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凍った湖面を、音を置き去りにして、俺は走った。マクラ、ラスタは空を飛び続く。遅れて、マリンも追随する。
近くで見ると圧倒されそうなほどのデカさを感じる。その巨人の口が開き光りだす。俺はジャンプして、巨人の顎を思いっきり蹴り上げた。その影響で、巨人の口が上を向き、放たれた光は天空へと消え去った。
すぐに巨人は顔を下に向け、邪魔したものを探し始めた。
「ちっ、思いっきり蹴ったのに、まるで効果なしかよ」
俺は凍った湖面に着地して、巨人の様子を伺い、これで終わってくれればいいんだがなと、考えが甘かったことがに気づく。
巨人はようやく俺を見つけたようだが、動こうとはせずこちらを睨みつけているだけだった。そこへ、飛んできたマクラの槍での攻撃、ラスタの剣による攻撃が始まる。初めてだろうに、マクラとラスタの息はぴったりで、思ったより上手くやっている。それでも、巨人には何のダメージも感じないようで、むしろ、周りに飛ぶ羽虫のように、ただうるさく感じているだけのように見える。
後方から、マリンの魔法詠唱が聞こえ、地面に影ができる。上を見上げると、以前より数段でかい氷塊が上空に出来つつある。それは遥か向こうにいるライナスリークにも見え、魔法障壁の展開を急がせる。
マリンの詠唱が終わると同時に、マクラ、ラスタが退避し、上空より氷塊が落下してきた。異変に気がついた巨人が上空を見上げるも氷塊は目と鼻の先に来ていてもう避けようがない。皆がチャックメイトだと思った。
まともに喰らい、衝撃が周囲に爆風となって影響する。やがて爆風も収まり、視線を巨人の方へやると、もやの彼方に、微かだがシルエットが見え、もやが晴れはっきり見えると、何のダメージもない巨人の姿がそこに現れた。
(なんてタフなんだ)心の中で呟き、今度は俺が先手を打って出た。
足元の氷が砕けるほどの勢いをつけ、顔面へと飛ぶ。そして渾身のグーパン。巨人が顔をのけぞらせ、やや体制が崩れるが、そこまでであった。マクラやラスタも巨人の攻撃を避けつつ接近しては攻撃する。
このままではただの消耗戦だが、策がない以上続けるしかない。俺が見る限り、マクラもラスタも諦めてはいない。そこへマリンも参戦して来た。
巨人のはたき落とそうとする手をかいくぐり、槍や剣、近距離魔法で応戦する。それに苛立ち、巨人の両腕の動きが盲滅法に、デタラメに振り回される。その読めない動きに、ラスタとマリンがぶつかり動きが止まり、隙ができた、ラスタが巨人の手ではたき落とされた。
すぐに、俺とマリンが駆け寄り、確認するとダメージがあるが生きていた。ホッとしつつ、マリンに回復の呪文をお願いして、俺はラスタを起こそうと体に触れた。その時である。ラスタの記憶が、感情が、俺の中に流れ込んで来た。
父と母、そして弟。貧しいが幸せな家族。
父が盗賊に襲われ殺される。母は私たちを養うために、領主の妾となる。領主に呼ばれるたびに、父の形見を抱きしめ泣き崩れる母。その後、父の死が領主の手によるものだと知った時の母の絶望。夫を殺した張本人と情交を重ねていたことを苦悩し、自殺する。家で首を吊って死んでいる母を見て泣き崩れるラスタとグリー。その時のラスタの絶望、悲しみ、怒り、が俺の心に流れ込んで来る。復讐を誓い、悪魔へと変異する姉弟。のちに、領主を虐殺する。その果てには、やり場のない不毛と化した心。
それらの感情が晴人の中で爆発した。晴人はラスタの体を強く抱きしめ、「お前は悪くない。お前は悪くない」
ラスタの顔面に滂沱と落ちる涙を拭きもせず、何度もなんども繰り返した。
晴人の感情が高ぶるに連れ、空に闇が訪れ、稲光、雷鳴が轟いた。
そして、晴人は神殺しへと覚醒した。それに呼応するかのようにラスタは魔王へと変異し、マリンも黒き6枚の羽を持つ神殺しの眷属に姿を変えていた。
神殺しが立ち上がると、マリンが、ラスタが、いつの間にかそばにきているマクラまでもが、跪き、臣下の礼をした。その光景は遥か遠くの魔族たちにも見え、王の覚醒にみな跪いた。
巨人にもタダなら気配に怯えが宿り、その元を断とうと、口より光がほとばしり、光が神殺しへと放たれる。それを避けようともしないでもろに喰らうが、ダメージのかけらもない。
神殺しが宙へと浮かぶ。続いて、マリン、ラスタ、マクラと浮かぶ。
「私がやりましょうか」
マリンの言葉を手で制止、神殺しが巨人の元へ近づいていく。
巨人の両手が神殺しへと叩き込むが、どれも神殺しの体に届かず跳ね返される。懐に入った神殺しが、腹部に拳を打ち込む。その刹那、音速をも超えるスピードで巨人が吹っ飛び、湖面の氷を引き裂き対岸へと乗り上げ、さらに山へと登りかけたところで止まる。その圧倒的なパワーに、魔族たちの、王への賛辞が鳴り止まなかった。
巨人の立っていた地面に黒々としたカオスのような闇の空間ができ、巨人がその空間へと飲まれていった。その後に、今度は神殺しが吸い寄せられた。その力に神殺しさえ抵抗できず、力までもが吸い込まれ、力が徐々に弱まっていった。
闇に覆われた世界に、あかりが戻り、神殺しが、晴人へと姿を変えた。
晴人はもがき手を伸ばすと、その手を3対の翼を持ったマリンが掴み、引き上げようとするも体は徐々に飲まれていく。まるで、この世界に存在してはいけないものを排除しようとするかのように、晴人だけが吸い込まれていった。
晴人は今朝の夢が予知夢であることを知り、マリンに手を離すように言った。それでもマリンは必死で手を握り抵抗した。
「晴人さん。私はまだあなたに言ってないことがあります。それを言うまではこの手は離しません」
必死の抵抗もやがて首より下は全て飲まれた。それでも必死でマリンは手を握り、
「晴人さん。私はあなたが好きです。あなたの行くところならどこまでもついて行きます。この手は絶対に離しません」
やがて、マリンまでもが空間に飲み込まれて行った……。




