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「だから祭りの準備をするときは、みんな面をつけて鬼になるというわけだよ」
「な、なるほどそういうことか――普段はみんな普通の人たちなんだね。あっ、もう一杯お茶もらえるかな?」
タモツと名乗る鬼は湯呑を受け取るとポットの茶を注いだ。
己の末路を想像すると震えが止まらない。落ち着くために飲もうとした茶だが結局喉を通らなかった。
食器を盆の上に片しながらのんきに鼻歌を鳴らしているタモツに「人肉を食った者がもう普通の人間であるはずないだろうがっ」と叫んでやりたかったが、今は口に出してはいけない。もし口に出すのなら別の言葉だ。
だが、面の奥に見える瞳から何の感情も読み取れず、言っていいものかどうか迷った。
いや、イチかバチか思い切ってみよう。
「ねえタモツ君。面外してもらえないかな。祭りはまだだ。いまは鬼にならなくても良いだろ。わけもわからず理不尽な目に合ってこのまま生贄なんて私をかわいそうだと思わないか。せめて少しの間だけでも鬼じゃなく人と触れ合いたいよ」
涙を浮かべて懇願してみた。
「えーっ、うーん――ほんとはダメなんだけど――でも――わかった。いいよ。そのかわりテツさんには絶対内緒だよ」
よし。彼にはまだ期待が持てる。
タモツが面の紐を解くと下からまだ少年の面影が残った色白の若者の顔が現れた。
嬉しいよと伝えると無邪気にほほ笑んだ。
まるで聖堂の壁に描かれた天使のようだった。




