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狐のおつかい  作者: 黒月水羽
2章 理想の彼女
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エピローグ

 友里恵ちゃん大捜索から数日後。

 色々な衝撃を何とか消化して、一生触りたくない思い出ボックスに無理やり記憶を押し込め、私は日常に何とか戻ってきていた。


 祠の前に地べたに座布団をひいて座るのが日常なのかと言われると、否定したくなるが、それでも日常になってしまったのだから仕方ない。

 友里恵ちゃんを探していたときの慌ただしさを思うと、祠の前でのんびり子狐様の入れたお茶を飲む今の時間はとても平和だ。


 事の真相については、子狐様への願い事ということなので、子狐様に報告済み。

 香奈と百合先生も関係者として彰がまとめて説明したのだが、真相を知った2人の青ざめた顔が未だに忘れられない。


 おそらくは、私も公園で似たような顔をしていたのだろう。

 私としゃべった後、ケロリと輪に加わって、玲菜さんとすら談笑して見せた彰がおかしいのだ。


「恋愛成就の願い事が増えましたねえ……」


 祠に入っている願い事の紙を眺めて、子狐様は眉を寄せる。

 願い事が増えるのは良い事だが、子狐様自身に叶える力はないため複雑なのだろう。


「まさか、恋愛方面で有名になるとは予想外だったよねえ」


 ラブレターと勘違いしそうなピンクの封筒に、ハートのシールが張られた手紙を見て彰が顔をしかめた。

 

 小宮先輩の事件を解決した後、お狐様は計画通り、学校内では噂される存在となった。

 小宮先輩がお狐様に願い事を言うと運命の人と出会える。といったのがきっかけなのが、微妙なところだが文句は言えない。


 もともとイケメンということで有名だった小宮先輩が言っただけあって、噂が広まるのはあっという間だった。しかも女性が苦手という問題を無に帰すほどの効果だと、妙な説得力が生まれ、お狐様はあっという間に恋愛成就の神様として一部の生徒の間で話題になったのだ。


 真実を知る身としては、居心地が悪い話だ。

 子狐様も、私たちも何もしてない。

 全ては、重里玲菜という重すぎる愛を持った女性が自力でつかみ取った結果である。


「その後、小宮先輩の様子は?」


 私はやけにキラキラしたシールが張られ、色とりどりの文字で書かれた願い事を眺めながら香奈に問いかける。

 この手紙の主は目立てば願い事がかなえてもらえるとでも思っているのだろうか。抽選はがきじゃないんだぞ。


「あの日から、すごい幸せそうなんだって」


 複雑な顔で香奈は答えた。

 真相を知る前は、運命の出会いって本当にあるんだね。玲菜さんって綺麗だよね。とはしゃいでいたのだが、今は素直にそう思えないらしい。それも仕方がない。


「前まで、友里恵が、友里恵がーってうるさかったのが、今じゃ、友里恵と玲菜が。になったらしいよ」


 彰が願い事の紙を眺めながら言った。

 それは、良くなったのか、悪化したのか。相変わらず、友里恵ちゃん溺愛は変わらないんだな。と様々な感情が駆け巡る。


「真相……伝えなくていいのかな……」


 私がぽつりとつぶやくと、香奈は読んでいた手紙を膝の上にのせて目を伏せた。

 彰は相変わらず手紙を眺めているが、何も言わない。

 重い沈黙があたりを包む。


「伝えてどうするんですか」


 それを破ったのは子狐様だった。

 座布団の上に悠然と座り、お茶を両手でもって、優雅に飲む姿はいつもと変わらない。見た目は少女なのに、どこか大人の風格が漂うのは半分とはいえ神と呼ばれた存在故か。


「小宮という少年は、玲菜という少女に好意を抱いているのでしょう?」

「でも、それは、仕組まれたことで……」

「仕組まれた結果、少年が少女に恋したというのなら、少女の想いの方が強かったというだけの話でしょう」


 そういって子狐様は湯呑を口に運ぶ。


「恋にも愛にも正解はありません。結果も過程も愛の数だけ存在します。そして、正しいか正しくないか、決める権利があるのは当人のみ。他人が口出しすべきことではありません」

「そうですけど……」


 香奈が納得いかない様子でいう。


「まーたしかに、子狐ちゃんが言う通りなのかもねえ」


 読んでいた手紙をひらひらと振りながら、彰はどこか遠くを見ながらつぶやいた。

 彰の言葉に香奈が信じられないという顔をして、私は何とも言えずに彰の顔をじっと見つめる。


「僕さあ、玲菜さんがストーカーの犯人だって証明できる証拠持ってんだよね」

「えっ」


 彰の言葉に私は驚いた。香奈は驚きすぎて声も出ないらしく、目を見開いて彰を凝視している。


「小宮先輩に見せれば、百年の恋もあっさり覚めるだろうねえ」

「だったら」

「でも、覚ました後、小宮先輩はどうなるんだろうね」


 彰の言葉に香奈は彰に詰め寄ろうとしていた動きを止めて、子狐様は目を細める。


「ストーカーされて人間不信、女性不信になってさ、信じられる存在が猫だけ。そんな人間がやっと見つけた信じられる存在が、自分を追い詰めた犯人だった。それを知った小宮先輩が立ち直れると思う?」

「それは……」


 香奈は言い淀んで、中途半端に浮かせていた腰を下ろした。視線をうろうろとさまよわせ、最終的に下を向く。


「それにさ、小宮先輩が許すかどうかは分からないけど、玲菜さんはちゃんと罰は受けてるんだよねえ」

「罰?」


 彰の意外な言葉に香奈は顔をあげ、私も彰を見つめた。

 ストーカーで小宮先輩を追い詰め、友里恵ちゃんを誘拐して、小宮先輩を手に入れた重里玲菜。彼女が受けたという罰が思い浮かばず、私は眉を寄せる。


「分かんない? 重里玲菜はねえ、一生嘘を突き通さないといけない」


 口元を歪めて、冷たい笑みを浮かべる彰の表情と言葉に私はぞっとした。


「小宮先輩の隣に居続けるためにはね、小宮先輩の理想の彼女であり続けなければいけない。過去を隠し通して、嘘を突き通して、自分を偽り続け、全てを小宮先輩に悟られてはいけないんだよ。それってさあ」


 彰はそこで言葉を区切って、目を細める。


「十分に、罰でしょ?」


 そういう彰は、どこか楽し気で、ああ、こいつは本当に化け物じみている。と私は改めて思ったのだ。


「あなたは本当に悪趣味というか……悪魔みたいですよねえ」

「アイツと一緒にすんのやめてくれる」


 心底嫌そうな顔をした彰を見て、私はいつの間にか止めていた息を吐き出す。

 何だかドッとつかれたので、精神衛生上のためにも悪魔と呼ばれる人物がいるかのような発言は聞かなかったことにしよう。


 彰が言った言葉を必死に飲み込もうとしている香奈が、気付いていない幸運にも感謝しつつ、私は空を見上げた。

 今日も、いい天気だ。公園で重里玲菜の願いが叶った日と同じく。


「噂をすれば」


 彰はそう言いながら、楽し気な笑みを浮かべて、携帯を操作した。

 噂をすればということは、小宮先輩からメールでも来たのか。

 興味本位で彰の様子をうかがっていると、彰はじっと携帯画面を見つめて、それからフッとほほ笑んだ。


 それは呆れるような、困ったような笑みではあったが、いつもの彰に比べるとずいぶん優しい。


「玲菜さんが手に入れたような気がしてるだけで、小宮先輩だってちゃんと手に入れてたんじゃないかなあ」


 彰はそう言いながら私と香奈に見えるように携帯を突き出した。

 言葉の意味と突然の行動に戸惑い、条件反射で私は画面に目を向けた。


 画面に映っているのはメール。差出人は小宮稔。

 本文には友里恵ちゃんを抱き上げて幸せそうにほほ笑む玲菜さんの写真。そして「俺の彼女たちがとっても可愛いです」と人によってはぶん殴られそうな一文。


 小宮先輩のことだから無自覚だろうけど、あまりの惚気っぷりに私が顔をゆがめると、彰はおかしそうに笑った。


「まさしく、お互い理想の恋人だよ」


 意外とうまくいきそうな恋人たちに、私は安堵の気持ちを隠すため、わざと大きなため息をついた。


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