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僕に回復魔法をください。  作者: シロツメヒトリ
アルデンの章2
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45.「商人」

 結局、リリーは商人に何もしないという選択をした。

 何してもいいんだよとティアもミューズも聞いたが、リリーは首を振った。


「ふたりが代わりにしてくれたからいい。

 気も晴れた気がする」


 と、実際にも、ちょっと晴れやかな顔になった。

 ティアやミューズの言動が商人を震え上がらせたことで、溜飲が下げられたといったところか。

 2人がリリーのことを気遣ってくれたのが、嬉しかったのかもしれない。


「でも、仕返しされたら困るかな?」


 リリーが、そう首をかしげると、ティアが商人の肩を叩いた。


「そんなことしたら、こちらも報復行動に出るのは、分かってるよな?」


 ティアの言葉に、商人はコクコク頷いた。

 それを見て、リリーはまた笑った。

 僕は、血を見るような結果にならず、正直ホッとした。

 商人は何度もお辞儀をしながら去って行ったが、正直、反省したかどうかは分からない。

 またどこかで会うこともあるかもしれない。


 商人を解放し、おばちゃんに借りた布を返すと、呆れた顔をされた。


「あれ、殺さなかったのかい?」


 おばちゃんが言うには、あの手の商人は絶対に報復行動を取るとのことだった。

 盗賊などの裏社会と繋がりがある人間には、メンツと信用は同義であることが多い。

 今回の一件は商人のメンツを完全に潰すことになった。

 こんなことがあれば、商人は裏社会で信用されなくなる。

 このため、信用を取り戻すために報復行動を取る必要があるというのだ。


 もうひとつ、商人のメンツを潰すということは、商人の所属しているグループのメンツを潰すということだ。

 グループ全体から報復行動を起こされる可能性がある。

 しかし、これに関しては、あまり心配しなくて良いのではないかとのことだった。

 最近、あの商人は取引で下手を打って、少々マズイ立場に立たされていたのだという。

 今まで、人にやらせていた商品の調達を自分でやったのも、そのためだろうとのことだった。

 意外と、僕らが手を下すまでもなく、あの商人は自滅の道を歩んでいるのかもしれなかったが、それでも警戒はしておいた方がよさそうだ。


 僕はティアとミューズに、そのことを話し警戒を促したが、今度は2人に呆れた顔をされた。

 何を今更といった感じだった。

 2人とも、分かって商人を解放したようだ。

 どうやら、状況が分かっていなかったのは、僕だけだったようだ。

 ティアだけでなくミューズが、そのことを当然だと思っていることに僕は少し意外に感じたが、教会にも表と裏で色々あるということなのだろう。

 年齢に似合わず、僕などには想像できないほどの修羅場をくぐってきているのかもしれない。


 少し予定外のイベントはあったが、僕たちは予定通りアルデンの町に帰ることになった。

 ティアに先導されながら帰っていく。

 サイドベルの街に出てくるときには気付かなかったが、帰り道は森の中の道なき道を行くという感じで、よくティアは道を覚えているものだと感心した。

 途中で首を傾げる場面もあり、ちょっと僕たちを不安にさせたが、特にこれといった問題も起きなかった。

 行きよりも時間がかからなかったぐらいで、1泊野宿をするだけでアルデンの町に帰り着くことが出来た。

 リリーの精霊魔法が時間短縮に貢献したのは言うまでもない。


 僕たちは、アルデンの町に着くと、すぐにマーテル孤児院に向かった。

 孤児院に辿り着くと、皆が心配したように駆け寄ってきた。

 数えてみると、半月ほど姿を消していたのだ。

 ティアは、いつものこととは言っていたが、心配するのも無理はない。

 この世界では、こういった何気ない別れが永遠の別れになることが多いことを、リリーの件から学習した。

 だから、僕は逆に孤児院のメンバーにも欠員が出ていないか心配になったが、そんなことはなかった。

 リックも、あまり変わらない様子だったので、僕は内心ホッとした。

 僕がいないことで、かえって無茶をしないのかもしれない。

 そう思うと、複雑な気分になった。


 ティアはごめんごめんと言いながら子供たちに蜂蜜を見せ、これからハニーパイを作ると言うと、歓声が巻き起こった。

 皆もハニーパイが大好きなのだ。


 リリーも孤児院の一室を与えられた。

 グレンとミシェルが早速、リリーにちょっかいを出してきた。

 ミューズにもいち早くちょっかいを出していたが、かと言って、それ以外のアルデンの町の女性に同様の態度を取ることはなく、この二人は面食いなのかもしれない。

 リリーとしては、あまり小さい子たちと遊んだ経験がないようで、戸惑いつつも楽しそうにしていた。


 リリーの来訪に最も興奮していたのはリックだった。

 知識欲旺盛なリックが、今まで見たことのないエルフと精霊魔法を目の当たりにしたのだ。

 その白熱っぷりは、凄かった。

 リリーは色々実演させられていた。

 オーブンの火を精霊魔法で一瞬にして熾したために用済みになってしまった僕も、一緒に見せてもらうことになった。

 なんだか、仕事を奪われてリストラされたオジサンの気分だ。


 リリーはリックに求められるがままに精霊を呼び出していたが、中でも驚いたのは、精霊魔法が合成できるという事実だった。

 火と水の精霊魔法を合成してお湯を出したり、風と地の精霊魔法を合成して砂嵐を巻き起こしたりといった具合だ。

 古代ギリシアでは地水火風は4元素と呼ばれ、すべての源と考えられていたことから連想すれば、精霊魔法を合成すれば何でも出来てしまうのではないかと思ったが、意外とそういう訳にもいかないらしい。


 この理由について、リックは本で聞きかじった知識ですがと前置きしながらも、いくつかの仮説を教えてくれた。

 ひとつは、この4元素以外にも元素があるのではないかという仮説。

 そして、その有力な一つとして神の意思が挙げられると言われているらしい。

 この説は、教会関係者からは異端視されている。

 教会も4元素説を取る立場であるのと、それ以上に神の存在はもっと高次なるものと考えているからだ。

 科学にどっぷり浸かった自分としては、どういう仕組みなのかは皆目見当がつかない。

 ていうか、そもそも4元素説は否定された理論のはずだ。

 ただ、事実として魔法は存在する。

 きっと、4元素説の中の一部は正しくて、一部は間違っているということなのだろう。

 僕としては肩をすくめるしかなかった。

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