四話
かれこれ80年は、お目にかかる機会が無かった存在のお出ましに
どーすっぺと頭が混乱する、
「んー…」
が、先ずは本人の意思も確認しなきゃダメだろと言葉を選んで、口を開いた。
「…それで、どうして欲しいのかな?」
しかし、言葉の選択をものの見事に間違えたようで
みるみる、泣きそうな顔をして、うつ向いていく子供は
「け、いさつ 呼んで、いーよ」
しゃがみこみ、涙声でそう言って
ほんとに、女子供は、扱いづらいと こっちが泣きそうになりながら、一緒にかがみこむ。
うずくまり震える額から髪をかきあげて
「…」
顔を見ようとするも、手を振り払われる
「…、村長ならさ、なんか もうちょい話、わかるかもよ?」
会ってくれねーかな?と話しかけても
無視。
どないせーちゅーねん と心の中で関西弁で突っ込んでみても、何か変わるわけもなく
我慢にも、限界がありまして
脇腹をためらい無く掴むと、俵のように肩に担ぎ上げ
うおっ、とか言う色気もクソもない悲鳴を聞きつつ、ざりざりと道を進んでいく
迷子センターと、村長ン宅は温泉を真逆で
途中出会った同僚に仕事を押し付け、減給だろうなあと内心べそかきながら
その子供を、とりあえず賢い人に会わせてやることにした。
道中、担いだ子供は身じろぎ暴れて、膝やら肘やらがあちこち蹴るわ殴るわ
地べたに捨てていきたくなりつつ、ようやく着いた長老宅。
その頃には、落ち着きを取り戻したらしく
ぐずぐず鼻を鳴らしながら、おとなしくなったそいつを下ろしてやり
災難なやつ、と思いながら頭をワシワシ撫でてやった。
160、あるか無いか
女でも、低くても170あるコチラでは、かなり低い
腫れた目で、コチラを見上げ、それにアゴをしゃくって中に入れと促して
話を聴いて、ちょっとでも安心してくれりゃ 良いなあと ぼんやり期待した。
*
木々の合間の踏み固められた草のない学校のグラウンドのような土の上
俵のように抱えられたまま揺られ、ザラザラと音を立て足が地を擦って進むのを体に感じながら
やがて 日の光が差し、林が開けた場所にたどり着いたらしく ポンポンと背をたたかれ、ニョロッとしたお兄さんが着いたぞと私に声をかけた
地べたにトンと降ろされ振り向くと
瞬く星のような模様が日の光を跳ね返し目にチカチカする、まるでサーカスのテントのような金銀に紫のそれが建っていた。
にょろっとしたイケメンなお兄さんはざりざりと寄ってくと手で布の切れはしを手繰り、薄暗い中へ入ってしまい
その背中を見送って、立ち止まったままどうしようか躊躇っていると中から暖簾のように切れはしをより分け
「なにしてんだ早く来いよ」
と手招きされたのだった。