98.運営は面倒だらけ
正直に言おう。
店舗なんて構えるんじゃなかった!
丸投げするには時期尚早なので、サイエスに行く時間がない。
目が回る忙しさとは、この事を云うのだろう。
経営を舐め切ってました、ごめんなさい。
最初から忙しかったが、色々と手を出したせいか時間との格闘で今の私の現状を漢字二文字で表すなら『忙殺』がぴったりだと思う。
留美生は、自分の人員確保出来たから、ソファーに寝ころびスマートフォンをピコピコしながらゲームをしていた。
「株式会社Cremaもオープンしたし、早いとこ落ち着いて欲しいわぁ」
それな! 本当切実に思うわ。
アンナのスパルタ社員教育に耐えた彼らなら、1年程あれば手が離れると思いたい。
「工場の方はどうなってるん?」
店舗運営が忙しくて、工場の視察に行けてない現状が歯がゆい。
「半分ほど進んでいますが問題がいくつかありますね」
アンナがスケジュール帳を捲りながら答えてくれた。
「マジか!?あぁ…会社運営すんの面倒臭いわぁ」
ブツブツと愚痴を零すと、
「馬車馬のように働いてくださいね。」
アンナがとっても良い笑顔で脱走するなよゴルゥァア、と念を押されてしまった。
留美生じゃあるまいし、脱走なんてしないよ。
したら、仕事が山積みになっているもん。
残業代付かないのに、やっすい役職手当だけしか貰えないんだから、如何に残業せず効率よく働く事しか考えてません。
「花令、留守番組は放っておくん? もう結構日数経ってるし暇してるんとちゃうかな? こっちの時間とサイエスの時間は流れが違うさかいアレやけど。うちもノルマ達成してるし、向こうへ行ってレベリングしてきて良えか? てか、あのウザイ奴等はどう対応するん? きっと繋がり欲しがって纏わり付いてくるで!?」
嫌なことを思い出したジャマイカ!
あのクレクレ集団かー。
相手にしたくないでござる。
かと言って、サイエス組を放置するのは勿体ないんだよね。
化粧品セット・基礎化粧品セットのストックはあるから、アンナに管理を任せて一度サイエスに戻って基礎化粧品レシピの特許を取りに行かないとなぁ。
始まりの町まで戻るのか……タルいな。
「…そうやね、一度ちゃんと考えへんとな……てかアンタが厄介事を持って来なければこんなに悩まんですんだんやで!?」
「あんな再会があるとは思わへんやん。後ろ盾とかあれば、また話は別になるんやろうけど……頑張れ!」
と無責任なエールを送られ、条件反射でハリセンでしばいた。
頭を抱えて転がりまわっている。ざまあ!
「取り敢えずはアンタはサイエスに行ってレベリングしてきて良えよ。しかし! 絶対に変なトラブルに巻き込まれんなよ!」
留美生が何か言いたそうにしていたが無視して、アンナと仕事の話を始める。
「店舗の方は、アンナのお蔭でどうにか回ってるし。ここは、定期的にチェックすれば良いわ。住込みの住民トラブルもないしな。部屋を3畳から6畳に変更して良かったわ。女性が多い職場やし、退職は出来るだけ避けたいな。寿退社なんてされたら、目も当てられへんわ」
クローゼット変わりに各部屋に机・椅子・ベッド・ロッカーを配置した。
ベッドは勿論、収納引き出し付きのタイプである。
当初は25部屋に共有のリビングダイニングとトイレ・風呂の予定だったが、20部屋に変更した事でリビングダイニングの広さを確保することが出来た。
残念なことに、社員寮は独身のみしか入れないので必然的に既婚者は通いになる。
新店舗は男性社員が3人しかいないんだよなぁ……。
男性社員は全員通いだが、住宅補助を出しているから文句は出てないようだ。
未婚の女性が多く働いているので不倫などの倫理に触れるようなことはご法度。
勿論、問題が出たら即クビと入社前に説明してある。
結婚後も働けるような体制を作らないといけないが、これは後の課題になるかもしれない。
家族で入れる寮兼保育所も欲しいところだ。
「そうですね。新しい人材を雇うにしても即戦力にはなりませんからね。妊娠出産しても働きたい良いような体制作りが必要かと思います」
「言えている。産休や育児休暇も取れるようにしたいけど、その間を埋める為だけの使い捨ての人材は要らんしな。それなら、バイトを雇って、将来的に就職して貰えるように出来るようにする体制もありやな。それか、このビル周辺で手頃な中古マンション買って社員寮兼保育所を作れば復帰も早くなるかもしれんで」
私には縁のないことだけどね。
アンナもこの先、結婚とかあり得るわけだし、アンナを後釜に据えるのも良いかもしれない。
「そうですね。今直ぐの問題ではありませんが、店舗が軌道に乗ってから、実行するのも良いかと思います。1年くらいは、じっくり育てたいですしね」
鬼や。
ここに鬼がいた。
厳選した人材を磨いて、新店舗の店長とかに据えるつもりだ!
「経理や事務に特化した人も欲しいしな。店舗の方は大丈夫やろうけど、千葉の工場は人数も多いし、アンナ1人だけやと困ることも多いやろう」
「キャロルの暗算は凄いですし、ルーシーの暗記力も抜群ですから、彼らに経理を叩き込めば良いのでは?」
「確かに。だけど、それでも人は足りんから事務に特化した人を雇う必要があると思うねん。それとは別に、今は会社自体大きくないから不正とかないとけど、これから大きくなると不正やイジメなんか出てくるかもしれん。常に目を光らせるなんて出来るわけやないし、アンナと同じくらいの人材が最低でも2人は欲しいわ」
「では、追加で奴隷を買いますか?」
何でそんな発想になるかね、アンナさん。
米神をグリグリ押しながら、大きな溜息が漏れた。
「何でもかんでも奴隷に結び付けたらあかんで。アンナの後任になる人物は、人を雇ってアンナが育てること! 私の後任も、会社で一番優秀な奴に譲る。サイエス組も含めて厳選するからな。もし、サイエス組の誰かが後任になった場合、日本で骨を埋める覚悟が必要になるけどな。頷いてくれるかは別問題として、今から後任育てなあかんのか……鬱や」
「何1人で隠居を考えているんですか。働けるうちは馬車馬のように働いて貰いますよ」
私のボヤキにピシャリと却下した。
ちょっとくらい夢見ても良いじゃんと思ったが、笑顔なのに全然目が笑っていないアンナを前に、私は口を噤んだ。




