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痛みが意識を引き戻した。一瞬気を失っていたようだ。
「ああよかった、死んでなくて。死んだらもうこの顔は見られないからね」
タモツが黒く染まった石を振り上げる。
「や、やめてくれ」
逃げようにも体中が痛くて動くことができない。
面を着けてもいないのにタモツの顔は冷酷無残な鬼そのものだった。
その鬼が私の腹にまた石を振り落とす。
ぐぼっ。
もう何度目なのだろうか、血の混じった吐しゃ物が口から噴き出た。
やめてくれ。いっそ殺してくれ――
そう叫びたかったが、小さな子供のように怯えすすり泣くことしかできなかった。
タモツにとってはそれが愉快でたまらないのだろう。私の顔を覗き込む目がきらきらと輝いている。
「次はどこに落とそうかな」
ボールでも拾うかのようにいそいそと石を持ち上げ、顔に狙い定める。
息を呑む私を見て、さも楽しそうに笑い「うそうそ、顔はまだつぶさないよ。だって面白い表情が見れなくなるもんね。
んー、どこにしようかな。もう一回お腹に――
――やっぱり顔にしよう」
タモツは泳がせていた石を顔の真上に戻し、思い切り振り落とした。
とっさに顔を背けたが側頭部に当たった激痛で目の前が暗転し、気が遠くなっていく。
痛みが頭の中で脈打ち、そこにタモツの笑い声が追い打ちをかけた。だが楽し気な笑い声が急に止まった。
「テツさん?」
その声に薄目を開けると、松明を持つ鬼たちに囲まれ、驚いた顔のタモツとその腕をつかむ木村が見えた。
とうとう見つかったか――
薄れゆく意識の中で失望と同時に安堵も感じている自分がいた。
「面倒をかけてくれましたね」
木村が私の顔を覗き込んだ。
あんたに言われたくないよ。
そう言い返したくても声が出ない。
だが、木村への憤りがまだ消えていないことが生きている証のようで嬉しかった。
それもじきに終わる。このまま気を失えば私は確実に生贄にされ、もう二度とこの世を見ることはないだろう。
最後まで気力を保ち、縁もゆかりもない者たちに一体何をされるのか、なぜそれをされなければならなかったのか、恐怖に脅かされてもきちんとこの目に焼き付けなければならない。そして死してなお恨みつらみを募らせ私自身が鬼となり、いつか必ずこいつらに目に物見せてやるのだ――そう強がってはいたが、ともすればふっと闇のほうへと引きずられそうになる。
「大丈夫ですか?」
心配そうな木村の声に一瞬意識が戻った。
何が大丈夫ですかだ――
唾でも吐いてやりたいが、だんだんと木村の声も周囲の喧騒も遠ざかっていき、今度こそ確実に闇の中へと引きずり込まれていった。




