第2話:戦いの終わりに
シアンの投げ放った槍は、敵陣の中央へ。
槍頭が地面に接地した瞬間、周囲を巻き込んだ広範囲の爆発が起きる。
戦闘に初参加のホビットが、ボーラのもとに駆け寄ってくる。
「なんだよ、あれはただの槍じゃないのかよ!?」
「普通の槍だ。だが、シアンが使えば神の槍になる。ただの槍も超高速で投げられれば、ぶつかる時の威力はそこらの爆弾なんかの非じゃない。詳しくは知らんが、シアンが本気で槍を投げれば、ヒューマンが持っている最強の兵器・原子力ってやつよりも威力があるらしいぞ」
「マジかよ……つくづく敵に回したくねぇな」
「安心しな。お前がこっちの世界で平和に生きることを望む限り、シアンは俺たちの加護天使だ。さぁ、俺たちも戦いに混じるとするか」
ボーラは、勇んで敵陣へと突っ込んでいく。
ヒューマンとラフォーレの住人達が入り混じっての激しい戦いが始まった。
◇ ◇ ◇ ◇
「もうっ! ヒューマンさんのバカ、バカっ!」
戦場に火薬と血の匂いが漂い始める。
ヒューマンの銃火器に打ち倒れていく仲間たちの姿が目に飛び込んでくる。
ダメっ!早くこの戦いを終わらせないと、けがをする人が増えちゃう……
シアンは、決意する。愛する者たちを守るために、命を奪うことを。
「ごめんなさい……」
◇ ◇ ◇ ◇
戦況はラフォーレの住人にとって苦しくなっていた。
ヒューマンがこちらの世界に進行してきたのは、これで6度目だ。
そして、向こう側も幾度の戦いで、学習したらしい。
こちらの戦い方に対抗しうる戦術をとっている。
向こうは統制のとれた集団戦法。
一方でこちらは、個々の寄せ集めで、チームプレーなど一切ない。
個体の能力ではラフォーレの住人の方が上だろう。しかし、数の暴力には敵わない。
ヒューマン達は、複数人で一人を一斉に叩いてくる。
そうやって、数を減らされているラフォーレ側は、次第に後退を余儀なくされる。
「ちっ! 今回は少しばかり厄介だ……」
ボーラに焦りの表情が見える。
「うわぁぁ!!」「ひぃぃぃ!!」
イケイケドンドンのヒューマン達の空気が突如変わった。
「あ、悪魔だぁぁぁ!」
悲鳴がひと際大きい戦場へ視線を向けると、そこにはシアンがいた。
自分の身体よりも大きな槍を華麗に操り、立ち向かってくるヒューマンを一人、二人と切り倒していく。
「あぁ、美しい……」
ボーラは戦いの手を止め、華麗に軽やかにダンスを踊るかのように戦場を駆け巡るシナンをじっと見る。
シアンの眼は、生気を失っている。敵を殺すために一切の感情をシャットアウトしているようだ。
「せめて安らかに眠ってっ!!」
シアンの活躍により、ラフォーレ側の形勢が有利になって来た。
「てめぇら! ここで一気に畳み掛けるぞ!!」
ボーラの号令を境に、ラフォーレの住人はヒューマンに攻勢をかける。
ヒューマン達はジリジリと後退をしていく。
「くっ!! 撤退だ!!」
ヒューマン達は、裂け目の向こう側へと敗走していく。
そして、最後のヒューマンがゲートをくぐると、裂け目はスーッと閉じてしまった。
「俺らの勝利だっ!!」「うぉぉぉ!!」
ラフォーレの住人達は、歓喜の雄たけびを上げ、各々の健闘をたたえ合う。
そんな中、シアンは一人、悲しみの涙を流していた。
「ごめんなさい……守れなくてっ……ごめんなさい……痛い思いをさせて」
シアンは、冷たくなったホビットやミノタウロスの身体をギュッと抱えてる。
ボーラは泣き崩れるシアンの傍にやって来て、そっと肩に手をかける。
「シアン、お前のせいじゃない……悪いのは、襲ってくるアイツらだ」
「わかってます。でも……でも……私はどうしたらいいんですか!? もう、戦いたくありません」
「だが、向こうが襲ってくる以上、戦わないわけにはいかないんだ」
ボーラは困ったように、頭をボリボリとかいてみせる。
「おぎゃぁ、おぎゃぁ!」
「……なんの鳴き声ですか?」
「さぁ、聞いたことのねぇ声だ」
シアンとボーラは二人で顔を見合わせた。
大きな泣き声を上げている正体を戦場にいる者たちは探して回る。
すると、どうも小岩ほどの大きさの布にくるまれた何かが発生源だと突き止める。
発見者の一人が、布をめくる。
「ん? なんた、このちんちくりんは?」
布にくるまれ、泣き声を上げていたのは、紛れもなくヒューマンの赤ちゃんだった。
赤ちゃんは、大きな目を精一杯開き、世界を見つめようとしていた。
「ヒューマンの子か。なら、用はねぇな」
ラフォーレの住人は、ナイフを腰から抜き取り、赤ちゃんに向かって、振り上げた。
「恨むなら、お前をこんな世界に置き去りにした同胞を恨むんだなっ!」
「ダメっっつ!!!」
ナイフが赤ちゃんの脳天からわずか1cmのところで止まっている。
赤ちゃんは、それが己を傷つけるものだとは知らずに、無邪気に手を伸ばしてくる。
「この子を傷つけてはダメです!」
シアンは赤ちゃんに駆け寄ると、優しく抱き上げた。
「ソイツはヒューマンだぞ! 俺たちの仲間を殺しまくったクソ野郎の子だぞ」
「この子に罪はありません。可哀想です」
「この世界にヒューマンの居場所なんてねぇよ」
「この子に居場所がないなら、私が作ります」
「それは……あんたが育てるってことか?」
「えっ? 育てる? 私が?」
「誰も育てねぇなら、そいつは野垂れ死ぬだけだ。俺たちは、関わるのはごめんだ」
周りにいたラフォーレの住人達も同意見だと頷いて見せる。
「え、でも、私、子供育てたことないですし……どうしたら……」
シアンは、ボーラに助けてと視線を送る。
しかし、ボーラは首を横に振って見せるだけで助けてくれそうにない。
「じゃあ、やっぱり殺そうぜ!!」
住人たちは、再び刃物を取り出し、赤ちゃんに襲いかかる態勢をとる。
「わ、分かりました。私がこの子を育てます!!」
シアンは、腕の中でスヤスヤと眠っている赤ちゃんに向かって微笑みかける。
「あなたのことは、私が守って見せるわ」




