プロローグ
彼女にするならこんな子がいいという理想があった。
髪は長い方がいいし、綺麗な方がいい。
痛んでいない黒髪だったら直の事良い。
体系は小柄で守ってあげたくなるような子がいい。
性格はおとなしくて、笑うと可愛い子がいい。
執着しているというわけでもないけれど、好きなタイプは? と聞かれたら浮かぶ理想の彼女像。
脳裏に浮かぶ理想の姿はいつだって俺にやさしく微笑んでくれる。
だから、違う。お前は違う。
背後からまとわりつくような視線を感じて俺は歩みを止めた。
嫌になるほど感じた視線の正体を俺はとっくに知っている。
知っているからこそ拒絶したくて仕方ないのに、恐怖を感じた喉はからからに乾いて声が出ない。
違う。お前じゃない。
俺が理想としているのはお前みたいなやつとは正反対だ。
恐る恐る振り返ると曲がり角からこちらを除く目が見えた。
手入れしていないぼさぼさの髪はとりあえず流行にのってみた程度のおざなりな茶色。そんな適当なら染めない方がいいのにと思うが、そんなことを気軽に指摘できる関係ではない。
こちらの視線に気づいて嬉しそうに笑う姿に鳥肌が立つ。
女なのは確かだが、自分の何倍も大きな体は女の子というより丸太といった方がいい。よくもまあそれでバランスよく立っていられるものだと感心してしまうほど歪な形に何度見ても顔が引きつる。
「小宮君」
いびつな声が自分の名を呼ぶ。
悲鳴を上げたかったが乾いた喉からは相変わらず声が出ない。じりじりと後ずさって距離をとると俺は走り出した。
違うんだ。違う。
お前は俺の理想とはまるで違う。
だからもう付きまとわないでくれ。
悲痛な叫びはやっぱり声には出なくて、盛れるのは荒い呼吸音だけ。
引きつる喉に痛みを感じながら俺は走り、ただひたすらに誰か助けてくれと祈っていた。




