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茜映す雲

作者: 一条 灯夜

 夜が明ける。

 昨夜の暴風雨を忍ばせる幾筋もの雨雲の隙間から、紫の空が見えた。じきに日も昇る。

「敵の本陣が良く見えるな」

 暴風雨対策のためか、塔の岡の敵本陣は中央に過度に密集し、見張りの兵もかなり少ない。宮尾城の攻囲を解いている、とは言えないものの、本日攻勢を仕掛けるつもりは無さそうだった。

 豪雨後の処理で一日を使う腹積もりなんだろう。

 兵数で勝っている上、我々が未だに草津城から動いていないと信じきっているのだろう。まあ、確かに兵を動かすのには不向きな天候ではあった。


 すっと、雨で濡れた顔を掌で拭う。

 秋雨。季節は合っているかもしれないが、細く濡らす雨ではなかった。手も冷えているが、顔も冷えていた。


 雲が流れていく。素早く、南へと。

 空の色が――、変わった。

 茜映す雲と、血のような朝焼け。


 兜を締め、右手を上げる。

「者共、掛かれ!」

 下命すると同時に鬨の声が上がった。僅かの間が空いたものの、呼応するように、宮尾城側からも。

 陣形を組めずにいる敵を、味方の槍衾が貫く。陶軍の背後を完全に衝いている。挟撃はこれ以上ないほどに成功している。が――。

 朝焼けが終わり、血の色がはっきりと分かったので、意識したわけではなかったが、自然と眉を顰めてしまっていたようだ。村上通康は部隊を率いて敵に突入しているが、目付けのつもりなのか武吉はこちらに残っていると言うのに。

「厳島では、血の穢れは禁忌ですので」

 空に向かって呟けば、粗を探すような視線の湿度は消えた。


 厳島神社付近に敵が本陣を張っていたことは、動きを制限する意味では良かったものの、寺社権力と諍いを起こすのは拙い。戦後処理を上手くしなければ揉めるな、と、表情に出さずに思う。


 完全な奇襲だったからか、敵は抵抗するよりも逃走に主軸を置いているようで、味方の被害は少なそうに見えた。これは、あくまで村上水軍と陶氏の戦いだ。我々は、つぶしあうふたつの勢力を上手く取り込み拡大する。


 ……家督相続のいざこざで、すでに心は潰していた。善人の顔しているのは、単純に利益のためだ。


 夜はもう明けていた。

 いや、宵闇は敵陣にまだ残っている、か。


 昨夜の暴風雨が嘘だったように晴れ始めている空。

 少しだけ、朝の光が虚しいというか……、例えるなら、闇を包んだ光の寂しさのような、ある種の虚無感が胸に去来し――勝鬨を上げる味方の声に流されていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 真夜中にコッソリお邪魔します。 毎回ごめんなさい。 迷惑だったらどうしようとか、悩んでたらこんな時間になってしまいました。 今回はどれも大変なお題でしたね。 私も挑戦してみましたが、あまり…
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