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オンラインゲームを始めよう

オンラインゲームを始めよう@その4「戦術指南」

作者: 川三倉巡

「オンラインゲームを始めよう」の後日譚的ななにかです。

URL : http://ncode.syosetu.com/n2972bu/

「ねー、影虚術女(エーコ)。何度やってもひとり(ソロ)で勝てない敵がいるんだけど、どうすれば勝てると思う?」

「不撓不屈。勝つまで挑むのが最善」


 問いには簡潔な解。樹守銃士(キシュ)は不満げに口を尖らせた。

 ギルドホームの北欧風ロビーラウンジ。しばしの間、設定された静かなBGMが場を支配する。夜の設定になっている空間は、数々の照明光によって淡く緩く満たされていた。


 ふたり以外に姿はない。

 空中映写した画面をいくつも広げたエーコと、ソファに寝転がったキシュ。


「勝てる気がしないから聞いてるんですよーう」

「ドーピング推奨」

「それ、お金かかるでしょー。そうじゃなくて、自分の限界に挑む的な? ほら上手くやる余地ってヤツ。エーコそういうの得意っしょ。ご教示、はいお願いします」


 ソファで足をばたつかせるキシュを、冷めた目でエーコが眺めた。


「…………」


 画面の操作に戻り、何事もなかったかのように作業に勤しむ。


「おーう、無視されてしまいました。えーこ、えーこ、教えてよー。〈愚鈍な鉄巨人(アイアンへヴィ)〉に勝てないのー。何回やっても何回やっても勝てないのー。お知恵を貸してくれてもいいじゃない。アタシは最後まで諦めずに信じてるよっ」

「――はぁ。〈愚鈍な鉄巨人(アイアンへヴィ)〉はソロの登竜門としては最弱。負けているようでは才能がないも同然。諦めたほうが無難」

「ぐはあ、そんなに否定しなくてもいいじゃない。どうすれば勝てるのよー」

「避けて削るだけ」

「か、簡単に言ってくれるなあ!」


 キシュは起き上がると指を突きつける。


「できないから困ってる! エーコはできるって言うの!」

「楽勝」


 さらりと事も無げに。


「私は削りが弱いから、一時間はかかるけど」

「い、いちじかんて……集中力そんなに続くの?」

「ルーチンワークだから平気。臨機応変に戦術を再構築する必要もない。余裕」

「へ、へんたい」

「……は?」

「へ、へんたいだー!」

「違う。ソロするなら普通」

「言い切っちゃう辺り本物――ッ。エーコちゃんはあちら側の住人だったのねっ」

「違う。どちら側か知らないけど、私は変態じゃない」

「一線越えた人は皆そーゆーのよ。そっか、エーコちゃんは変態さんだったのかぁ。アタシびっくりだあ。でも大丈夫、付き合い方変えたりしないから。偏見とかないから」

「理解不能」

「たとえ変態さんでも――」

「意味不明」

「アタシたち友達だからっ。少し変った性癖くら――」

「――〈愚鈍な鉄巨人(アイアンへヴィ)〉」


 強めの語調。


「か、勝ちたいんでしょ。キシュはバランス型だから構成を変えたほうが楽」


 話を戻したエーコを見て、キシュがしてやったりと笑みを零す。


「それでそれで?」

「中距離からの銃撃を主体にして削る。チャージ攻撃じゃないと火力が足りないだろうから、発生する硬直の処理は要練習。キシュが使ってる銃よりランクが高い物も、値段は手頃だから買い変えたほうがいい。たぶん軽く五分は違ってくる。慣れれば――そう、三十分もあれば倒せるようになるはず」


 感心した顔で惚けるキシュを見て、エーコが眉をひそめた。


「なに」

「い、いや。なんか凄いなって」

「……これくらい普通」


 血色の悪い肌を少し赤らめて、エーコが視線を彷徨わせる。

 それが入り口方向で静止した。人影がある。

 白魔女子(シロマ)だ。


「こんばんは」「おー、やあやあシロマ」

「こ、こんばんはです」


 現れた少女に声をかける。


「今ね、エーコ先生の指導を受けてたとこ」


 キシュはソファに座り直し、ぽふぽふと隣を叩いてシロマを呼んだ。


「ソロで勝てない敵に勝つ方法を教えてもらってたのよーう」

「――? 簡単ですよね?」


 シロマはキシュの隣で小首を傾げる。


「…………」「――――っ」


 硬直するキシュ。口元を押さえて笑うエーコを咎める気力もない。

 ゆっくり深呼吸。


「うん、アタシの心は今ズタボロですよ。傷口に塩を塗りこまれた的な? いやいや、きっと悪意はないのよね。大丈夫、アタシだってそれくらい判るつもりよ? でもね、でも。ときには心が折れることだって……うぅ」


 嘘泣きの演技(ロール)は真に迫っている。


「よ、よく解りませんが、なんだかごめんなさい……」

「シロマ。あなたの言う簡単に勝つ方法に興味がある」


 まだ少し上擦る声音でエーコが聞いた。


「え? ひとりで勝てないなら、皆で戦えば良いじゃないですか」

「…………」

「…………」


 エーコは一考。


「それは色々な意味で禁句(タブー)だと思う。オンラインゲームでソロをするプレイヤーは年々増えている。理由は様々。奇妙に聞こえるかもしれないけれど、誰かの力を借りるのが正解とは限らない。今回のケースは縛りプレイの一種。皆で戦えば簡単すぎるから、あえてソロで戦うことでゲーム的な面白味を追求している面も…………あ、ごめん忘れて」


「エーコ先生は『皆で戦わないけど友達がいないわけじゃない』と仰ってる」

「ち、違う!」

「よく知りもしないのに口出ししてすみません……」

「違うのシロマ、そうじゃないの」

「うんうんシロマは悪くないよ。悪いのはこの変態さんだよ」

「ど、どうしてそこを蒸し返すの!」

「な、なにがなんだか……」


 シロマからもっともな感想が出た。


「……こほん」


 顔を真っ赤にして咳払いするエーコ。


「か、勝てない場合は逃げるのが最善」

「……ちょ」「……え」


 ログアウトを実行して消えるエーコにキシュが叫ぶ。


「それは卑怯すぎるでしょう――――!?」

おしまい。

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