10.妹が無断で爆買いしてました
妹が用意した武器がえげつなかった。サバイバルゲーム<通称サバゲー>で使われるHK416Cカスタム次世代電動ガンと電極銃。姉ちゃん、エアガンとスタンガンを用意してくるとは、思わなかったよ。
これをどう使えと? 使い方の説明書は読んでも理解不能だった為、Your Tubeで使い方を紹介している動画を観て動作を真似てみる。勿論、玉無しでだが。
動画を観る限りだと殺傷能力はないように見えるが、妹曰く直接当たると皮膚を貫通させる威力があるらしい。これは、実践で試すとして要確認だ。威嚇は出来るだろう。
電極銃と言ってるけど、テーザー銃だよね! 確かに安全に遠隔で相手を気絶させられる。下手したら死亡することもあるくらいの威力だ。しかし、妹よ。どこでそんな物騒な知識を仕入れてきたんだい。姉ちゃんは、お前の行く末が怖い。
「電池切れしないように充電器と予備バッテリーは買っておいたから。後、玉切れに注意してね。玉は使い捨てだから多めに買っておいたよ」
ドンッと置かれたビービー弾の箱の山。バッテリーは10個ほどある。
大人買いというレベルではない。幾ら掛ったのか聞くのが怖い。
「す、すごい量だね」
「爆買いは、いつもの事でしょう。アイテムボックスに入れて保管してね。あるだけで邪魔だから」
うん、そう言うと思った。通販のダンボールが一つ置いてあるのでさえ嫌がるくらいだから、この箱の山は相当妹にとってストレスだったに違いない。
片っ端からアイテムボックスに収納していく。アイテムボックス内を見るとビービー弾とテーザー銃の玉の数が異常だった。数の暴力だ。見なかったことにしよう。
「留美生、今後の活動について相談なんだけど良いかな?」
「良いよ」
「今いる町が<始まりの町>ってところでさ、エリアボスのせいでポーションが品切れ状態で手に入らなかったんだよね。だから、次の町に移動しようにも出来ないんだ」
「エリアボスに遭遇したん?」
「うん、ゴールデンリトリバーを1.5倍に大きくした感じの狼。鑑定したらワーウルフだって。ウルフの上位種。一番最初に戦った敵がエリアボスって……糞神死ねよ、本気で」
あの時のことを思い出して思わず怨嗟の言葉を吐いてしまった。
妹がドン引きしているけど、気にしなーい。
「向こうでもストレスが溜まっているんだね。ディゼニーのミッキーで癒されなよ」
手渡されたマイケルマウス(特大)をギュウギュウに抱きしめて、ささくれた心を何とか鎮めた。
「ディゼニーに行きたい……」
「その為にも、異世界で稼いで来てね! あの金貨、純金だったよ。金1g当たり4,691円だった。1枚4.8gだから22,516円になったよ」
サイエスでは金貨1枚1万円と同じ価値だから、地球で換金すると2倍弱の値段になるのか。相場を荒らさない程度に持ち込めば、お財布の中身もウハウハになる。
「花令、顔がゲスイよ」
顔に出てたか。
「でも、ゲスイ考えじゃないと生き辛い世の中なのだよ」
と、言ってみたら可愛そうな子を見る目で見られた。解せぬ。
「万能包丁とゴキスプレーが大活躍したよ。物価は、サイエスの方が高いように思う。魔法とか地図とかスクロールを買って、読むだけで頭の中にインストールされるんだよ! 地図を見てるときVRみたいだった」
「そんな話はどうでも良いから、万能包丁とゴキスプレー買い直した金額払ってね! 持っていかれて困ったんだから」
「……はい」
守銭奴な妹だよ。あれ、私のなのに……。私がお金出して買ったのにぃ!
「向こうでの儲けはどれくらいなの?」
やっぱりそこに行きつくか、妹。六畳一間の半分がママゾンのダンボールで埋まるくらい買っていたからね。
稼ぎは気になるんだろう。特に金貨。
「金貨30枚、銀貨4枚、銅貨368枚、青銅貨426枚だよ。モンスターが素材だけでなくお金もドロップしてくれるのは良いんだけど、金貨や銀貨になると上位種のモンスターじゃないとドロップされないのが辛い。青銅貨や銅貨がどうしても多くなる。アイテムボックスがあって良かったと心底思うよ」
スライムやノーマルウルフは、ゲームで例えるならレア度Cの最下位モンスターだ。小銭しか落とさない。でも、一日中狩っていれば一泊二食付きの宿に泊まれるくらいは稼げる。
だが、しかし! 何故か、私は上位種のモンスターに遭遇するエンカウント率が高い。
それもこれも糞神のせいだ!
実入りも良いが、危険も高い。今のところ契約しているのは、愛ペットの蛇の赤白ちゃんとちゃんだけである。
強いモンスターより、可愛い癒し系モンスターを契約したい。
私は、癒しが欲しいんだ!
「金貨25枚は預かっておくよ。ギルドでお金を預けられるなら、一度預けて引き出す時に金貨に替えれば良いんじゃない?」
「頭良いな、妹よ」
「気づいてなかったんかい」
すかさず突っ込まれてしまった。いきなり異世界移転で何もかもが手探り状態なんだから、仕方がないじゃないか。
「明日、冒険者ギルドに行った時にでも確認しとく。薬草採取すると薬師ギルドの人と約束してるし、スコップとバケツ持っていくけど良い?」
「良いよ。今のところ使う予定がないし。花令は、向こう時間の夕方あたりに帰ってくるの?」
「うん、その予定」
「じゃあ、また一週間いないんだね。毎日二人分の食事を用意するのは無駄だから、作り置きに変更するわ。それなら、いつ帰って来ても対応出来るからね。冷凍食品が出ても文句は言うなよ」
妹の背後は、食事にケチ付けたら殺すと物語っている。怖い。
コクコクと頭を縦に振る私に満足したのか、食事の用意を始めた。




