8
8
タモツが教えてくれた通り、暗いほうに向かって民家の陰を進んでいくと誰にも見つかることなく村の出口に到達した。雑木林の間にある山道は歩くには険しそうだったが脚には自信がある。このままうまくいきそうで心が逸った。だが、油断してはいけない。
遠くに見える松明の明かりの動きから、まだ私の脱走には気付いていないようだ。このまま山道を下っていけばいいのだろうが、ばれた時はあっちの脚のほうがはるかに強く、一瞬で追いつかれてしまうだろう。
姿を隠しつつ、しかも迷わないよう道を下るため、細心の注意を払って村の外へと一歩を踏み出した。
――雑木林の中で完全に迷っていた。
今はもう上っているのか下っているのかさえわからない。
見つからないようにと林に隠れ、木々の間から月光に浮かぶ道に沿って確かに下ってはいたのだが、いつの間にか道を見失ってしまっていた。焦りでむやみやたらに動いたのもまずかった。
松明が見えず確認できないが、いくら何でももうばれているだろう。
タモツはどうしているのだろうか。彼が逃がしたことは一目瞭然だ。うまく言い逃れしてくれていればいいが、聞かれれば素直に自分のしたことをしゃべってしまうだろう。私のためにひどい罰を受けるのはかわいそうだ。だが、今は人の心配をしている場合じゃない。
もしかしてこのまま遭難してしまう可能性もある。まったく本末転倒だ。
ああ、腹が減った。喉も乾いた。あの握り飯とお茶が飲みたい。今までうまいものをいろいろ食ったが真っ先にあれを思い浮かべるなんて皮肉なものだ。
「あっ」
急に足元の地面がなくなり斜面をすべり落ちた。
落ち着け。落ち着くんだ。
幸いどこにも怪我はなかったが、気ばかりが急いてパニックになりそうだ。叫び出したい衝動にかられたが、そんなことをすれば自分で見つけてくれと言ってるようなものだ。
遭難も嫌だが生贄にされるのはもっと嫌だ。
立ち上がると深呼吸して息を整えた。
木の上に登って方向を見定めようかと考えていた時、微かな人声が聞こえた。十数メートル後方に松明の明かりが揺らいでいる。集団ではなく二人か三人だったが、腰を落とし、身を縮めた。
のろのろしていたら捕まってしまう。とにかくこの場から離れなければ。
腰を曲げ、頭を低くしたまま足元に注意して火の見える反対方向へと急いで移動した。
だが、私の進む距離よりも松明の動きのほうが早い。まだ見つかってはいなかったがすぐ後ろまで迫ってきていた。
見つかるのも連れ戻されるのも時間の問題だ。
とにかく逃げられるところまで逃げてやろう。
そう決心して立ち上がり木々の間を縫って思い切り走った。枝に顔を打たれても、倒木や根っこに足を取られ転んでもすぐ立ち上がり走り続けた。山を下っているのかなんてもうどうでもいい。捕まりたくない。ただそれだけだった。
突然目の前の木の間から松明の火が見え、影を落として鬼が一人現れた。
ああ――もうおしまいだ。
絶望のあまりその場で膝が崩れた。
「まだこんなところにいたんですかあ?」
のんきな声が上から降ってくる。
顔を上げると面をずらしたタモツが私を見下ろしていた。




