七話
そして忍び足で部屋を後にすると、裸足のまんま板張りの廊下をぺったらぺったら歩いて、お隣の部屋で薄い水色のメイド服擬きを引き出しの無い棚からひっつかんだ。
それは二の腕の辺りに腕輪のような簡素な刺繍の飾りが施され、着やすいようにU字の襟ぐりにみぞおちまで切り込みがしてあり紐とボタンみたいな物で止める。
ざっくり編まれたエプロンのような腰布がぐるりと腰まわりを一周し、さらに上から飾り紐で固定する。
尾っぽを追う犬のようにクルクル回りながら、布が寄ってないか確かめ、シワを伸ばして身繕いすると、そそくさと家を後にする。
そよぐ青嵐はすがすがしく、ざわめく青々とした木々の合間。
縫うような細い獣道をペタペタ歩く。
裸足で踏みつけるチクチクした地べたに難儀はするが、ひんやりした土や石つぶてや砂にも大分なれてきた。
彼らは土足云々以前に、靴を履かない。
男性も女性もワンピースで着られる服を好むし、基本的にアナコンダ状態を好む彼らには腰布は生活に必須アイテムのようで、私はあまり使わないが貸すこともあるだろうとなるべくエプロンもどきは身につける
そして7分もあるけば、職場であるマリモの浮いたショッキングピンクの温水湖にたどり着いたのであった。
マリモの湖。温水湖にパンパンとかしわ手を打ってから一礼し、朝の点検に他の温泉も見て回る。
湯煙薫る朝の銭湯、壊れたり異常がないか確認してから 貸し出しの桶やなんやらを見て回り、足りないものがないか確かめて、終われば
水をせき止め、底に沈む木の葉やら石やらなんやらをかきだし洗って、再び温水をひく
点検と清掃が終わると、次は補給、次はなにがしとやることは多い
働かざる者食うべからず
異世界に来て、まだ10代も半ばなのに勤労せねば 寄る辺がない。
不満もないが、
正直、ーーー。
峰岸董花はギュッと目を閉じた。一時的に時間が止まったように動くのを止め、そこで考えることを辞めることにした。
銭湯の朝は早い
開けきらぬ内に下ごしらえをはじめ空が本格的に明るくなると、ヨソの持ち回りだったにょろっとした人達も大集合で、
マリモの湖の前で朝礼が始まった。
空は水色、雲ひとつなく
早朝のザワザワした風は収まりを見せ、気温が高く、暑くなっていく。
どうやら一族の顔役らしき、あの雲のように真っ白な髪のあの年配の女性が紅玉のような目元をほころばせ朝の挨拶をおこなう。
サンサンと照りつけだした日に、今日も暑くなりそうだとぼんやり考えた。こんな日は飲み物のヘリが早い
仕事の段取りも考えながらの朝の集会は駆け足で過ぎていった。
真っ白な朝日が窓から差し込む寝室。
二度寝から目覚めた、にょろっとした人ことシオンさんは真っ先にシーツをまさぐった。
蜘蛛の一族産のそれに熱は感知出来ず、とうの昔にベットを後にしたらしい事は何となくわかった。
額の在らざる目は辺りの熱源を探るが、家のなかにも人気はない。
ボリボリ頭をかきながら起き上がり、シーツを腰巻き替わりに立ち上がる。
白い漆喰の壁と足の裏に吸い付く板張りの床をペタペタと踏みながら、扉のかわりのシダのようなカーテンをより分け廊下を歩く
いや歩こうと、した。
それは朝のせいりげんしょう、かすかに布団に残った残り香に何時もより大変な事になっており彼は二択を迫られた。
朝の光に照らされた、白い漆喰の壁と赤茶けた冷たい木の廊下で、ヤンキー座りの曲げた足にひじをついて
寝不足の重たい頭を抱え、シオンさんは扱いかねる新しい同居人のことをぐーるぐる考えていた
どないせぇっちゅうねん、とイントネーションがおかしい関西弁を連呼しながら、娘を扱いかねる父親みたいな気分を味わっていた。
まず1から説明するとしたら、年若い野郎の元にオナゴを預けるトコからカタ・ナ様がなに考えてるのかお察し頂きたい。
そもそもラミアーは女性が多いのだが、貴重ほどでもない野郎が独り身でブラブラしてたら見合いの遣り手ババア(解らなかったらおばあちゃんか母に聞こう☆)よろしく斡旋しようと今まで余所の一族のネコミミとかハーピーとか精霊をはた迷惑な事に人の家に放り込んで来たのだ。
ヤリはしても、どうにもこうにも所帯をとならないトコロに、流れ渡りを拾ってきた☆となったため 丁度いいじゃん観念して捕まえろよ?!ロリコ、じゃねぇ幼妻わっほーい、とか独身貴族とか老後どうすん?みたいに物凄く責められている。
たしかに、いい匂いだし、前に抱えた時の心地よさとか色々たまッ……好ましいとは思うが、彼女の身の上とか考えれば、こんな状況はまるで逃げ道がなくズルをしているようで、
ニヨニヨしながら遠巻きにこちらを眺めている村人等に、外堀から埋められていく彼女と自分に腹の底から唸った。
一言書き添えるならば、言ってやろう。
こっんの、ロリコン野郎。