第一話 始まりと終わり
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「起立、礼!」
「「「さようなら~」」」
………………
…………
……さて、いつもの退屈な日常が終わった。
俺が誰かって?
ただのしがない高校生さ(キリッ
冗談はさておき、俺がただの高校生であるのは確かだ。
そして今し方、学校から自宅へ帰ったところである。
ソファに寝そべって時代遅れに差し掛かった携帯をいじる。
いつも通りの行動だ。
まぁ俺について説明すると、特に取り柄もない只の凡人である。
唯一やっていた剣道も、高校へ入る前にやめてしまった。
高校では友人も出来なかった。
竜ヶ崎 零、十七歳。
容姿は至って平凡。
身長百八十弱。
特別高くもない。
顔立ちも普通か、あえて言えばつり目気味である。
反して性格はお人好しだと思われる。ここらのヤンキーに比べればだが。
まぁ、そんな俺だが一つだけ変わっているとすれば……
……瞳が赤いことだろう。
中二病ジャナイヨ。昔カラダヨ。
周りからは、とあることがきっかけで"真紅眼の黒悪魔"とも"死神の代行"とも呼ばれたが、特に気にしてはいない。
あともちろん言っておくが、彼女もいないし女性経験なんてあるわけがない。
それと両親は死んだ。
物心付く前に死んでしまった彼らを、思い出すことは出来ないが。
というわけで俺は、生きるために夜な夜な一人働いている。
そしてそんな俺の仕事は……
……何でも屋をしている。
何でも屋が何かって?
何でも請け負うから何でも屋なのだ。
説明になってないな。
つまりは殺し意外の暴力沙汰なら何でも請け負うよ、ってことだ。
いや、『便利屋』と言った方が分かりやすいか。(もともとはそんなつもりはなかったのだが、そっち系統の依頼しか来なかったのだ)
別に『便利屋』だからといって、銃と剣で悪魔との死闘を繰り広げたり「悪魔も泣き出す」なんて言われたりしないからな!
悪魔と呼ばれることはあっても、別に悪魔の血は混じってないからな‼
それとホームページからのアクセスで依頼を請け負うのだが、未だに変な依頼しか来ない。
ページの各所にドクロとかを配置したり、赤とか黒を基調として配色してみただけなのにな。
え? 変な依頼しか来ないのはレイアウトと配色のせいじゃないかって?
仕方ないじゃないか、俺の趣味だ。
あと、その仕事の鮮やかさから"漆黒の殺陣鬼"やら"生ける死神"やらと皮肉られた。まぁ格好悪くはないから、別に気にしていないが。
ちなみに依頼は都内限定である。
そして今晩の依頼。
ヤクザの頭の粛清、及び資料の奪取である。
俺はいつもの黒いコートに同色のマフラーを首に巻いた全身黒尽くめで、金属製の木刀(木製じゃないから鉄刀な気もするが)と麻酔銃を持って仕事に出た。
端から見ればアサシンの様であるが、いつものことだ。
アサシンと言っても、別に白いコートで手元からナイフが飛び出す訳でもないし、腕輪に仕込み銃などが付いてる訳でもないので、高いところに居たとしても『イーグルダ○ブ』なんて無謀な真似はしたりしない。
もう一度言うが、俺は黒いコートに黒いマフラーの全身黒尽くめである。
そんないつも通りの生活の最中、とある問題は着々と進行していた。
そんなことを知る由もない俺は、いつも通り仕事に出掛けるのであった。
………………
…………
……
赤い道標を残しながら一つの黒い影が雨の降る町中を風のように駆け抜ける。
その日の仕事はいつもの様に事が運ばなかった。
脇腹が痛む。
手で押さえてはいるものの、鮮血は収まらない。
しくじった……
取り巻きの数が情報よりも多かったのだ。
偶然か、はたまた罠か。
今となってはそれも分からないが。
ヤクザの頭を気絶させて資料を手に入れた瞬間の狙撃。正直、最も油断する瞬間であった。
そうして腹に受けた銃撃は急所ではなかったものの、流血が確実に体力を奪う。
徐々に薄れゆく意識と共に、俺の足はついに止まってしまう。
そのまま倒れるようにして、近くにたまたまあった金属製の階段を背もたれにして座り込む。
俺はここで死ぬのだろうか……?
いや、もう十分過ぎる程生きた。
この世界に未練はない。
そしてそのまま重い瞼を閉じた……
「お‥て……」
追っ手……?
いや、幼なさが残る様な声だから一般人の少女だろう。
言ってる意味は分からないが。
まぁ、今更どうでもいいことだ。
「起きて……」
うるさい奴だ。
せっかく気持ちよく眠れそうだったのに。
「ちっ、邪魔しやがって……」
俺は思わずグチをこぼした。
「やっと起きたね……。それにしても君も大変だね、こんなことになって」
一般人にしてはおかしなことを言う。
気になってその目を少し開けてみた。
そこには思った通り一人の少女の姿。
だがそれは、明らかに異様であった。
妙に青白いワンピースに、年老いたかのように色のない白色の髪、そしてなによりも異色なのは少女に似つかわしくないその手に握られた――
――刀である。
十人いれば十人ともが異常な光景だと思うだろう。
なぜならその刀は薄紅色に怪しく光っているのだから。
そう、まるで人の生き血でも欲するかの如く……
まぁ、俺にとっては日本刀を持った人間との遭遇など日常茶飯事なのだが。
「で、なんだ? お前は俺を殺しにきたのか?」
「うむ、そうだよ♪」
笑顔であっさり答えたよ……
随分と肝が据わっているようだ。
「それは誰かからの依頼か?」
「んーと、そうじゃないけど……」
確かに殺し屋とは到底思えない様な服装だが。
「えっとね、君はこの世界にいちゃいけないの」
はぁ、そうですか。意味が分かりませんが。
「だったらさっさと殺せよ……」
……どうせもう死ぬのだから。
そう呟きながら目をつむる。
「飲み込みが早いね。じゃあ、そうさせてもらうね」
これで楽に終われる。
願ったりな結末だ。
胸に何かが当たる感覚がする。
痛みはない。
ただ少し、温かかった。
「おや‥み……」
それが、最後に聞こえた言葉だった……