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バレンタインデーの仕返し

作者: 村上泉

ホワイトデーに投稿するために書いた、ホワイトデー企画でした。

が、

間に合いませんでした。゜(゜´Д`゜)゜。





「覚悟しておけよ」


 ホワイトデー前日に、愛しのダーリン(笑)から来たメールだ。

 届いたいたのは、ちょうど、11時59分。

 久しぶりの彼氏からのメールより眠気が勝り、彼の言葉を深く考えることなく、


「了解」


 と「り」と押せば予測変換で出るような言葉を返信し、そのまま眠りについた。


 次の日は、高校の卒業式だった。

 長かったようで短かった高校生活だった。

 色々なことを思い出して、卒業式では泣いて、その後は、最後の制服での寄り道の時間を友達とわいわい過ごした。


 帰りは少し遅くなり、友達と別れた帰りの電車でケータイを開くと、


「早く帰ってこい」


 というメールが入っていた。

 彼氏から。

 

 母からじゃない、彼氏からだ。

 

 なんで、私が家にいないことを知ってるの?!

 と思ったが、電車を降りてから電話をしたほうが楽か、と思い、最寄り駅で彼のケータイに電話をかけた。



「もしもし?今どこ?」


 久しぶりに聞く彼の声。

 少しだけ嬉しくなって自然と顔がにやけてしまう。


「駅。てか、どうして私が家にいないことを知ってるの?」


 彼の後ろではガヤガヤしたテレビの音が聞こえる。

 どうやら、彼は自宅にいるらしい。


「はぁ?お前の家にいるからだよ」


 どうやら、彼は私の家にって、え?


「ちょっと待って!?それどういうこと!?」

「うるせーな。電話で大きな声出すなよ。とにかく急いで帰って来い、珠里じゅり


 そこで、電話は切れた。

 最後に名前で呼ぶなんて反則だよ。


 それにしても彼の言っていることはよく分からなかった。


 でも、昨日のメールを思い出し、なんでか分からないけど、鳥肌がたった。


 家に着くと、彼と私の両親が凄く楽しそうに談笑していた。


「お帰りなさい、珠里」


 母が私に気づいて言うと、父も「おかえりー」と少しお酒の入った赤い顔で言い、それに続いて、彼も


「お帰りなさい」


 と言った。

 なんだか、彼にお帰りだなんて言われるのは変な気分だ。

 そんなことを思いながらも、


「ただいま」


 と言う。

 

 それから、彼に手招きを、されて、彼の隣に座った。

 すると、彼は綺麗な姿勢をさらに正して、薄い紙を取り出し、それを机の上に置いた。


 見えたのは、「婚姻届」の文字。


 驚いた顔の父、「まぁ」と言いながらも嬉しそうに笑う母。


「娘さんを僕に下さい」


 在り来たりなセリフを言った彼。


 

 何が起きているのでしょうか?



***

******

*********




 私ー笹沼珠里ささぬまじゅりが、彼ー相成光太郎あいなりこうたろうと出会ったの高一の時だ。


 まず、私が今の学校に入った理由を話そう。

 中学生の頃、今の高校の文化祭に行った。


 その時にたまたま講堂でやっていた演劇部の発表を見たのだ。

 

 その演劇に私は感激したのだ。

 物語は、ある歌を題材にしており、友人三人が、主役の恋を応援する、というもので、劇は明るくコメディー調で進んで行く。


 主役はベタだが、クラスの人気者の男子に恋をしていた。

 だが、なかなかお近付きになれない主役。

 友人が応援するがうじうじ。

 そんなやりとりが続く。


 そして、私がこの劇に感激したのはオチの部分だ。


 実は、主役はクラスの人気者の男子とすでに付き合っていたのだ。

 

 二人は学校ではその関係を隠していた。

 だから友人もそのことは知らなかった。


 確かに、主役はその彼と「付き合いたい」とか「恋人になりたい」など言ったことはなかったし、妙に彼の情報を知っていた。




 

「まぁ、あいつが幸せになるのなら」


 劇の最後は友人のうちの一人のこの台詞で終わる。

 

 そして、そして、友人三人は全員彼の元恋人だった。

 しかし、彼は彼女たちを愛していた訳ではなく、主役と近付くために付き合っていた。


 そして三股していた挙げ句、本命の主役と付き合えたからと、その三人ともフラれた。


 そして、すべてを知った上で主役の応援をしていた。


 私はその三人のことを想い、最後は泣いていた。

 


 その劇の影響でその高校に入学し、勿論演劇部に行ったのだが、劇の脚本は数年前の脚本の使い回しらしく、書いた人は数年前に卒業してしまったらしい。

 興味のなくなった演劇部に入らず、仲の良い友達と園芸部に入り、高校生活を送ることにした私だったが、高一の夏休みにあの脚本の作者ー相成光太郎に出会った。


 夏休みに花壇の世話をしに学校の花壇に居た時、演劇部のOBとして指導に来ていた、当時大学四年の光太郎に声を掛けられたのだ。


「花を貰って喜ばない女の子っているの?」


 と。

 突然そう言われて驚いたが


「いないことはないでしょうね」


 と答えておいた。

 少し素っ気ないのは知らない、しかも制服を着ていない男の人だったから警戒したのだ。


「そうか。君は好き?花」


 光太郎は私の様子など気にしたようでもなくまた聞く。

 花壇の世話なんてものをしているのだから、嫌いなわけがない。


「好きですね」


 勿論そう答えた。


「そっか」


 と光太郎は言い、遠くを見つめた。


 しばらくしてから、光太郎はその質問の理由を話してくれた。

 自分が脚本を書いていて、その中で、花を見て、泣きながら「いらない」と拒絶する女性が登場すると…。


 その時、あの演劇の脚本が思い浮かんだ。

 しかし、まさかこの人だとは思わなかった。


 それから毎日、花壇で光太郎と話すようになった。

 私達が仲良くなるのに時間はかからなかった。

 光太郎は今まで高校の指導に参加しなかったため、この四年になって友達に大学生活の記念の最後にと、誘われて来たらしい。


 感覚で言えば、たまに遊んでくれる従兄のお兄さんといった感じだろうか?


「こーたろー。脚本完成したー?」

「馬鹿。全然できねーよ。てか、お前、一応俺先輩だぞ!?もっと敬え!」

「うーん。分かりました。相成先輩」

「ごめん。キモイからやめて」


 夏休みの中盤にはこのくらいには仲良くなった。

 そして、同じく恋心も目覚め始めていた。


 光太郎と仲良くなってからなくなりかけていた、演劇部に対する興味がまた出てきていた。


 そして最終日、光太郎に内緒で演劇部の練習を覗いた。


 白雪姫をパロディにしたもので、継母が百合の花を見て泣き出すシーンがあった。


 すぐにこれが光太郎の書いた脚本だと思った。


 通しの練習のようで、物語は泊まることなく進んで行く。


 最後は白雪姫が女王になるという終わりだったが、それはあの演劇に似たものを感じた。


 なんとなく、あの演劇の脚本を書いたのも光太郎な気がして、でも光太郎には聞きたくなくて、演劇部の人にこっそりと聞くと案の定光太郎だった。


 少し前から光太郎に好意を持ち始めていたが、そのことを聞き、憧れの感情が相まって、好意が加速していった。


 夏休みが終わり、光太郎とも頻繁に会えなくなったが、毎日連絡をとっていたし、たまに会っていた。


 そして、必ず好意を口にするようにした。

 最初の告白は夏休み後一回目に会った時、


「こーたろーのことが好き」


 と言ったら、


「おー?何冗談言ってるんだ?」


 と言われ流された。

 でも、負けじと、メールや電話でも「好き」「大好き」「愛してる」などを連呼するようになり、メールに関しては、面倒くさいので、「愛しのこーたろーへ。」から始まり「大好き、愛してる」を最後に入れる定型文の設定をしておいた。



 そうして、光太郎と出会って半年が過ぎたある日、夕方頃、電話で光太郎に呼び出された。


 場所は行ったこともない場所で、地図がメールで送られて来た。

 なんとかその場所にたどり着くと、そこは大きな庭園だった。

 

 一般公開されている、昔の貴族のお庭らしいが、閉園間近らしく、人が少ない。


 庭園にはたくさんの花が咲いており、とても綺麗だ。


「珠里」


 噴水の前のベンチに光太郎が座っていて、私を見つけた光太郎が手招きをしていた。


 私は光太郎の横に座った。


「いつものやつ言って」


 座るやいなや光太郎はそう言った。

 そんなこと言われても、改めて言われると恥ずかしい。

 でも、真剣な目の光太郎に逆らえなくて、


「好き」


 と言うと、光太郎は


「もっと」


 と言う。


 なんだ、この羞恥プレイは!?と思いながらも


「大好き!愛してる!」


 と自棄になりながら言うと、


「俺も。俺も愛してる。恋人になってください」


 と光太郎が言った。

 驚いて目を見開いたが、次には光太郎の腕の中にいた。

 私は何回も頷きながら、光太郎の胸に顔を押し付けていた。


 それから私が高二になり、光太郎が新社会人になり、光太郎が凄く忙しくなった。

 私もぼちぼち受験勉強が始まり、会えない日が続いた。

 そして、高三になり、光太郎の仕事が少し落ち着いた頃に、私は受験生となりもの凄く忙しくなった。

 

 

 ***

******

*********


 



 今の私は高校生活を終え、大学に行く予定で、忙しさから解放され、自由で、楽しい時間なはずなのに、どうして、私は光太郎と婚姻届を提出するために役所に向かっているのだろうか。



 あの後、父と母は迷いながらも、「娘さんを僕に下さい」と言った光太郎に頷いた。

 私はこの二人の反応はおかしいと思う。

 というかもっと反対した方が良いと思う。


 そして、私はあれよあれよと書類を書かされて、そのまま


「今日は絶対に、何もしません。どうか、娘さんを私に預けて頂けないでしょうか?」


 と光太郎は父と母に了解を取り、婚姻届と私を車に乗せて、車は我が家を出て行った。



「ね、こーたろ。どうなってるの?」


 私は一連の出来事がうまく理解出来ていなくて、光太郎にそう訊ねた。


「今日はホワイトデーだから。お返しだよ」


 確かに今日はホワイトデーだ。

 だけど、お返しってなによ?!


 そう思っている間に役所に着いた。


「待って!こーたろー!」


 このまま本当に婚姻届を出してしまうのだろうか…。


「なんだよ」


 ふきげんそうな顔をする光太郎。


「なんだか、突然過ぎるし、それにこんな勢いだけなんて嫌だよ」

「勢いじゃねーよ。俺はバレンタインデーから1ヶ月考えたんだよ。そしてこの結論に至った」


 そう言って、光太郎は一つ深呼吸してまた言った。


「未来のことを考えた時、珠里がいない未来が思いつかなかった。だから、結婚しよう。珠里じゃなきゃだめなんだ」


 今まで光太郎に言われたことのない、熱を持った言葉に、私は顔が赤くなるのを感じた。

 心なしか光太郎も顔が赤い。


「うん。結婚する」


 ただ漠然と思ったことを口にした。

 涙が出そうになっていると、光太郎が私の手をとって、ポケットから指輪を取り出した。


 ぎこちない動きで、その指輪を私の指に通した。


「何これ…?」


 明らかに高そうなあれだ。

 そんな分かっているが、口に出たのがそんな言葉だった。


「バレンタインデーのお返しだよ」


 また、それ。

 

 てか、そもそも、私、忙しくてバレンタインデーどころじゃなくて、お徳用のチョコの小袋がいっぱい入ってるやつ(近くのスーパーで購入)を適当に光太郎の家のポストに突っ込んだだけの記憶しかないんだけど。



「私、バレンタインデー…あげてないようなもの…なんだけど…」


 今更ながら自分の行いに後悔しながら光太郎に言うと、光太郎は嫌な笑顔を浮かべながら、


「いや、いいものをもらったよ。ありがとうな、珠里」


 と言った。


 どうやら光太郎はバレンタインデーのチョコに怒っていたようだ。


 流石にあれはダメだったのか…。


 結局、二人で手を繋ぎながらその日に婚姻届を出した。


 それから二人で光太郎の家に行くと、1ヶ月前に光太郎にあげた、お徳用のチョコは袋が開けられることもなく、おいてあった。


 そんなにだめだったの?

 おいしいのに…。

 手ぬきだけど…。


 と思いながらも、なんだか只ならぬものを感じて、もう見ないことにした。




***

******

*********




 結婚して数年経ち、私は大学を卒業し、今では二人の息子の母となった。


 一番上の子ー亮が小学生になるために、一人部屋が欲しいと言い、光太郎が物置にしていた場所をあけることにした。


 そして、私はそこの片づけをしていたのだが、そこには学生時代、光太郎が書いた脚本がいっぱい出てきた。

 どれも面白く、私はつい、出てくるそれを読んでしまう。


 そして、ある二つの脚本を見つけた。


「庭園にて」

「バレンタインデーの仕返し」


 どちらにも身に覚えがある。


「えー?!」


 内容は「庭園にて」が告白の話、「バレンタインデーの仕返し」は婚姻届を出す話だ。


 そして、どちらも光太郎が言った台詞、状況、まったく同じだ。



 あいつ、脚本書いてから実行していたのか…。

 根っからの脚本家だな、と呆れながらもその二つの脚本を大事に抱え込んだ。


 光太郎は放送局に就職後、転職して脚本家になった。 


 最近はたくさん仕事を貰って苦しそうであり、楽しそうだ。

 そんな、夫を支えるのも悪くない。


 あの時、半分勢いのように結婚したのは正解だったのかもしれないと、思いながら、片づけを再開した。







 「バレンタインデーの仕返し」はチョコを手抜きにした珠里に捨てられるかもしれないと焦った光太郎が、珠里を自分のものにしておくために書いた、作戦帳のような脚本だった。

 そして、光太郎は珠里が自分の脚本が好きなことも知っていた。


 光太郎は幸せだった。

 光太郎は自分のこの脚本を書く能力に感謝している。

 珠里と一緒にいれて、子供が生まれ、好きな仕事が出来ている。


 

「愛してるよ、珠里。君のためになら俺はなんだって利用する」


 光太郎は脚本の手を止め、珠里の部分を消しゴムで消し、書き直した。

 この脚本の主人公の名前は勿論珠里じゃないからだ。


 そういえばと思い出した。

 高校時代書いた、三股男の話、我ながら、あの男は自分に似ていると、光太郎は思い出しながらも思った。


 しかし、すぐに作業に戻る。


 愛する者のために、今日も光太郎は、脚本を書く。

1ヶ月遅れでの投稿になりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

だいぶ駆け足で書くことになったため、修正はまたしていきたいと思います。



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[一言] これ好きだな。最後のオチと言うか一コマがハッピーエンド好きちすては愛されてる感いっぱいで嬉しい。
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