106.私達に優しくない会社
ヘビ様のご機嫌を取るのに必死だったこの3週間。
不在票が入ろうものなら激おこになるので、おちおち外も歩いていられない。
日付・日時指定して、それ以外にコンビニでご飯を買いだめする日々。
留美生達はどうしているんだろうと、目が遠くなった。
社長業も勿論こなしている。
必然的にアンナが担っている事務作業をしないと回らないので、ポーションと化粧品を作る傍ら、社員に顎で使われながらセコセコ働いていた。
取材やテレビ出演の依頼も来るが、全部お断りしている。
従業員と私達の生活費+貯蓄が出来るくらいのお金が稼げれば、それ以上稼ぐ気がない。
大々的に宣伝しないから、本当に口コミで買いに来る方しかいない。
ネットだと予約待ちになることもあるが、店頭では入手出来るようにしている。
肌の悩みや状態チェックをするので1人にかかる時間は長い。
1日400セット分は用意している。
今まで400セットは売れてないので、今のところは十分な在庫だろう。
クリスマスコフレ用の化粧品セットを限定1000個用意した。
問合せ先は店舗の事務所に設定しておいた。
店頭での購入も可能だが、売切れ次第終了となる。
値段は少しお安めの7万円。
口紅(3種類/選択可)・チーク・グロスと留美生印のパーティーバッグだ。
斜め掛け出来るバッグになっている。
ビジューが雪の結晶を模様していて可愛く仕上がっている。
クリスマス1週間前に出すとか鬼だろうと言われたが知らね。
12月20日に朝礼に出て販売の告知をしたら、前もって言えと怒られた。
ガチ思い付きでしたことだから、本当にクリスマスコフレを売るとは思わなかったんだよ。
と、心の中で言い訳をした。
店長にクリスマスコフレの在庫1000セットを渡して、後は頼んだとサイエスへ高飛びした。
久しぶりに皆と合流したけど、彼らの感覚では1週間も経ってなかった。
そうだよね。
知ってたさ。
「Cremaでクリスマスコフレを1000セット売るように指示出しておいたよ。後、はじまりの町で基礎化粧品セットの特許取ってきた」
「何割でですか?」
「3割」
アンナの問いに答えたら、鬼の形相になった!
「何で3割なんですか!! そこは7割でしょう!!!!」
怒髪天と言った感じで怒る怒る。
「基礎化粧品セットの作り方が分かったところで、私の基礎化粧品セットには負けると思うで。それに、色んなところから基礎化粧品セットが売れれば市場が回るやろう。7割にしたら特許申請した意味ないやん。競争相手が居て、初めてブランドや実績が出来るんやし安くないと思うけどなぁ。後、裏技で上級ポーションのスクロールと打ち身の薬のスクロール貰ったから、良いんちゃう?」
特許申請したから、これから粗悪品の化粧品セットが出回るだろうが、花令作の化粧品セットの名が売れると思えば安い宣伝費だ。
「私も花令の3割は妥当やと思うで。高すぎると意味ないしな。定期的に特許料が振込まれるんやろう?」
「うん。Cremaに入るようにしといた。会社が潰れん限り永久に入るで」
特許料の振込先を私個人にしたら死後は払わなくて良い状態になるので、それは避けたい。
残った者達が困窮しないためにも、少しでもお金が入るならば悪くはない選択だ。
「花令もちゃんと考えてるやん」
留美生が、親指を立ててグッジョブと言ってくる。
「そっちの成果はどうやったん?」
「クラムチャウダー・カレー味を提供したわ。スラム街はゴミと交換して炊き出したで。自力で来れへん人の為に、屋台を引きながら回ったで」
「庶民では、銅貨3枚で販売しました。留美生印のスプーンを持ち帰れるようにしております」
留美生とアンナからの報告を聞く。
留美生は、完全に慈善事業をしている。
アンナは、スーベニアを真似て販売しているが赤字にはなっていないだろうか?
「アンナの方は、スプーンが付くんやろう? 赤字にならんかった?」
「大丈夫です。スプーンのおかげで完売しましたので、赤字にはなりませんが黒字にもなりませんので±0ですね」
「2人とも絡まれたり、いちゃもん付けられたりせんかったか?」
「私んところは、ゴロツキがいちゃもん付けてきたから適当にボコって転がしたわ」
「私のところでは、スプーン目当ての方が何回も並ぼうとしてましたね。お断りしましたが」
多少のトラブルはあったみたいだが、順調だったようだ。
「レン様、クリスマスコフレはこちらでも販売するんですよね?」
アンナの目が¥になっているYO!
「いや……予定はない、で?」
「はぁ? 何言っているんですか!! こちらも売り出しましょう。年始に向けてお祭りがあるんですよ!! 丁度、財布の紐も緩んでくる時期ですので売り出すべきです」
はぁ? って言われた時の顔が、滅茶苦茶怖かった。
目で人を射殺せるんじゃないかと思うくらいの眼光だ。
「留美生にコフレ用のバッグ作って貰わんとあかんし……」
「複製スキル持っているから時間は掛かりませんよね? やりましょう。取敢えず1000セットでお願いします」
複製スキル使う時、少なからずMP消耗するんですが!
「「そんなん無理やー」」
半泣きになりながら留美生とシンクロして拒否したが、
「何言っているんですか! かき入れ時ですよ!! 今、販売しなくて何時販売するんです。売れる時に売るが商人たる心構えですよ」
と力説された。
こうなると梃でもアンナは動かない。
「「はい……」」
暫く留美生と一緒に馬車馬のように働くのか。
誰だよ!
社長に優しくないブラック企業を作ったのは!!
アンナのゴリ押しで私と留美生はクリスマスコフレの制作のため缶詰になった。
缶詰になる前に、パンジーに自宅の合鍵を渡しヘビ様のお供え物とお社の掃除、部屋の掃除をお願いしておいた。
こうして、私と留美生に優しくない会社はスクスクと業績を伸ばしていくのだった。




