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狐のおつかい  作者: 黒月水羽
2章 理想の彼女
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4 噂の裏側

 結論からいうと噂は驚くべき速さで広まった。


 噂を広める担当だった彰と香奈はのんびりしたもので、女子って噂好きだよね。とか、思ったよりも裏サイト皆見てるんだね。とほのぼのと結果報告。


 私だけはその速さに恐怖していた。

 いくら何でもまわるのが早すぎる。

 それとなく話を聞いたら、香奈は人が目に留まりやすい時間帯を狙って話題になりやすいように話を盛っただけ。と笑顔でいい、彰は女子が食いつきやすいように恋愛に絡めて噂好きの子に数人話しただけ。とこれまた笑顔でいった。


 怖い。私の幼馴染と友達(?)がとにかく怖い。

 本気になったら全く根も葉もない噂でも、あっという間に全校生徒に回るということじゃないか。恐ろしすぎる。


 彰は前々から思っていたが香奈に関してもなるべく怒らせないようにしようと幼馴染の知りたくない一面を知ってしまった気持ちだ。

 情報社会、恐ろしい。


 私に若干の恐怖を与えたものの彰の計画の第一段階はうまくいったのは確かだ。噂に疎い私の耳にもチラチラと噂話が聞こえるようになったのだから、だいぶ広まったとみていいだろう。


 ただ私としては一つ引っかかることがある。

 祠の噂が広まることは良いことだ。クラス内でも百合先生が話した狐のことが再び話題に上がり始め、百合先生との約束も時効とばかりに外部にも話が広まり始めている。


 百合先生は子狐様のことも知っているため今回は口止めすることもなく状況を見守っている。ただし、危ないことはするな。何かあったら自分にいえと脅迫一歩手前にいわれたが彰は「気分がのったらね」と聞き流していた。

 気心知れた叔父と甥の関係としても微妙な対応だ。


 とにかく学校の裏にある祠の存在は周知され、彰のいう祠を知ってもらうという目的は達成された。

 だが、それによって祠が隠れスポットではなく全校生徒公認スポットになってしまったのは問題だ。


「私たちこれからどこに集まればいいわけ?」


 話題の祠に行くのは人目に触れるおそれがあると、屋上に集まった私たち3人。

 ちなみにこの屋上は本来立ち入り禁止であり、なぜ私たちが入れるかというと彰がカギを持っているからだ。

 入手場所は百合先生から。さらにいえば校長にも許可をもらっての所持だという。

 百合先生はともかくなぜ校長からの許可が下りているのか疑問だが、彰は「まあいろいろあってね」と話を流した。

 

 説明するのが面倒だったのか、説明したくない何かがあるのかは分からないがとりあえずは放置だ。

 彰が鍵を持っていていたおかげで騒がしい場所から逃れて、のんびりできるのだから文句をいえる立場でもない。


 香奈は初めて入る屋上にとにかくテンションが高かった。

 屋上っていうと飛び降りた生徒の幽霊とかいそうだよね! と笑顔でいう姿に呆れたが、「残念ながらここにはいないよ」という彰の発言の方が怖い。


 ここには。ということはどこかにはいるってことですかと喉まで出かかった疑問を口に出さなかった私のファインプレーを褒めたい。

 彰の発言にテンションが上がった香奈が気付かなかった幸運にも感謝したい。


 とりあえず身近な神様である子狐様に感謝する。

 そんなこと感謝されても。という微妙な顔をした子狐様が脳裏に浮かんだから私の感謝の念は無事に届いたらしい。


「ここでもいいけど、日によっては寒いからやっぱり祠の前がいいかな」

 彰は卵焼きを口に運びながらいう。


「気温気にするなら祠だって寒いでしょ。今のところはいいけど」

「ナナちゃん気付いてなかったの? 祠のあたりって子狐ちゃんが温度調節してくれてたからいつも快適温度だったんだよ」


 彰が鈍感だなと呆れた顔でいう言葉に私は驚いた。

 一通り騒いで落ち着き、お弁当を食べていた香奈も目と口を開いて固まっている。食べようとしていたウィンナーが落ちそうで心配だ。


 そうだよね。普通気付かないよね。なぜ彰は気付いたんだ。というか子狐様すごいなと何から口に出せばいいかわからず私は唖然と彰を見た。


「心をよめるのと一緒で祠の周囲限定だけどね。子狐ちゃんったら気遣い屋さんだよねえ。口に出して言わないでしちゃうあたり損する性格だけど」


 唐揚げを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼しながら彰はいう。

 だから何でお前は気づけたんだと突っ込みたいが、座布団の時と同じく「空気の流れで」とか言われても分からないので問いかけを飲み込む。


 と同時に不器用な子狐様に愛おしさがわいて、私は美味しい油揚げを用意しようと心に決めた。

 隣で香奈も「油揚げってどこのが美味しいんだろう」とつぶやいていたから気持ちは一緒みたいだ。


「そういうわけだから祠ならいつでも快適温度だし、祠の前でいいんじゃない? 今日は噂ではじめで騒ぎになりそうだからこっち来たけど」

「噂広まっちゃったし、今までみたいに通うのは問題なんじゃ?」


 人が来ないと分かっていたから堂々とお茶をしていたが着物姿の金髪美少女と学校一有名なアイドル男子。男顔負け高身長な私に大人しい香奈が地面に座布団を引くという暴挙のうえでお茶を飲む図など奇妙でしかない。

 あっという間に新たな噂が、不名誉な形で広まってしまうだろう。


「最初は物珍しさで行く人いるかもしれないけどそのうち落ち着くだろうし、あとお願いごとのルール決めたから」

「ルール?」

「そう。ただ願い事をするっていうよりもルールがあった方がそれっぽいし、変に人が寄り付かないから僕らもやりやすい。まー、ルール破る人もいるだろうけど、そういうやつらはもともと本気じゃないから相手しなくていいし」


 彰はそういいながらご飯を口に運ぶ。小さな顔に似合わず彰の一口は大きい。そういうところを見ると男だなと思う。


「早朝5時に祠の前にお願いごとの紙を入れる。ついでに祠を掃除したり、お供え物の油揚げを置くとさらに効果がある。っていうのも流しておいた」

「早朝5時……」

「ぼくらと鉢合わないでしょ」

「ちゃっかり掃除とか貢物の件も押し付けたのね……」

「そのくらい軽いものでしょ」


 彰は自信満々の笑みを浮かべた。

 確かに鉢合わない。そんな時間に祠に来る用事なんてないが、願いのために朝からおきる人を思うと哀れだ。効果があるならともかく信憑性をもたせるための嘘だし。

 掃除や貢物だって私たちがやることを押し付けているだけだ。私たちだけより多くの人がやった方が効果があるのは確かだけど、騙している感覚がぬぐえない。


「ついでに、人に見られると効果がないってのも流しておいたから、僕らが祠の前でしゃべってれば近づいて来ないよ」

「いつの間にそこまで……香奈は知ってたの?」

「噂流す前に彰君とは打ち合わせしてたけど」


 七海ちゃんに言ってなかったっけ? と首をかしげる香奈を見て、だいたいは察した。

 香奈は彰が私にも言っていると思っていたのだろう。彰に関しては私に言う気など最初からなかったに違いない。


「いう必要もないでしょ。噂流す担当は僕とカナちゃんだし」


 ご飯を口に運びながら彰は言った。

 その通りだが私だけのけ者なのはどうなんだろう。一応私もチームお狐様の仲間なわけだが。

 自分で思っておいてなんだが、チームお狐様って気が抜ける名前だ。


「そういうわけだから、今後も祠の前に来る人はあんまりいないと思うよ。お願い事以外にうろちょろしてると呪われるよとも流しておいたから」

「あんたは子狐様をどうしたいわけ……」


 子狐様を助けるといいながら自分の都合がいいように操作してないか?

 そう口には出さずに視線で問いかけるとやはり彰は笑っていた。

 彰の事だから私の思っていることを正確に理解しているはずだ。ってことは私の考えはあまり外れていないということである。性質悪いな。


「子狐ちゃんが長生きしたいように僕だって快適な学校生活送りたいからね」


 そういって笑うと彰は最後の一口を口に入れる。

 米粒残さず綺麗に胃袋に収め、両手を合わせると「ごちそう様でした」とあいさつした。こういうところは育ちがよく可憐な外見によく似合っている。

 と思った瞬間に野生児よろしく動き始めるのだから、箱入りなのか野生なのかどっちかにしてもらいたい。

 本当に佐藤彰という人間はアンバランスだ。


 私の考えに気づくこともなく彰は上機嫌に鼻歌を歌い、いつも通りお弁当の返却を頼むと足取り軽やかに屋上を後にした。施錠の鍵も香奈に押し付け済みだ。

 

 晴れ渡った空を見上げて、この調子だと今日も5時間目は来ないだろうと予想をたてる。

 教室では薄幸の美少年を演じているので、休んだところで体調不良だと勝手に解釈され先生にすら大目に見てもらえている状況。

 登校しはじめてすぐの小テストの結果が良かったのも要因だろうが皆が彰に甘すぎる。


 真実をしっている私と百合先生だけが彰の評価に苦虫を噛むつぶしているが、周囲は私たちにも彰の本性にも気づかない。

 それすらも計算なのだろうと思うとぞっとする。

 世の中のすべてが彰の手のひらで転がされているような気がして私は人知れずため息をついた。



***



 放課後、私たちは祠に集まってさっそく願い事を確認することにした。

 彰の広めた噂が効いているのか祠に私たち以外の気配はなかった。

 誰かと鉢合わせするのではとドキドキしていた私としてはほっとすると同時に肩透かしを食らった気分だ。

 そのうえ彰が広めた噂の効果に戦慄する。あくまで噂にここまで効力があるとはますます彰の将来が不安になる。

 主に犯罪者にならないかどうかという点で。


 彰の将来に対しての不安は尽きることはないが、とりあえずは子狐様のことが優先だ。

 噂は広まるのも早ければ収まるのも早い。面白みのないものや変化のないものはあっという間に埋もれて消えてしまう。

 鉄は熱いうちに打てというし話題に上がっている間に次の手を打った方がいいというのが彰の意見だ。


 祠の前で子狐様が不機嫌そうに立っていた。

 小さな体から放たれる怒りオーラを見ると、この間の事件の事が思い出されて冷や汗が流れる。その後すぐに彰にひどい目にあわされていたことを思い出して同情の気持ちが沸き上がるから何とも言えない。


 そんな私の気持ちには気付かずに子狐様は相変わらず不機嫌な様子で祠をにらみつけている。

 何故だろうと近づいて視線の先をのぞき込めば、開け放たれた祠の扉の中に沢山の紙が入っていた。

 お願いごとの紙だろうと察すると同時に思ったよりも多い量に驚いた。


 紙は様々な大きさのものがお世辞にも丁寧とは言えない様子で入れられていた。綺麗なものもあるにはあるが、多くはとりあえず投げ入れてみたという手抜き加減。

 どう見ても願いを叶える気のない悪ふざけに子狐様の不機嫌の理由を悟る。

 

 私の家はゴミ箱じゃないんですがと低い声でつぶやく子狐様を見ると願いを叶えるどころか入れた主は呪われるんじゃないかと心配になってきた。

 悪ふざけをしたものは呪われるっていう噂に関しては耳にしなかったか、冗談だと気にしなかったのだろう。不運だ。

 

 釘をさす意味でも軽く呪ってもいいよ。と彰は願い事を確認しながらのんびりした口調でいう。

 ふざけた相手に心の中で合掌した。


「思ったより多いね」


 祠から紙を全部取り出して地面に置く。思ったよりも多い願い事の数に香奈は驚いていた。私も正直ここまで効果があると思っていなかったので香奈と同じ気持ちだ。

 噂を広めて数日だというのにこの効果。最初はせいぜい、2、3枚くらいだろうと思っていたが、願い事の数は軽く二桁は超えている。


「この間の子狐ちゃんが徘徊したのがよかったね。祠を直した後にピタッと目撃情報が消えたし、百合先生と尾谷先輩が祠を直したって話も広まってたし」


 徘徊という言葉に子狐様が眉を吊り上げた。その言い方はどうにかならなかったかと視線で彰に訴えているが彰は無視だ。気付いているだろうに相変わらずだ。


「噂をそのまま信じている人はいないだろうけど、もしかしたらって信じる気持ちに傾いてる人が多いみたい。

 ってなったらここで畳みかけて信者獲得しちゃうのが手っ取り早いよね」


 人の悪い笑みで笑う彰を見ると悪事の片棒を担いでいるような気がしてくる。

 おかしい。私がしているのは人助け及び神助けであり、良いことをしているはずなのだが詐欺を行う前みたいな罪悪感は何だろう。

 すべては彰の悪人面のせいだと責任を押し付けた。


 百合先生と叔父、甥の関係に当たると広まったときは「似てない」と学校中で話題になったが悪い顔をしている彰の表情は百合先生そっくりだ。寄りにもよってそんなところになくてもいいのにと。


「でも、どれを叶えたらいいのかな……?」


 香奈が願い事が書かれた紙を眺めながら眉を寄せた。

 香奈が持っている紙には「努力しないで成績をあげたい」と書かれている。大人しく勉強しろと返したい。


「なるべく切羽詰まった感じのやつがいいな。ピンチです。助けてくださいって必死さ感じる奴」

「文字だけでそんなの分からないでしょ」


 そう言いながら彰は読んでいた願い事の紙を握りつぶした。必死さを欠片も感じない愉快犯の犯行だったのだろう。

 子狐様に頼んでわざわざ燃やしてもらう所を見ると相当くだらないことが書いてあったらしい。ちょっと気になるが、聞いたら八つ当たりされそうなので黙って願い事の山の中から一枚取り出した。


 ほかの紙がルーズリーフやノートの一部を切り取った雑なものの中、それだけはしっかりとした便箋に書かれていた。おり方も丁寧で、尋常じゃない思いを感じる。

 一枚だけ浮いているというか必死さを感じて私は妙に緊張した気持ちで折りたたまれた紙を開いた。

 もしかしたら彰がいうところの必死の願いかもしれない。


 人目見てこれは本物だと感じた。まず文字量からして違う。

 香奈や彰が見ていたものは一文で簡素に書かれているものが多かったが、便箋一杯に文字が書かれおり、妙に力の入った文字は必死さが垣間見れて私はすぐさま書かれた文字をおう。


「……ものすごい必死な願い来てる……」


 全部読み終えた私がつぶやくとまたもや子狐様に紙を燃やしてもらっていた彰が顔を上げた。

 子狐様、香奈、彰の視線が集中する中私は便箋を全員に見えるよう真ん中に置く。


「これはまた……」

「うわあ……」

「なかなか切羽詰まってますねえ」


 三者三様の反応を見ながら私はごくりと唾を飲み込んだ。

 香奈は顔が青いし、子狐様は呆れ気味。彰に関しては完全に引いている。

 嫌そうな顔をする彰というのは珍しいが、気持ちはよくわかる。私だって読みながら引いたし気分は悪くなるし、手紙の主に同情した。


 手紙には今まで自分がストーカー被害にあっていたこと。

 そして自分の大切な人がある日突然姿を消したこと。

 もしかしたらストーカーが大切な人に何かしたのではないかと不安で仕方ないことが切々と書かれていた。

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