103.はじまりの町へカムバック
はじまりの町に戻ってきたよ!
本格的な冬になっていた。
王都は、比較的暖かい方だったと気づいたわ。
空調完備搭載のコートじゃなかったら、自宅に引き籠っていたわ。
蛇ズにも防寒用の何かを作ってあげないとダメだな。
行動範囲が広くなったとはいえ、途中で寒さで動きが鈍くなったりしたら命とりだし。
善は急げということで、電話してみたが出ない。
忙しいのかな?
炊き出しするとか言ってたし、メニューの考案とか買い出しで忙しいのかも。
伝言に吹き込みし、メールでも一応送っておく。
ネットサイコなお姫様に絡まれて炎上してた関係でメールチェックしなくなったから、ちゃんと気付いてくれるか心配だよ。
今回の目的である薬師ギルドに行くと、案の定誰も居なかった。
スチャッとマイクのボリュームを最大にしながら大声で怒鳴った。
「すみませ~ん! 誰かいませんか~~」
「うるさいっ! 毎回毎回怒鳴るんじゃないよ」
バンッとドアが開いていきり立つ婆に、マイクを仕舞いながら手を振った。
「お久しぶりです」
「久しぶりだね。今日はどうしたんだい? セブールに行ったと聞いたが」
「巡り巡って王都まで行ってきましたよ」
大きな溜息を吐く私に、婆は何か察したのか応接室に通して茶を入れてくれた。
「セブールで何かあったのかい?」
「冒険者ギルドからCランクの昇級試験を受けるように言われて行ったんですが、そこのギルマスが最悪で……。不正の宝庫でしたよ。その報告に王都へ行く羽目になりました」
これまでの経緯を簡単に話したら、婆の顔が般若になった。
鬼婆降臨したYO!
「セブールの冒険者ギルドマスターは、ダリエラだったねぇ。レオンハルトに文句を言うか」
ドスの利いた声が、さらに凄みを増している。
一体何者なんだ、この婆さん。
「あー、そっちは私から報告しときます。アイテムの買い取りもありますし、そのついでに。というか、婆さんは冒険者ギルドマスターと親しいんですか?」
「私が、ここのギルドマスターだ。昔は、王宮薬師マーリンと名高かったんだよ」
ふふん、と威張る婆さん。
全然そんなに偉い人に見えなかったわ。
「王宮薬師が、こんな辺境でギルドマスターしているなんて……左遷でもされたんですか?」
「誰が左遷じゃ! 老い先短い老後を有意義に過ごそうとした結果だよ」
くわっと目を見開き、全力で否定された。
恐らく図星だったんだろうなぁ。
このネタで弄ったら烈火のごとく怒りそうなので聞かなかったことにしよう。
「それで、今日はどうしてここに来たんだ?」
「ほら、前に基礎化粧品セットのレシピの特許を取らないかって言ってたじゃないですか。それで来ました」
そう言うと、何か複雑な顔をされた。
解せぬ。
「それは嬉しいが、普通は王都の薬師ギルドで特許を取った方が実入りは良いと思うぞ」
「あそこのギルマスが、上から目線でレシピを寄越せって言ってきたんで断りました。そんな奴に渡すくらいなら、最初に約束したこのギルドで特許を取った方が千倍マシです」
実入りも大事だけど、ぶっちゃけ王都の薬師ギルドのギルマスが気に入らなかっただけである。
「あんたも言うねぇ。王都の薬師ギルドのギルドマスターは貴族の出だから、上から目線なのは仕方がないさ。ここでレシピの特許を取ってくれるなら、こちらとしても嬉しいが身辺には気を付けるんじゃぞ」
言葉にはしなかったが、報復をされるかもしれないと暗に示唆された。
「ご忠告ありがとう御座います。私に直接来てくれると叩きのめし甲斐があるんですがね。流石にSランク相手だと、私の周りを狙いますよね」
従業員たちのレベリングブートキャンプが必要になってきた。
これも、要報告だな。
「どんな方法でそんな短期間でSランクになったんだい」
呆れを通り越した目で見るのは止めてくれ。
なんか心に刺さる。
「1人でゴブリンを殲滅したりとか? 高ランクのモンスターを狩りまくったりしていたら、ランクに合わないからってジョン・タイターって人と模擬戦しましたね」
実際には、私と戦う前に留美生に致命傷を負わされ危うくあの世へ旅立ちそうになってサクラのヒールで一命を取り留めた。
その後に、(自称)パーティ最強の私を相手するのは分が悪いと思ったのか、戦わずSランクになった。
所謂、これが棚から牡丹餅ってやつだな!
「あんたが出鱈目なのは分かったよ。それで、レシピの特許だが売上の5割があんたの取り分になるが良いかい?」
以外と取り分が多いのに驚いた。
それだと、基礎化粧品自体の値段が跳ね上がる。
「いえ、3割で良いです」
「太っ腹だね」
「その代わり、上級ポーションのスクロールがあるなら貰えませんか?」
元王宮薬師だったマーリンなら上級ポーションのスクロールくらい持っているだろう。
「成程ね。そういう事かい」
「そういう事です。長い目をみたら悪い話じゃないと思うんですけど?」
利益は基礎化粧品セットで十分出ているし、競合が出てきても(良)や(極)を出せば良い。
化粧品セットや洗髪セットもあるしね。
マーリンは少し考えた後、その内容で是と了承した。
「スクロールを作るのに時間が掛る。ギルドランクも自動的にAランクになるぞ」
「この町でまだすることがあるので大丈夫ですよ。ランクに関しては問題なしです」
「本当は、こういう方法は避けたかったんだがねぇ。レシピの特許取得と特許料を考えると、おつりが来るくらいだ。スクロールを作るのに1週間はかかる。1週間後に、ここに来てくれ。その時に一緒にランクアップさせる」
「了解しました!」
ビシッと敬礼してみせると、ついでだからとポーション作りを強制させられました。
中級ポーションまで作れると知って、冒険者ギルドへ報告後どこから沸いたのか拉致されて延々とポーション作りをさせられた。
MPポーションを飲みながら作業をし、スクロールが出来た1週間後にはズタボロになっていた。
マーリンは鬼婆だと再確認した。
ランクアップの手数料やら特許申請の書類やらを揃えて、漸く開放された私が一番最初にしたのは宿を取って自宅に戻って寝たことである。
風呂に入るとか以前に、寝たかった!
日本でも蟻のように働いているが、始まりの町の薬師ギルドはブラック過ぎた。
「もう二度と寄りたくない……」
私の嘆きは、叶うことはなくマーリンとは何かと縁が出来るのだった。




