで新年会を企画しているのは知っているぞ。
私を通したら「お金が~」ってなるから、直接Cremaの金庫番に直訴したんだろうね。
12月はクリスマスと大晦日、1月は正月、2月はバレンタイン、3月は女の子の節句、4月はイースター、5月は男の子の節句、7月は七夕、8月はお盆、9月は旧盆、10月はお月見。
1年通したら殆どがお祭りやん。
この調子だと、何やかんや言って行事ごとしそうな勢いだ。
アンナに行事にかかる費用は、留美生の給与から出させるように言っておこう。
言い出しっぺはあいつだし、それくらい覚悟しているよね!
元旦、餅つき大会と並行して節料理会は大盛況だった。
新年会の参加者全員に、火の中級魔法が発動する猪のチャームを大量に配っていた。
元はタダらしいので、会社のお金に手を付けてなければ良い。
無限に魔法を打てるわけではなく、回数制限が付いているのである種のお守りみたいなものか。
孤児院の子供たちとチルドルとジャックにお年玉(銀貨5枚)を上げて、アンナと共にお得意様へ挨拶回り。
各ギルド長が集まると壮観だね。
今後、お世話になるかもしれない生産ギルドのギルドマスターも招待した。
来てくれるか心配したが、ちゃんと来てくれた。
「初めまして、生産ギルドマスターのケント様ですね。楽しんで頂けてますか?」
焼酎のグラスを片手に声を掛けると、
「ああ、旨い酒に旨いご馳走。更に火の中級魔法が使えるチャームまで頂いて本当に良かったのですかな」
来場者に対してのCremaからのお年玉チャームを見せながら、聞いてくるケントに営業スマイルを浮かべて言った。
「祝い事は皆で分かち合うものですから、楽しんで頂ければ幸いです」
「このチャームを作ったのは、貴女ですかな?」
「いいえ、私の妹ですわ。私は、薬師なので装飾などは出来ませんの」
ホホホッとお上品に笑って見せるが、巨大な猫を被っているので滅茶苦茶しんどい。
「妹殿に商業ギルドに勧誘したいものだ。これなら、特許も取れるだろう」
猪チャームに興味深々なのか、色んな角度から眺めている。
職人気質なのか、探求心が旺盛だ。
悪いことではないが、今は控えて欲しい。
「それについては、妹に話しておきますわ」
加入するかしないかは、本人の意思次第だ。
武器出なければ、特許申請しても良いかもしれない。
「ジョン様も、リオン様も、是非楽しんで行って下さいね」
「ありがとう。そうさせて貰うよ」
「悪いな。こんなに旨いものを食わせて貰って。新年早々、楽しみが増えたぜ」
バクバクと御節料理を食べまくるジョンに、リオンはお酒を楽しみながら御節料理を食べていた。
色々なアルコールを取り揃えているので、ちゃんぽんして酔いつぶれないと良いのだが、見ている限り大丈夫だろう。
和やかに今年の豊富を語っていると、留美生から念話が入った。
『姉ちゃん、王家からの使者が来おった!! 何でもうちらを王家のパーティに招待したいんやって!』
『何でやねん!?』
『(´・ω・`)知らんがな! 今待たせてるから主催者側まで戻って来てや!!』
『分かった。直ぐ戻るから粗相すんなよ!』
面倒臭いのが来たな!!
貴族関係がちょっかい出してくるかもと思ってたら、本丸が来たのは予想外だったわ。
留美生に隙は見せるなと釘をさし、
「済みません。少し席を離しますので、この後も楽しんで下さいね」
と中座の挨拶をして、かなり速足で留美生のもとへと戻った。
留美生の傍に、慇懃無礼なおっさんが居た。
恰好からすると金を持っている貴族のようだ。
「初めまして、私はCremaの総責任者のレンと申します」
「噂はかねがね王家にも届いておりますよ」
と返された。
うわぁ、面倒臭い。
私の所業が筒抜けってことかー。
どこまで認知しているのか知らないけど、警戒したことに越したことはない。
「ありがとう御座います。王族の方にも認知頂けるとは光栄ですわ」
全然嬉しくないけどな!
「それで、今回はどのようなご用向きで?」
留美生からの念話で大体把握しているが、一応念話が使えることは相手は知らないので問いかけてみた。
スッと差し出された上質な手紙を受取り、中を見ると王家主催の晩餐会への招待状だった。
王印がダメ押しで捺印されている。
受け取りたくなかったわー。
「私のような庶民が参加するのは、不相応なのではありませんこと?」
「新進気鋭の商人と名高いレン様が、スラムを救って下さった事を王は甚く感謝なさっておいでです。心ばかりのお礼をしたいと王はお考えのようです」
ニコニコと退路を断ってくるおっさんに殺意が沸いた。
招待とは名ばかりの実質王命である。
遠まわしのお断りも華麗にスルーされてしまった。
「分かりました。お伺い致しますわ。妹と護衛として従業員を何人か連れて行っても宜しくて?」
「ええ、構いません」
言質は取った。
アーラマンユ教の事があるが、まずは王家の方から片付けよう。
王家の狙いも確認したいし、不利益が出るなら手を回して痛手を負ってもらおう。
物理的に潰すのは容易いが、それをしちゃったら人として駄目な気がするので、それは最後の切り札として取っておこう。
「では、晩餐会の日に馬車を遣わせます」
「ご丁寧にありがとう御座います。楽しみにしておりますわ」
王家の使者は、シャンパングラスをテーブルに置いて立ち去って行った。
あの男、気を抜いたら足元を掬われていた可能性がある。
これは気を引き締めてかからないと。
留美生には、余計な事をせず黙っておくことに徹して貰おう。
夜会当日にアーラマンユ教の教徒が押しかけてひと悶着起こる事になろうとは、誰も予想していなかった。




