61.「マイギルドカード」
ケビンによるレベル認定が終わり、僕たちのギルドカードが発行された。
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名 前:リリー・シェファーフィールド
種 族:エルフ
性 別:女
年 齢:32
所 属:サイドベル冒険者ギルド
職 業:シャーマン
レベル:20
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名 前:カナン・タキザワ
種 族:人間
性 別:男
年 齢:32
所 属:サイドベル冒険者ギルド
職 業:学者
レベル:1
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なんだか、ようやくこの世界の一員になれた気がして、少し嬉しかった。
リリーも、嬉しそうにギルドカードを眺めていた。
「じゃあ、依頼とかはまた今度にして、とりあえず寝るところを確保しに行こう。
色々と情報収集もしないといけないしね」
ティアの言に従い、僕たちはケビンとメリーに別れを告げて冒険者ギルドを後にし、「山吹亭」に向かうことになった。
「山吹亭」では、今回はおばちゃんがちゃんと迎えてくれた。
「お。ティア。待ってたんだよ。
アルデンの町の状況を教えておくれよ。
こっちも、依頼のあった情報を教えるよ」
着くなり、ティアはおばちゃんと話し出した。
ティアは、今までのことを話した。
アルデンの町にゲオルグ・ロックブールという神聖騎士団の団長を名乗る男が、神聖騎士団を率いて、アルデンの町を急襲したこと。
被害は比較的軽微であったが、マーテル孤児院の子供たちが失踪し、僕たちは彼らを探すために旅に出たこと。
アルデンの町の主力はほぼ無傷のため、今まで通りに仕事は行えること。
対して、おばちゃんは、神聖騎士団がアルデンの町を襲うという話は初めて聞いた、少なくとも、本格的に討伐軍を出すにしては話が漏れてきていない、だから、急襲の話はロックブール団長の独断だったんじゃないかと話した。
たしかに、イストーリア支部隊長とか言っている割には、手勢は少なかった。
実際には、ミューズからの情報も総合する必要があるが、おばちゃんの情報でほぼ間違いないんじゃないかと思った。
「おばちゃん。これからは、しばらく「山吹亭」と冒険者ギルドにお世話になって、しばらく情報収集をしたいと思う。
なんで、4人分の部屋をしばらく貸してほしい。
お金は、カナンが結構もらったみたいだから、特に問題なく払えると思う」
「そうかい。歓迎するよ。
お金も、うちの店の手伝いをしてくれれば、別に要らないよ」
おばちゃんはそう言ったが、ティアはやんわりと断った。
「そう言うのも、カナンに任せるよ」
「確かに、男にしちゃあ肉付きも良くないし、暗がりで女装させれば行けるかもしれないね」
「だろ?」
不穏なことを言いだすふたりに、僕は慌てて制止した。
「いやいやいや。
どこに行くのか分かりません。
行く気もありません」
僕は、ふたりとも冗談のつもりだと思っていたのだが、去り際におばちゃんがにやりと笑いながら、
「まあ、心の準備が出来たら、いつでもお願いするから」
と言ったので、背筋が寒くなった。
ティアは笑っているが、やめてくれと思った。
おばちゃんがカウンターの奥に引っ込んだのち、僕たちはあてがわれた部屋に向かった。
僕たちに与えられたのは、前と同じ部屋だった。
そこで、あまり待つこともなくミューズが現れた。
「おまたせ。
無事にギルドカードは手に入ったかい?」
そう聞いてくるミューズに、僕たちは新品のギルドカードを見せてあげた。
ギルドカードを見たミューズは、首を捻った。
「リリーがレベル20なのは妥当だと思うけど、カナンのレベル1って何だ?
しかも、学者って、一番使えない職業じゃないか」
ミューズの素直な意見に、僕は愕然とした。
ティアが解説する。
「サイドベル冒険者ギルドのギルドマスターが、カナンに一番向いてるんじゃないかってさ。
カナンも素直にそれに乗ったというわけ」
「サイドベルのギルマスって、あの、ケビンとかいう頭のおかしい奴だろ?
カナンも、よくあんな奴の言うことを信じる気になったね?」
ケビンって、頭がおかしかったのか?
そんな風には見えなかったが。
ティアもフォローする。
「カナンとは、結構、話が合っているように見えたけどね。
今後、サイドベルを拠点に活動するとすると、ケビンとは嫌でも顔を合わせることになるから。
聖騎士も覚悟しておいた方がいい」
ミューズは、横目で僕を見る。
「そうか。カナンは、ああいうやつと話が合うのか」
いや、なんでそこまで嫌がられているのか分からないんだが。
まあでも、変わった人なのは確かなので、ケビンについて、僕はあえて何も言わなかった。
「でも、学者が一番使えない職業って、どういうこと?
図書館とか博物館とか、無料で入れるって聞いたけど?」
僕の発言に、ミューズとティアは顔を見合わせた。
ミューズは頭を抱え、ティアは肩をすくめる。
「図書館とか博物館とかだったら、公共色の強い職業なら、誰でも入れるんだよ。
私の聖騎士でも入れるし、司祭とか、騎士とか、ある程度のレベルがあればバードとか商人でも入れる」
ミューズの言葉に、僕は絶句してしまった。
その様子に、ティアが嬉しそうに言う。
「あたしでも、司祭のギルドカードを持っているから、入ることくらいはできるよ?」
リリーが、僕の服の裾を、くいくいと引っ張って言う。
「わたしは入れる?」
僕は助けを求めるようにミューズを見ると、彼女はリリーの頭を撫でてあげながら答えた。
「シャーマンは、残念ながら無料にはならない。
だけど、市営の図書館や博物館の利用料なんて、タダみたいなものなので、そうだ! 明日にでも、みんなで行ってみようか」
ミューズの言葉に、リリーは嬉しそうに「うん」と頷いた。




