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――座ったまま眠っていた。
体を動かすとあちこちが軋んで痛い。腹が減って胃も痛かった。
ごとごとという音とともに再び引き戸が開いた。
「おにぎり持ってきたよ」
木村の声ではない、若い男の声がした。
裸電球が点くと顔が見えた。やはり鬼面が張り付いている。
男が盆を置くのを待ちきれず、私は両手に握り飯をつかんで頬張った。
「喉詰まるよ」
男はポットのお茶を湯呑に入れながら笑った。
指についた飯粒の一つ一つをついばむ私の前に湯呑を差し出す。握り飯がなかなか喉を流れていかず、水気を欲したが、目の前のそれを取る気にはなれなかった。
いよいよ生贄にされるのか。
その中に眠り薬か毒が入ってるんだろ。それとももう握り飯に――
そう思っても言葉にできず、面の奥の目を見つめた。
澄んだ瞳が自分を見つめている。
「大丈夫だよ。どっちにも薬なんて入ってないから。祭りはまだまだ先だもん」
男は私の意を察し、笑って答えた。
嘘か本当か迷ったが、どのみち死ぬのだ。思い切って湯呑を受け取り、茶を流し込んだ。うまい茶だった。
「米も茶もうまいな」
ため息が思わず出てしまった。
「でしょ。この村はいい米できるし、いい茶葉もとれるんだよ」
土蔵に閉じ込められていなければ楽しい気持ちになったであろう。それくらい鬼の声は明るく軽快なものだった。
「そ――そうか」
「それにテツさんの姉さんの炊き方もうまいしね」
「テツさん?」
「あんたを連れてきた人。姉さんはアサコさんっていうんだ。お茶を入れたのもそうだよ。それに料理もね。卵焼き、おいしいだろ」
盆の中を見ると卵焼きの乗った皿も入っていた。手でつまみ口に入れる。ネギが入っていた。
「うん。うまい」
男の目が卵焼きに注がれていた。
「食うかい?」
「だめだよ。これはあんたの分だもん。
うらやましいよ。ぼくたちめったに姉さんの卵焼き食べられないもん」
「そうか。私はもういいから食べていいよ。腹が空きすぎて胃が痛くてね。もうやめておくよ」
もしかしてこの男は私の味方になってくれるかもしれないと算段をつけた。
男はうまそうに卵焼きを頬張る。
「君の名前は?」
「タモツ――あっ、名前言っちゃあいけなかったんだ」
「へえ、なんで?」
「鬼は人の名前名乗っちゃあいけないんだ。だって鬼だから」
「でも、それお面だろ。本当の鬼じゃないじゃないか」
「お面つけたら鬼になるんだ。だから人を生贄にしてもいいんだよ。だって鬼だもん」
「どういうことなのかな」
「うーん。この村のことは人に話しちゃいけないんだけど――まっいいか。卵焼きのお礼だよ。
ぼくのおじいちゃんから聞いた話なんだけど――




