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ベッヒルがゾイルのところへ顔を出すと、ゾイルはベッヒルに椅子を勧め自分はテーブルを挟んで反対側に座り、助手の若い女性にお茶の用意をさせた。
ベッヒルは出されたお茶を一口啜ってから、口をモゴモゴさせた。それは師匠の悪い話をする時の癖で、ゾイルはただならぬものを感じ、身構え、師匠が話すのを待った。
「ゾイル……」
「はい」
「……。星の位置が悪い。嫌な予感がする。この地に、いや、この世界に災いが訪れるやもしれん」
師匠の顔は暗く、苦渋に満ちていた。それは、あくまでも予感だが、災いが起きるかも知れないと思うと身震いがした。
ゾイルは、それはどのようなものなのか。いつ頃起きるものなのか。重大なことなので、師匠に尋ねたが、あくまでも予感であり、胸騒ぎであるといって、ハッキリとはしなかった。ただ、これが、師匠が言ったということが重大なのだ。それが、他の誰かだとしたら、気のせいだろうと一笑に伏すだろうが、師匠が今までこういったことで、何も起こらなかったことはあっただろうか。大なり小なり必ず災いが起きると言ってもいいだろう。それがどの程度なのか、師匠はこの世界とも言った。すると世界的な規模の災いになるかも知れない。
ゾイルは事の重大さに体の底から粟立つものを感じていた……。
光剣彩はヘトヘトになるまで、晴人に挑みかかった。全力を出しても勝てない相手。その壁は果てしなく高い。それでも彩は嬉しかった。今までに、一度として、全力を出したことが無い、消化不良の試合ばかりだった。それが、今、私の全てをぶつけても、全く歯が立たない。どうすれば、一本取れるか、それすら分からない。それほど強い相手が目の前にいる。気分は最高にいい。彩は、剣術がこれほど楽しいと思ったことは無かった。今までは、ただ、父のお眼鏡に叶うこと、そればかり考えて修行を積んできた。それが、今は、そんな事どうでもいい、ただ、ただ、前にいる人から一本取りたい。そればかり考えている。
「少し休もう」晴人は、ヘトヘトになっても挑みかかって来る光剣さんに、休憩を申し出た。周りにいた人たちも、あまりの次元の違う戦いぶりに呆然として見ていたが、休憩の言葉を聞いて、引きつった笑いを浮かべ、賛成した。かれこれ1時間はぶっ続けで試合していたが、マリンさんたちは、ジッとここで見ていた。俺が休憩を言った時、ミルクちゃんが飛んできて、タオルを渡してくれた。汗はかいてないが、好意は嬉しくいただくことにする。
「ありがとう」と、タオルを受け取ると、
「ケーキ食べたい」と、ミルクちゃん。そうかそうかと頭なでなでして、みんなの所へ行くと目がキラキラしている。お前たちがの仕業か、内心ムッとしたが、ミルクちゃんの頼みならしょうがない、みんなにケーキを出すことにしよう。
ふと、光剣さんにも声をかけてみた。
「光剣さん、ケーキ食べませんか」
光剣さんは、不思議なものでも見るようにして、
「ケーキですか」
「そう、俺たちの世界のケーキだ。どう?」
「え?、あっちの世界のケーキ食べれるんですか」
光剣さんも女の子だ。ケーキと聞いて声のトーンが上がり、目の色が変わった。
「希望かあればなんでも言って。できるだけ取り寄せますよ」
俺は、スマホを取り出し、ケーキを検索した。
光剣さんがソフトクリームが食べたいと、言って、ソフトクリームを渡すと、みな、初めて見る食べ物に興味津々で、結局、全員ソフトクリームにした。
暑いせいか、冷たくて甘いソフトクリームは女子たちに大好評だった。
こして見ると、光剣さん、やっぱ普通の女子だよなぁ。それが剣を持つと一変する。その変わりように驚いてしまう。
国王アルガ・フェザール17世は、部下の知らせを聞いて、運が向いて来たとほくそ笑んでいた。勇者と、それ以上に強い男、二人もいる。この国は、いや私はラッキーだ。何としてもその男をこの地に留めておかなければ……。
国王は、他の人が見れば、引いてしましそうな不気味な笑顔を浮かべて、悦に入っていた。




