63.「ゴブリン退治」
「商業ギルドや裏のネットワークについては、おばちゃんが根回ししてくれたみたい。
今回の件で大きな動きはないようだよ。
期待していたリックたちの情報もなかったけどね」
ティアがそう言うと、ミューズも肩を落とした。
「教会でも、リックたちの情報はなかったよ。
しばらくは冒険者ギルドを利用して情報を集めるしかないみたいだね。
まずは、カナンのレベル上げかな?
レベル1じゃあ、どこにも行けないだろうし」
「どこにも行けないってどういうこと?」
僕は、ミューズに聞いた。
「町とか施設によっては、入るのにレベル制限をしているところがあるのさ。
まあ、しょうがないよ。
学者じゃなくても、異世界人がいきなり高レベルを取れるとは思っていない。
むしろ逆に、カナンにとっては学者の方がレベル上げがしやすいかもしれない。
まずは、レベル20を目指そう」
なるほど。
そう言えば、そんなようなことを以前に言われた気がする。
「とりあえず、今日は休んで明日からだね。
リリーもおねむのようだし」
ミューズの言葉に、リリーの方を見ると、目を眠たそうにこすっている。
僕も、久しぶりのベッドなので早く寝たい。
皆の意見も一致し、その日は、今後の方針が定まったとは言えないまま、終わりを告げた。
翌日。
僕たちは、昨日話し合った通り図書館に行った。
図書館にある書物は、僕の予想を反して巻物のようなものが大半であった。
歴史の本や風土の本など、僕にとってはこの世界を知る上で興味をそそられる本が多かった。
しかし、今日の所はどのような本があるのかを把握するだけにとどめておいた。
他の面々が飽きてしまったからだ。
「カナン、あたしは、もう限界だ。
そもそも、図書館なんて所、あたしには無縁な場所なんだ」
いつになくそわそわしていたティアが、いつになく真剣な表情で言った。
見ると、リリーも眠そうにしているし、ミューズは中では落ち着いているようにも見えたが、それでもそわそわしていた。
僕は、今度調べものに来るときは一人で来ようと決め、図書館を後にした。
で。
そのあと、どこに行ったかというと。
草原のど真ん中です。
「いや、僕には向いてないと思うんだ」
僕は、震える手でナイフを構えながら、後ろにいる3人に言った。
「大丈夫大丈夫。
危なくなったらあたしが助けてあげるからさ」
「そうだぞ、カナン。
この前の戦闘では、かなり危なっかしかった。
武器の扱いくらい、慣れておいた方がいい」
「カナン、頑張って」
ティア、ミューズ、リリーが、それぞれ言う。
僕の目の前、はるか前には、緑色の小人のような生き物が、3匹うろうろしている。
ゴブリンである。
「せっかく冒険者ギルドに登録したんだから、ゴブリン退治しようよ」
そう、ティアが言い出したためだった。
学者でも、戦闘職と比較すると制限はあるようであるが、戦闘によってもレベルが上げられるようなのだ。
そして、まず戦闘系の依頼として受けるのが、ゴブリン退治なのだそうだ。
いや、でも、無理して戦闘で上げる必要ないんじゃ、と、僕は何度も言ったのだが、色々な理由を挙げて押し切られてしまった。
実際、僕は、レベル1の冒険者としては、ありえないくらいの重装備なんだそうだ。
僕の持っているナイフは、ティアのおさがりではあるが、かなりの逸品で、めったなことでは刃こぼれしないし、よく切れる。
そして、ミューズがミスリルチェインメイルを持ってきた。
グレッグから貰い受けていたらしい。
教会に預けてあったものを、受け取ってきたのだ。
ミューズも身に着けている。
これで怪我などする要素はない。
いやいやいや。
でも、生き物を殺すのは良くないよ。
「ゴブリンは魔獣。
放っておくとどんどん増えて、人を襲うようになる。
あたしたちなら、まず大丈夫だと思うけど、女子供の中には、ゴブリンに襲われて命を落とす人もいるんだから」
「ゴブリンが増えると、突然変異亜種であるホブゴブリンやゴブリンキングが生まれると言われている。
ホブゴブリンはともかく、ゴブリンキングは並みの冒険者では歯が立たない」
「カナン、頑張って」
外堀を埋められ、諦めて前を見た僕の目の前に、恐るべき光景が広がっていた。
なんと、こちらに気付いたゴブリンが、牙をむいてこちらに襲いかかってきている!
「GoGo!」
ティアが、そう言って、僕の背中を押す。
僕は、諦めてナイフを構え直す。
キッと3匹のゴブリンを睨みつけると、やつらに向かって襲い掛かった!
「うおおおお!」
僕の雄たけびに、怯むゴブリン。
僕は、一気に片付けようと、まず、一番大きそうな個体に向かって突撃していく!
しかし、僕の強烈な攻撃は、ゴブリンには届かなかった。
コケました。
なんで、あんなところに石が!
顔を上げると、人間と比較すると裂けるように大きな口から鋭い牙を覗かせた異形の生物3体が、こちらを見下ろしていた。
僕には、その口が笑ったように歪んで見えた。
僕は死を覚悟したが、後ろから来ていた3人の攻撃により、ゴブリンたちは一瞬にして退治されました。
「カナンは、どんくさいなあ」
「しっかりしてくれよ」
「カナン、頑張って」
3人の嘆息を耳に、僕は2度とゴブリン退治はしないと心に誓うのだった。




