第9章 人狼族の聖戦
第9章 人狼族の聖戦
「父上、僕も参ります」
ハクウンは、武装の準備をしている父に向かって、まっすぐに視線を向けた。
「ならぬ。役立たずは引っ込んでいろ」
父のデルタは、怯えなくまっすぐに向けられた視線をみて、この子も立派になったもんだと思った。そして、この子には俺たちの分も生きて欲しいと願った。
母のフーリも、優しい笑顔を見せて、
「ハクウンはお兄ちゃんでしょ。妹のミルクの面倒を見てやってね」
ハクウンは自分が幼くて、無力なのに腹が立つ。父と母とには二度と会えないような予感がして、「父上、母上、ご無事で帰ってきてください」と、涙に咽びながら、やっとの思いで言った。
デルタは、そんな息子の頭を優しく撫で、「ああ、きっと帰って来るさ」と、微笑んだ。
晴人はハクウンの感情に飲み込まれ、滂沱と涙した。それと同時に怒りの感情が込み上げてくる。絶対に許せない。絶対に許せない。一人残らず地獄に落としてやる。
怒りが頂点に達しようとした時、そっと頭を抱き寄せた人がいた。
それはマリンで、マリンにもハクウンの記憶と感情が、晴人を通して流れてきて、どうしようもなく涙が溢れてきていた……。
「しっかりしろ。ハクウン」
涙も枯れ、惚けた状態のハクウンの肩を揺さぶりながら、俺は叫んだ。
「あの城を落とす。これは聖戦だ。朝になったら、人狼族のところへ行こう」
俺の言葉に、ハクウンは反応し、涙を拭って、まっすぐに視線を向けた。
「信じていいのだな」
「ああ、当然だ」
短い言葉ながら、そこには強い意志が込められていた。
早朝、さっそく人狼族の所へ行こうとすると、当然いいえば当然なのだが、ガキども二人も連れてけと、しつこく催促。もう一人、マリンの顔を見たら連れていかないわけにはいかなくなった。(最近、俺が単独行動すると、なぜかすごく機嫌が悪い)
ハクウンが人狼族長老オルタに事情を説明した。それを、長老オルタからみんなに公表して、聖戦に参加することが決まった。
続いて、ジャンロレーヘ行く。当然、俺が決めたことだからと満場一致で賛成。何故か、マクラが「それじゃ、チュウしてくれたらワシ達も参戦しよう」と、言った。てっきり子供の冗談だろうと、ほっぺにチュウしてやった。そうしたら、本当に、マクラは1500名になる兵を連れてきて城前の広場に集結してた。
ハクウンと俺が城へ聖戦の意思を伝え、一刻の後、攻めることを告げた。
俺は、魔族達には、これは人狼族の聖戦であるから、戦いは人狼族に任せる。みんなはあくまでもサポート役に徹して欲しいことを伝えた。もちろん外部からくる敵については遠慮は要らないと付け加えた。
「時間だ」
ハクウンは振り向く。その視界には、人狼族の戦士が、この日を千載一隅と待っていた顔があった。目で合図を送り、「突撃」と叫ぶ。
「おう」と、鬨の声が上がる。先陣を切ったのは俺で、城門を、薄いベニヤ板のように破壊する。そこを一斉に人狼族がなだれ込み、武装した兵士へと襲いかかる。兵士が次々と倒れて行く。もともと人族と人狼族では持っているポテンシャルが違いすぎるのだ。1対2、いや、1対4だったとしても、人族が人狼族に勝つのは難しいだろう。それが、ほとんど、タイマンで戦っている。結果は火を見るより明らかだった。
俺とハクウンは奥へと進む。幾人かの兵士が盾を並べ、バリケードとして待ち構えるも、無駄な抵抗に終わりる。難なく突破して、さらに奥へと進むと、その頃になると人狼達も追って来た。そして、例の広場に出ると、父と母の剥製が目に留まり、長老や大人達から、嗚咽が漏れた。
「なんと酷いことか」
オルタはデルタ夫妻の哀れな姿に、言葉が続かなかった……。




