第1話:またヒューマンがやって来た
初の連続小説です。
気軽に投稿をしていきたいと思います。
温かい目で見守ってあげてください!
それでは、宜しくお願いします。
ゴーン、ゴーン。
ゲートが開くことを教会の鐘の音が告げる。
「さてと、一仕事やるか」
真昼間から酒場に入り浸っていたドワーフや、メタヒューマン、ホビット達は各々の得物を手に立ち上がる。
屈強な男たちに混じり、一人の少女がいた。
透き通った空色の髪をポニーテイルにしたエルフの少女・シアン。
彼女は、小柄な体に見合わないほどの長く太い槍を携えていた。
一同は、見渡す限りの草原を駆け抜ける。
草花のはなつ甘い香りを堪能しながら走るシアンに、屈強なドワーフのボーラが話しかけてくる。
「今日は、シアンも出るのか。なら、楽勝だな」
「ワタシを頼りにしてるようじゃ、ダメだと思うんです! ボーラさんも頑張ってください!」
シアンに激励され、ボーラの醜い顔が赤面して、さらにグシャッと醜さを増した。
「じょ、冗談きついぜ。この世界で、あんたと互角にやり合えるヤツなんて、片手で数えるくらいだぜ。俺はほどほどにやらせてもらうよ」
「ワタシ、そんな強くないですよ?」
シアンは、小首を傾げる。
「ただ、この世界を守りたいだけですし」
「あんたのそういうところに皆惚れてるんだぜ」
いつの間にやらシアンとボーラの近くにやって来て並走している男たちが、コクコクと首を振って同意する。
「ちょっ、そんなお世辞は……恥ずかしい……じゃないですか……」
シアンは、首をすぼめて、火照った頬をブカブカのローブに隠してみせる。
「おっと、戯れはここまでのようだ。目的地に着いたようだぜ」
ボーラの合図で一同が歩みを止める。
そこは、何もない開けた只の草原だ。
「ボーラさん、ここに来るんですか?」
「あぁ、教会から指示された場所はここで間違いない」
「おいおい、まだゲート、開いてねぇじゃねぇかよ!」
「座標は間違いない。俺たちに今できるのは、待つことだけだ」
一同は、近くの木陰や岩の上に腰を下ろす。
「ボーラさん」
「何だ、シアン?」
「どうして人間はこっちの世界にやってくるんでしょうか? 自分の住む世界があるのに……」
「さぁあな。人間ってのは強欲で傲慢な生き物なんだろ。自分が持ってない物は、きっと素晴らしい。手に入れれば、より良い生活ができるって無駄に信じてるに違いない」
「自分のいるところで平和に生きてくれればいいのに……そしたら、こんな事しなくていいのに」
「シアンの言う事は、もっともだ。だが、俺たちも戦わないと俺たちの居場所がなくなっちまう。わかるだろ?」
「わかってますよぉ! それくらい……」
シアンは、両頬をプクゥと膨らまして、これから起こるであろう未来に不服の意を表した。
「現れたぞ!」
誰かがそう叫ぶと、広大な草原の空間に裂け目が生じる。
それは、ナイフでスーッと紙を切るかのように、音もなく、静かに裂け目が次第に大きくなっていく。
裂け目が3階建ての長屋ほどになると、地響きが唸り声のように聞こえてくる。
「来たぞ!」
裂け目から、迷彩服を着たヒューマンの隊列が出てくる。
隊列は横に10列。縦の列は、裂け目からは無尽蔵に出てくるためカウントができない。
ヒューマンの兵隊は手に銃火器を携帯している。
さらには、戦車という巨大な動く岩のようなものまでも裂け目からはき出てきた。
「今度こそ、この世界・ラフォーレを我々の支配下に!」
「おぉぉ!」
「一同、戦闘準備ッ!」
ヒューマンの兵隊たちは、皆、目が血走っている。
この戦にかける並々ならぬ決意が見て取れた。
「本当に戦わなきゃいけないんですか……」
「シアン、やらなきゃ、こっちがやられる」
「もう、ヒューマンさんのバカっ!」
「お、おい、シアン! 何をしてやがる!」
シアンは、ボーラの制止を振り切り、ヒューマンの軍隊の前に立つ。
小さい体を大きく見せようと、仁王立ちして、腕は腰に当てている。
「ヒューマンの皆さん、回れ右をして、帰ってください! そうすれば痛い目に合わずに済みます」
ヒューマン達がざわつく。
「なんだ、あの可愛い子は」「アイツら、子供まで戦闘に駆り出すのか!」「非道な!」などと彼らのつぶやきが風に乗って、シアン達の耳にまで届く。
と、ヒューマンの隊列を割って、顔面に縦傷を負った男が前に進み出てくる。
「私は、二階堂大佐である。我々は、この世界を調査するために派遣されてきた。無用な争いは望まない。どうか、穏便に事を済ませる方法はないか?」
「ほんとうですか!? 争いを望んでいないって――」
「当然だ。ただ、未知の世界について知りたい。そういう探究心は君たちにもあるのではないか? その気持ちが少しでもわかるというのなら、戦闘態勢を解除してくれ」
「は、はい。ボーラさん、いいですよね!?」
「シアン、お前は純粋すぎる。まぁ、それがいいところでもあるんだがな」
ボーラは、シアンの前に進み出てくると、優しく彼女の空色の髪を撫でる。
「ヒューマンや、武装を解除しろと言うなら、まずはそちらからして見せたらどうだ? こちらは防戦の意志しかない」
「それは……」
二階堂と名乗った男は、奥歯をギュッと嚙み締めた。明らかに、「それはできない」との意思の表れだ。
ボーラは、さらにまくし立てる。
「それにアンタ等が俺たちの世界を探索したいってなら、俺たちにもアンタ等の世界を探索する権利があるわけだよな? 行かせてもらってもいいのか?」
「それはできない!」
「ボーラさん、お、穏便に!」
「シアン、すまんがもう無理のようだ」
二階堂は、これ以上の対話は無意味と悟ったようで、スッと隊列の後ろに下がっていく。
「我々も手ぶらでは帰れんのだ!」
「ほほう、それはどういう意味だ? 俺はフェアな条件を提案したつもりだぜ」
ボーラが手に握った斧にギュッと力が込められる。
一気に、戦場の空気がヒュンと張り詰める。
「戦闘開始!! かかれ!」
「野郎ども、俺たちの世界を守るぞ」
両軍は、大声を張り上げて、お互いに突進する。
「どうしてこうなっちゃうのよっ!」
シアンは、その場でドン、ドンと地団太を踏んだ。
「もうっ! ヒューマンさんのバカっ!!」
シアンは、長く太い槍を構えると、大きく深呼吸して、腕にグッと力を籠める。
「どうなっても知らないんだから!!」
シアンの手から、槍が放たれ、勢いよく敵陣目がけて飛んでいく。