107.白金貨4枚の行方
私、社長やのに!
全然楽出来ない!!
コフレ売る為に、また缶詰になったよ。
パンジーが、サイエスと日本の自宅を行き来できるようになったのは1番の収穫かな。
炊き出し企画のおかげか、皆の料理スキルが上がっていた。
留美生もお籠りさんなので、女性メンバーが持ち回りで料理してくれてありがとう。
因みにノルマを達成するまでアトリエから一歩も出られない鬼畜仕様。
留美生が逃亡したくなる気持ちが、今なら分かるわぁ……(遠い目)。
現実逃避しても現状は変わらないので、セコセコと化粧品セットを量産した。
出来上がったものは、アンナに渡して商業ギルドへ卸しに行って貰った。
念話で基礎化粧品セットの追加発注があったので、拡張空間ホームの私のフォルダからアンナのフォルダへ移動させておいた。
暫く働きたくないでござる。
なんて舐めたことを言いました。
ごめんなさい。
年末なんで年末調整しないといけない。
アンナに任せっきりだったが、どうも白金貨4枚合わないという事態になり、私も帳簿を洗ってみたが確かに足りない。
誰かが勝手に使ったことになる。
フォルダ内は、誰もがアクセスできるようになっている。
だから誰かが使ってもおかしくないのだが、宣誓魔法を行使している者が使ったとは考えにくい。
不正で着服しようものなら死ぬのが分かっていて使う馬鹿はいない。
消去法で考えると、留美生が使ったとしか考えられない。
アトリエに籠っている留美生を引っ張り出して、リビングへ連行。
無理やりソファーに座らせ仁王立ちで問うた。
「留美生、私に何か言う事はないか?」
「いきなり何言い出すねん。何もないわ。てか、まだノルマ残ってんねんけど」
若干キレ気味に返された。
ほうほう、言い逃れする気か。
帳簿を見せて、ある数字をトントンと指で叩いた。
「あんな、この数字が何か分るよな? 白金貨4枚足りんねん。アンナと何度計算してもな。着服出来るのは、あんたしかおらん。もう一度聞くで、身に覚えはないんやな?」
ニッコリと笑みを浮かべて留美生の目をじーっと見つめたら、明後日の方向を向いてゲロった。
「……ちょっと入用で~」
「白金貨4枚いうたら日本円で4千万円相当や! 何がちょっと入用やねん!! 会社の金を私用で使うアホは要らん。契約解除して日本に送り返すぞ」
ふざけた答えにブチ切れて、留美生の胸倉を掴んでギリギリと締め上げる。
「ちょっ…く、くる…し……」
「はあ? 今すぐ金を返せ」
胸倉を掴んだままガクガクと前後に揺さぶる私に、アンナが待ったを掛けた。
「それ以上したら留美生様が死にます。これからという時に、死なれたら企画が頓挫しますよ!」
そう指摘され、パッと手を離すと留美生は地べたに転がりゲホゲホと咽ていた。
「アンナに感謝せーよ。それで何に使ったんかキリキリ吐け!」
ドカッとソファーに腰を下ろし、蔑んだ目で留美生を見やる。
プルプルと震えながら、
「会社のお金勝手に使って済みませんでしたぁー。スラムで炊き出ししてた時に、ストリートチルドレンの集団を見つけてん。レアスキル持っとる子もおったし、リーダ格の子が私の下僕になったから、その勢いで囲いました!」
「ふーん。それで? 白金貨の行方はどうなったん?」
「衣食住提供する為にお屋敷買いました。勿論、曰く付きで叩き売りされたのを値切って買ったんやで。後は、彼らの食費や家具や雑費とかに消えた」
頭が痛くなってきた。
ワウルといい、何でこいつは変なものを拾ってくるんだ!
白朱ちゃんは良いとして、人間を拾うのは止めろよ。
「人間はペットじゃねーんだから無暗に拾ってくるな」
「うっ……でも、でも! 花令だって後任の人材探してるやん。私だって後任を探してもええと思う!」
「探すのは自由や! で・も・な!! 勝手に会社の金使って良いとは言ってへん。お前がしたんは着服や。日本やったら犯罪で捕まるで」
「……ごめん」
しくしく泣きだした留美生に、漸く事の重大さが分かったようだ。
この阿呆は、言い聞かせても何処かすっぱ抜ける。
特に常識が!
「今回は青田買いで従業員を雇うための投資ってことで処理したる」
私の言葉に、留美生の顔がぱぁ~って明るくなる。
「2度はないからな」
次したら私刑確定だと宣告したら、青ざめていたよ。
留美生が青田買いした子供たちは、総勢21人。
今回の炊き出しで留美生は、スラムの人たちと良好な関係を築いたことだけは評価できる唯一だった。
スラムの現状と困窮脱却からの仕事斡旋の確約を勝手にしたことも叱り、サイエスでも事業拡大のためにスラム街の土地を買い上げて立て直し作業を行うことにした。
スラム一角が私の下僕と化し、留美生が切っ掛けで太陽信仰が急速な勢いで広がっていった。
私は、知らず知らずの内に一個師団の軍団を得ることになった。




