112.壺を貰いました
伊勢に着いたら人がごった返していた。
三が日+観光地ということもあって何時もより賑わっている。
「内宮は、夕方に出なおした方が良いかもしれんね」
閉園1時間前に行けば、多少人は空いているだろう。
「そうですね。この混雑だと移動もままなりません」
「んじゃ、外宮を回って神様方に挨拶していこうか」
「はい」
アンナと共にぷらぷら歩きながら外宮を回る。
カンガルーポケットに入っている卵が重たい。
渡された時は子猫が両手にのるサイズだったのに、何か一回り大きくなっている気がする。
ひぃひぃふーと呼吸を荒くしながら、えっちらおっちら歩いていたら妊婦と間違われた。
「妊婦さんなのに大変ねぇ。無理しちゃ駄目よ?」
「頑張って参拝してね」
などなど、行き交う人に心温まるお言葉を頂いたが、私は妊婦じゃねぇ!
隣で笑いを必死でこらえるアンナを睨むが、肩を震わしながら頑張って下さいと誤解を招くようなことを言われた。
外宮も結構広く、外宮の周りにある神社も多いのでスタンプラリーの容量でタクシーを使いながら移動しまくった。
1日タクシーをレンタルした。思ったより安かった。
観光地だからタクシーの貸し切りはよくあるらしい。
5円玉を沢山用意しておいて良かったよ。
銀行の窓口で、5円玉の棒金を10本頼んだら変な目で見られた。
個人の口座から出しているから、一体何に使うんだと思われても仕方がないよね。
全部賽銭ですと心の中で呟いておいた。
棒金1本=50枚なので、5円玉が250枚になる。
全部セロファンを外して、巾着に入れて拡張空間ホームに収納したよ。
卵も拡張空間ホームに収納したいけど、しちゃいけない気がするので我慢して持っている。
腰痛持ちには、拷問である。
アンナに持って貰おうと取出そうとしたら、何故か取り出せない。
ぴたっと服にくっついて離れないのだ。
生まれるまでずっとこのままなんだろうなぁ~と何となく思った。
賽銭を入れ捲り、1つ1つの神社に感謝と今年の豊富を述べて挨拶を済ませる。
内宮の閉園時間が1時間前になったので移動を開始した。
タクシーなのでほんの5分で着いた。
誰かに車の免許取って貰おうかなぁ……。
車があれば、大人数の移動も楽になる。
自分が取るという方法もあるが、実際道路で運転することになったら多分怖くてスピード出せなくて教官に怒られるのが目に見える。
1度、車の免許が取れる年齢の人全員に教習所に通って貰い免許証取得して貰おう。
誰か1人くらいは、取得出来るだろう。
話はそれたが、閉園1時間前なので人もまばらになっている。
内宮も外宮ほどではないが広い。
昔は馬が飼われていたが、今はいないのが寂しい。
別宮を順にお参りし、正宮の前に立った時に、辺りが真っ白になった。
「久しいですね。息災でしたか?」
「はい。お久しぶりに御座います。私を含め、皆無事に一年を過ごし新たな年を迎えることが出来たこと心より感謝しております」
神々しく輝く玉に深々と頭を下げた。
「そなたが行ってきたことは、ずっと見ておりましたよ。かの世界に道を作ってくれたことは、よくやってくれたと褒めましょう。おかげで、無断でこちらへ干渉出来なくさせることが出来ました」
道を作ったというのは、買い取ったスラムに神社を建てたことだろうか?
「あれは、妹や皆の功績も大きいかと思います。私1人では無しえなかったことです。天照大御神様のお言葉を皆に伝えます。喜ぶことでしょう」
「ふふ……良い心掛けです。その気持ちを忘れぬよう精進なさい」
「はい、肝に銘じます」
深く頷く私に、天照大御神は満足だと言わんばかりに鷹揚に頷いたように見えた。
「そなたをここに呼んだのは、渡したいものがあったのだ。あまりこの場所に長く留めるのは、そなたには毒だ。受け取るが良い」
渡されたのは、小さな壺だった。
「これは?」
「そなたが温めている卵が産まれた時に与えるが良い」
天照大御神には、ポケットに入れた卵が何なのか分かっているみたいだ。
聞いたところで答えてくれないだろうと、何となく予感がした。
「分かりました。有難く頂戴致します」
「その中身がなくなる頃には、普通の食べ物が食べられるだろう。後、阿迦留姫命の神使を甘やかすでないぞ」
ヘビ様、俗世に染まっているのがバレちゃってますYO!!
釘刺されちゃったじゃないか。
「出来るだけ善処します」
冷や汗を掻きながら、答えた。
「善処か。あれは癖が強いから手を焼くだろうが、上手く付き合ってたもれ。札をあちらの世界へ持って行くが良い。役に立つであろう」
と言うだけ言って行かれてしまった。
白い空間から正宮のお社が見えて、戻ってきたのかと息を吐いた。
「レン様、また神託を受けられたのですか?」
「うん。お腹の卵のご飯を貰ったの」
そう言いながら壺を見せると、
「行く先々で色々貰ってますね」
と苦笑いされた。
「後、ヘビ様を甘やかすなとも釘刺されたわ」
「一応、あのビルの守り神みたいなものですからね」
「実際は神の使いだけどね。俗世に染まってきたから、ちょっとお供え物は自重しないとダメだね」
天照大御神の後ろ盾もあるし、ちょっとくらい強気な態度を取っても、罰は当たらないだろう。
「何はともあれ神社巡りは終わったし、千葉の工場の視察とディゼニーだ!」
天照大御神から貰った壺は拡張空間ホームにしまい、いざ行かんディゼニーへと意気込む私にアンナが突っ込んだ。
「もう遅いですし、名古屋駅周辺のホテルで1泊してから、朝一で出発しましょう。丁度良い時間に東京駅に着きますので、明日はディゼニーへ行って千葉の工場で1泊して帰宅しましょう」
「OKや! 駅から近いホテルってあるん?」
「予約済みです」
ホテルトットコムの画面を見せられ、しかも1番安いビジネスホテルを予約していた。
この選択が、私の腰をさらに苦しめる結果になるとは思いもしなかった。




