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教皇メルドラードは、塔の最上階から、湖面の先、ユーラ公国の王城があったところを見ていた。ここからは、はっきりと見えるはずの王城が見えない。ユーラ公国の象徴とも言える王城。それを建てるのにどれだけ尽力したと思っている。それがたった十数年で破壊されるとは……。それも無能なラドルのせいだ。そう思うと腹がたつが、奴にも使い道がある。儀式の際には、役立ってもらうぞ、と不気味な笑みを浮かべ、溜飲を下げる事にした。
マクラはワクワクしながら、部下にステータスの確認をしてもらったところ、何も変わっていないことに腹が立ち、キリリアを呼んだ。
「キリリアよ。これはどういうことだ。ちゃんとチュウしたぞ」
キリリアは魔王様が怒っていることに焦り、それはどのようにしたのか聞いてみた。
「このようにな」と、唇を尖らせる仕草をして見せた。
キリリアは、「それではいけません。こう」舌を出す仕草をして、「相手の口に舌を入れる、ディープキッスでなければいけません」
「なんと、そ、そのような破廉恥な行為をしなければいけないのか」
マクラは、顔を赤くして黙り込んでしまった。
俺は朝食を、いつものハムエッグトーストとサラダ、それとコーヒーを、マリンと一緒にすませてから、サリナのところへ顔を出した。サリナはここでの環境に慣れたようで、顔色が良かったし、メイド達と楽しく話をしていた。それをみて、ホッと一安心。俺はケーキをプレゼントしたら、やはりメイド達の目つきが変わる。しょうがないので人数分渡すと、俺が外へ出ようとした頃には、みんなが箱の中身をのぞいていた。横にいたマリンが涙目でこちらを見ている。(お前もか)心に中で叫び、ケーキを一つ出してやった。
食べ終わってから二人で人狼族のところへ転移。驚いたことに、まだ1日と立っていないのに、もと城があった所に家がいくつも建っていた。
俺を見つけたハクウンが声をかけてきた。
「晴人さん、おはようございます」
ハクウンの顔は今まで見たことのない素敵な笑顔だ。すぐにミルクちゃんも駆けつけてきて、マリンに抱きついた。
ミルクちゃんはまだ子供で、マリンお姉ちゃんと言って、よく抱きついてくるけど、心の奥底には、お母さんを求めるようなところがあるのだろうな。お姉ちゃんってよく言うけど、仕草は母親に甘える子供のそれと同じだ。あの日、父と母の亡骸を見ても、何も感じなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。
ハクウンが、仕事が忙しいから失礼すると言って、仲間の方へ戻って行ったので、俺はマリンに、街に買い物でも行きますかと誘った。で、ミルクちゃんを挟んで手を繋ぎ、街に出かけた。
街はいつもと変わらない賑わいを呈していた。あんな事があっても、変わらない日常を送っているとは、ここの人達の肝の座っているのには感服した。
ミルクちゃんは、いつも以上に嬉しそうだ。俺の顔を見てはニコッと笑うし、マリンの顔を見上げてはニコッと笑う。俺もつられ顔がほころぶ。マリンも満更ではないようで、素敵な笑顔を返していた。何というか……、そう!、子供を見守る母親のような笑顔だ。




