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私の夏季休暇に合わせ、早朝から駅で待ち合わせて木村の実家があるという村に一緒に旅立った。
話題の豊富な木村のおかげで長時間の旅も苦にならなかった。乗り継ぎを繰り返し、途中で買った駅弁を楽しみ、誰もいない秘境の駅に降り立ったのは午後三時過ぎだった。
そこから公共の交通手段がなく、村の車が迎えに来ていた。泥が激しくこびりついたジープに少々驚いたが、切通のようなぎりぎりの通行幅やでこぼこの地道、伸び放題の枝葉を跳ね飛ばしながらの道のりを経験して納得した。
約三時間後、夕焼け空に浮かぶ山に囲まれた村が木々の隙間から見えた。小さな集落だが豊かに栄えていることが雰囲気でわかる。
木村家はその中で一段と大きく、屋敷も蔵もそれを囲む塀もみな真っ白で夕焼けに染まっていた。
屋敷では木村の両親と姉が迎えてくれた。誘われたとはいえ厚かましくやってきた私を木村に似た優しい笑顔でもてなしてくれる。
笑顔は木村家の遺伝かと思ったが、顔見せに訪れた村人たちもみな気持ちの良い笑顔をしている。
山深い田舎の人間は偏屈だとずっと思っていたが、それは私の偏見だった。
次の朝、木村と一緒に村を囲む山の一つに登った。
確かにあまり高い山ではなかったが、登ってみるといつも歩く山々より斜面が急で、足場を探して進むのは結構きつかった。
途中、苔むした大きな岩に座り休憩した。
「見た目よりきつい山だね」
私は汗を拭きつつ荒い息を整えた。
「そう?」
木村は平然としていた。持参した水筒から金属製のコップ二つにお茶を注いでいる。その一つを手渡してくれた。
「思ったより急だよ」
そう言って、私は冷たいお茶を飲み干し、「ところでほんとに動物いないね。鳥の声もしない。お守りってなんなの?」と訊いた。今後の登山のために自分も欲しかった。
木村は破顔した。
「そんなのないですよ。実はこの山、動物がいないんです。鳥も虫も」
「えっ?」
木村の話ではこの山は神の山だという。頂上に小さな祠があり山自体を祀っているらしい。そのせいか生き物はいないというのだ。
そんなことないだろうと思いつつ、「すごい神様なんだね。じゃ、よそ者なんか登っちゃだめなんじゃないの?」と私は笑った。
「ほんとはね。でも――」
木村は自分のコップの中のお茶を捨てた。
その時、背後からがさがさと音がした。
振り向くと木立の間からつるんとした肌の赤い色の顏がいくつも見えた。額に二本の角と、かっと開いた口には上下合わせて四本の牙がある。
鬼?? うそだろ――
木陰から出てきた数人の鬼がゆっくり私のほうに向かってくる。
咄嗟に逃げようとしたがふらついて転んだ。立ち上がろうとしても立ち上がれない。
私を見下ろす木村の優しい笑顔がだんだん霞んでいく。
視界が閉ざされる瞬間、木村の背後から自分を見下ろす鬼たちの顔も見えた。




