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狐のおつかい  作者: 黒月水羽
3章 後ろの少女
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5 平行線の突破口

 とりあえず、座って話しましょう。

 そういって彰は、小狐様へと目配せした。座布団だせ。っていう無言の訴えだ。


 落ち込む小狐様へは鞭のような行為だが、そんなことを気にする彰ではない。

 笑顔ではあるが、有無を言わせぬ圧力で小狐様を見つめる。


 どこからどう見ても、力関係は彰の方が上だ。

 何が小狐様を助けてるだ。と私は呆れるが、今の状況でそれを指摘できるはずもない。


 小狐様は不満そうではあるが、パチンと指をならす。すぐに空中から座布団が現れ、地面へと落ちた。


 私たちにとってはいつも通り。日下先輩たちからすれば異常な光景。

 日下先輩は目をむき、座布団が現れた空中と、落ちた地面を繰り返し見ている。

 その後、落ち着きなく辺りを見回し始めた。マジックの仕掛けを探しているらしい。


 残念ながら、種もなければ仕掛けもない。

 正真正銘、神様のお力である。


 日下先輩に比べ、小宮先輩は素直に神の力だと認識したらしい。

 すごい。ほんとに小狐様がやったの。とはしゃぎだした。


 その反応も、素直すぎて悪い人に騙されないか心配になる。

 と思ったところで、すでに遅かった。と私は気づいてしまった。

 頭にちらついた重里さんの顔は、すぐに忘れよう。一度しか会っていないのに、存在感がありすぎる。


「小狐様がだしてくださったんですから、早く座ってください」


 彰が笑顔でいうと、日下先輩は落ち着かない様子で、小宮先輩は喜んで座布団に座った。

 座った瞬間、日下先輩が目を見開いた。予想外の座り心地のよさに驚いたのだろう。


 さすが神様、御用達。というべきか、小狐様が出すものは座布団から湯飲み、お茶に至るまで高級仕様だ。


「では、落ち着いたところで日下先輩の話を聞きますか」

「……私は落ち着けてないんですけど…」


 地面に座布団という状況に、慣れない日下先輩がそわそわしている。


 わかる。私も最初の頃そうだった。と懐かしい気持ちになった。

 いつの間なれてしまったのか、今では実家のような安心感。人間なんでもなれると聞くが、本当のことだった。


「大丈夫です。すぐなれます。早く話してください」


 無駄なやりとりに時間を使いたくないのか、彰が笑顔のまま強い口調で先をうながす。

 日下先輩は納得いかない様子で彰を見ていたが、このままでは進まないと悟ったようだ。

ふうっと、おそらく諦めの息をはいて口を開いた。


「後ろの少女。という噂をご存じですか?」


 日下先輩の言葉に聞き覚えはない。

 香菜は知っているだろうかと視線を向けると、大きな目をさらに見開いていた。意外なことに知らないようだ。


 彰も香菜ならば知っていると思ったのか、香菜の反応に驚いた顔をしている。それを見るに、彰も知らないのだろう。


 人間の噂話などに興味がない小狐様は論外として、小宮先輩は? と視線を向けると、不思議そうな顔で日下先輩を見ていた。

 つまり、誰も聞いたことがないようだ。


「それが解明してほしいという噂ですか?」

 彰の問いに、日下先輩はゆっくりとうなずいた。


「私も聞いたのはつい最近。

プライバシーの問題で詳細は伏せるけど、後輩に相談されたの。怖くてある道が通れないと」


 日下先輩はそういって、後輩から聞いたという噂話を語った。


 夕暮れ時、とある交差点に差し掛かると女の子の声が聞こえる。

 ふりむいても誰もおらず、最初は気のせいだと後輩は思ったそうだ。


 だが、少し進むとまた声が聞こえる。最初よりもはっきり。

 再びふりかえるが、やはりそこには誰もいない。

 後輩は怖くなって走り出したという。


 すると、声はさらに大きくなり、何かが追いかけてくる足音まで聞こえるようになった。

耳をふさいでも、足音も女の子の声も聞こえ続ける。


 泣きそうになったが、交差点からしばらく走ったところで声はピタリと止んだ。

 後輩が恐る恐る振りかえると、小学生くらいの青白い顔をした女の子が恨めしそうに後輩をみていたのだという。


「気のせいじゃない。と私はいったんだけど、彼女、交差点を通るたび、同じ現象に遭遇しているみたいで」


 日下先輩は後輩の話をそうしめくくった。


「交差点を以外では会わないの?」


 小宮先輩が腕をさすりながら気く。顔が青いし、怖い話は苦手なようだ。

 小宮先輩の性格から考えて、意外でもない。


「その女の子って幽霊なんですか!」


 いつも大人しく、ひかえめな香菜が目を輝かせている方が周囲から見れば意外だろう。

 小宮先輩も日下先輩も、香菜の反応に驚き、引いている。

 彰と小狐様は、またか。と苦笑をうかべていた。


「……私は幽霊なんて、非科学的なことは信じていません。でも……」

「科学的に説明が出来る、原因が分からないと」


 彰の言葉に日下先輩は目をそらす。否定しないということは、彰のいった通りなのだろう。


「後輩と一緒に交差点にいってみたり、他の人に話を聞いてみましたが、理由は分からず……。病院での検査、精神科にもいったようですが、そこでも納得のいく結果はでなかったようで」

「そこまで……」


 医者にまで診てもらった。という事実に彰は驚いた様子だ。

 大げさすぎる気もするが、そこまでするほど精神的に参っているということなのか。


「なんで、交差点にだけ現れるんだろう。交差点から離れたら着いてこないのも不思議だ」


 小宮先輩が腕を組んでつぶやいた。


「地縛霊なんじゃないですか」


 あっさり答えたのは彰だ。

 香菜は彰の言葉に同調するようにうなずく。

 日下先輩は予想外の言葉だったのか、弾かれたように顔をあげた。


「地縛霊?」

「特定の場所に縛られ、そこから動くことのできない霊のことを言います」


 彰の言葉に小宮先輩が、へえ。と感心した様子でうなずいた。

 私でも知っているような知識でこの反応ということは、小宮先輩はオカルトというものに全く興味がないらしい。というのに、お狐様の祠にお願いをしたのか。それだけ切羽詰まっていたのか……勢いなのか……。

 なんとなく、後者のような気がする。


「……なぜ、特定の場所に縛られるんですか?」


 日下先輩が妙に真剣な口調で、彰に問いかけた。

 あれだけオカルトを否定しても、話は真面目に聞く姿に驚いた。生徒会長をしているだけあって、根が真面目なのかもしれない。


「理由は様々です。生前その場所に強い執着があった。土地そのものに力があり、離れられなくなった。呪術的な儀式により、強制的に土地に縛られた。など」


 彰の説明を聞けば聞くほど、先輩たちの顔が曇る。

 逆に香菜は輝きを増す。もっと詳しく話を聞きたいのか、うずうずしてきたのを子狐様がいさめている。


 子狐様も落ち込んではいられなくなったと思えばいいのかもしれないけど……、香奈ちょっと自重して。


 それにしてもと、私はたんたんと語る彰をみる。

 オカルトに詳しいとは知っていたが、実際に話を聞くと何だか不思議な気持ちだ。


 生前、強い執着があってその場から動けなくなる。そのくらいの知識は私だって知っている。

 だが、土地そのものに力がある。とか、呪術などというのは初めて聞いた。


 彰はいったい、どこで知識を身につけたのだろう。


「といっても、後半の話はあくまでそういうこともある。というだけで、亡くなった場所に縛られることの方が多いです。

 その子も、交差点でなくなったために動くことが出来ないのでしょう」


 彰の言葉に小宮先輩は泣きそうな顔をした。

 死んでから、死んだ場所から離れられない女の子のことを考えて悲しくなったようだ。

本当に優しい人だなと、私は苦笑する。


 可哀想ではあるが、待ったく知らない赤の他人。ましてや幽霊のことを思っても、仕方ない。

 お坊さんや、見える人ならともかく、一般人である私たちに出来ることなどない。


 彰はその辺りはわきまえているらしく、涼しい顔だ。

 子狐様もとくに感想はないらしい。いや、テンションがあがっている香菜を押さえるので、いっぱいいっぱいなのか。


 香菜も少しは小宮先輩を見習うべきじゃ。と思いつつ、視線を移すと青い顔をする日下先輩が目にはいった。

 一番涼しい顔をしていると思った先輩の反応に、私は目を見開く。


 日下先輩は口許を押さえて、かすかに震えていた。

 そのまま常時には考えられないような、震えた、か細い声でいった。


「あの交差点…10年ほど前に、女の子が交通事故で……なくなったそうなんです」


 日下先輩の言葉に、彰が眉をつりあげる。先程に比べて、空気が張り詰めたような気がする。


「……調べてみたら、そうだとわかって……、でも、そんな、まさか……」


 日下先輩は頭をふった。顔は青白く、体はかすかに震えている。

 幽霊なんて存在しない。そう思ってきたからこそ、いるかもしれない。という事象が信じられないのかもしれない。


「……行って見るしかないか」

 彰は真剣な表情でつぶやいた。


「ここで話してても、話は進みませんし交差点に行ってみるのが一番でしょう。

僕は子狐様のお力がなくても見えるので」

「やっぱり、見えるの!」


 香菜がさらに表情を明るくした。

 ここまで来ると眩しすぎて、香菜の顔が直視できない。喜びすぎだ。

 彰が見えることなんて、はっきり言われなくてもなんとなくわかる。じゃなかったら、子狐様に対してあんな適当な対応出来るはずがない。


「ただ問題は僕が見た結果、女の子がいたとして日下先輩が信じられるか。ということです」


 彰の言葉に私は日下先輩をみた。

 気持ちが落ち着いたのか、先ほど震えていたとは思えない強い眼差しで彰を見返す。


「私は自分で見たものしか信じません」

「そういうと思いました」


 彰はため息をついた。


「子狐様のお力をもっても、あなたは見えなかった。普通の幽霊なんて見えるはずがない」


 彰の言葉に日下先輩は、不満そうな顔をした。

 幽霊なんていないと思っているが、見えるはずがない。なんて全否定する彰の言い方はイラつくんだろう。

 気持ちはわかる。


「けれど、あなたは僕の言葉では信じない。これでは真相を伝えたところで意味はないでしょう」

「意味はありますよ。真相は何らかの手法によるイタズラです。そうでなければありえません。幽霊だなんて」


 これでは平行線だ。そう私は思い、彰も同じことを思ったのか顔をしかめた。


 日下先輩が言う通り、誰かしらのいたずら。何かのトリックがあったのなら、それを取り除けばいい。犯人捜しだってできるだろう。


 問題は原因が幽霊だった場合だ。

 この場合、日下先輩に真実を話したとしても日下先輩が信じない。

 自分の目で見なければ信じない。その信念はいいのだが、子狐様すら見えないゼロ感の日下先輩が一般霊など見えるはずもない。

 つまり、私たちには日下先輩に納得させる手段がない。


「子狐様がそこにいるし、座布団だっていきなり現れたのに、美幸ちゃん信じないの?」


 小宮先輩が少々呆れた顔で日下先輩を見ている。

 小宮先輩が呆れるとは、日下先輩の頑固も相当だ。


「小宮君は私よりも佐藤君たちと交流があったでしょう。私をだますために打ち合わせしていたという可能性もあります」

「小宮先輩が本当にそういうことをすると思うんですか?」


 今度は彰が呆れた顔をした。

 小宮稔という人間を知れば知るほど、嘘をつく。人をだますという行為をする人間には思えない。

 それ以上に、だまそうとしても上手く騙せないだろう。目泳ぐし、声裏返る姿がすぐに想像できる。


「……小宮君が騙されているという可能性もあります……」


 日下先輩の中でも小宮先輩が自分をだます。という可能性はすぐに消えたようだ。

 代わりに今度は彰へと疑いが向けられるが、これに関しては日下先輩に信じてもらうのが難しい。

 

 何しろ、日下先輩と彰は今日が初対面。

 出会う前から日下先輩は彰のよくない噂を聞いていたようだし、悪事を働いた人間。と思考にインプットされている。

 彰への信用は出会う前からマイナス。今までの会話でプラスになる要素はない。さらに落ちる要素はたくさんあったから、マイナス値が更新され続けている現状だ。


 あれ、これ詰んだんじゃない……?


 私は無言で見つめ合う日下先輩と彰を見た。

 日下先輩は相変わらず、毅然とした態度を崩さない。彰は笑みを浮かべているものの、笑顔の温度が低い。だいぶイラついているのが伝わってきて、私は距離を置きたくなった。


 ああ、どうしようこの状況。

 何か突破口がないかと周囲を見渡して見るものの、おろおろしている香奈と小宮先輩。眉をよせている子狐様を見ても、状況を変えられそうな人はいない。

 どうする? 私が間に入るべき? 入ったとしても何を言う?


「目に見たものしか信じないっていうんなら、見せればいいんじゃねえ?」


 それが出来たら誰も苦労しない!

 と言い返そうとしたところで、私は固まった。

 あれ? 今の声は誰のものだ?


 周囲を見ると他のみんなも不思議そうな顔で周囲を見回している。突如聞こえた、見知らぬ声に誰もが戸惑い、不思議がっていた。

 そんな中、彰は嫌そうな顔。子狐様は何故か青ざめていた。


「彰に友達ができたっていうから見に来てみたんだけど、ずいぶん面白いことやってんじゃねえか」


 再び声がする。声と共にがさりと草木が揺れる音がした。

 頭上から音がしたように思えて顔を上げると同時、上から黒い塊が降ってくる。

 驚いて目を見開く私のすぐ近くに、その塊は華麗に着地。

 状況から考えて木の上から飛び降りたのだろうが、難なく着地したところを見ると相当運動神経がいいのか……。

 

 なんて考えていると、私はその塊――いや、人を見たことがあることに気が付いた。

 上から下まで真っ黒い服。ジャラジャラとアクセサリーを付け、口元は愉快そうに上がっている。細められた目は唯一の色彩を放つ赤。

 山のふもとで私に入っていいか。と聞いてきた不審人物が目の前にいた。


「何でこんなところにいるのさ、リン……」


 彰が心底嫌そうな顔でいう。そんなに顔ゆがめられたんだと私が驚いている中、リンと呼ばれた男は臆することもなく笑う。


「だから、お前に友達ができたって言うから見に来たんだって。保護者参観みたいな感じ?」


 どこにいきなり木の上から降ってくる保護者がいるんだ。というか、言動からいって木の上で盗み聞きしてただろ。

 いろいろとツッコミたいところはあるのだが、何から口に出していいか分からず、私は救いを求めて彰を見つめる。


 彰は犬でも追い払うかのように、しっしっとリンさん? に向かって手を払っている。

 顔は相変わらず、嫌そうにゆがめられたまま。本当に嫌悪しているらしい。


「何で、リン様が……」


 青い顔でつぶやく子狐様の姿も加わって、事態は収拾。どころか、混沌へと突き進んでいるようにしか見えなかった。

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