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24.「3つの理由」

「あんたたちが、そういう関係だったとは知らなかったな」


 突然の声に、ミューズは顔を真っ赤にして僕から離れる。

 声の方には、腕組みをして壁に寄り掛かるティアがいた。

 しばらく前から、そこにいたようだ。


「でも、光の教会の信者って、結婚するまで処女じゃないと、いけないんじゃなかったっけ?」


「――ッッ! 余計なお世話だ!」


 ミューズが、さらに顔を真っ赤にさせて、ティアに掴みかかる。

 ティアはスルリと身を躱し、ミューズの脚を取るオマケまでつけた。

 さすがに転ぶまでは行かなかったが、ミューズは大きく体勢が崩れた。


「聖騎士。あたしは、あんたを3つの理由で、ここに連れてきた」


 ティアは、突然、真面目な口調で言った。

 ミューズは足を止め、ティアを見やる。


「ひとつは、あんたがこの町に近づきすぎたから。

 この町は、あんたたちみたいな光の教会の奴らが入ってきていい場所じゃない。

 あんたがいなくなれば、光の教会の奴らも諦めるだろうと思ったからだ。

 確かに、殺した方が楽だったけど、それだと報復行動に出られる可能性があった」


 ミューズは、僕の捜索隊の一人になったと言っていた。

 それは、ミューズの他にも僕を追う者がいるということだ。

 そして、以前、ティアは、この町に光の教会の者が入れば、焼き討ちにされるのではないかと言っていた。

 それは、恐らく真実なのだろう。


「もうひとつは、あんたみたいな奴らがこの町に入って来た時に、人質になってもらうためだ。

 まあ、どれぐらい人質としての価値があるかは分かんないけど、神聖魔法を使える人間は貴重だし、奴らも、みすみすあんたを見殺しにはしないだろう」


 グレッグ辺境伯に、貸し出すくらいだ。

 ある程度の人的価値はあるということか。


「そして、もうひとつは、そこのカナンに聞いてみるといい。

 神の慈悲で、私の弟を助けてくれることを願っているよ」


 ティアは、いきなり話を僕に振った。

 ミューズは僕を見上げる。

 いきなり、そんなことを言われても、聞いてないぞ?

 ティアは、孤児院の子たちに向ける、優しい表情に戻って言った。


「ありがとうな、カナン。

 だが、あたしは、あんたの言葉を忘れていない。

 あんたは、できることをやるしかないと言った。

 それは、他に方法があるけど出来ないという意味だと、あたしは解釈した」


 そんなことを言ったか?

 言ったかもしれないが、それは神聖魔法に対する言葉じゃない。

 日本の医療技術があれば、という意味で出た言葉のはずだ。


「まあ、異教徒を治すということに、聖騎士にも葛藤があるだろう。

 急がないから、前向きに考えてくれ。

 カナンのお蔭で、弟は随分よくなった。

 想像以上だ。

 それに、自信も出てきたようだ。

 先程のあんたたちとのやり取りを見て、あたしは涙が出そうだったよ。

 あの子は、あたしと違って聡いから、ふたつの教義に抵触しないように、聖騎士を軟禁できるだろう。

 聖騎士は、何か要望があれば、弟に言うといい」


 ミューズが禁忌を犯せば、神聖魔法が使えなくなる。

 それは、ティアたちにも不都合だということだ。

 リックは、光の教会の教義にも詳しいようであった。

 それは、ミューズが宗教を理由にティアたちの要求を断ることが難しいことも意味する。

 リックは、自分のことが要らない子だと言っていたと聞いたが、そんなことはない。

 ある意味で、僕たちの最大の敵なのではないかとさえ思えてきた。


「ああ、あとひとつだけ。

 神聖魔法の《ディスペル》は《サイン》を解除できる。

 リックが教えてくれたよ。

 そういう予想外のことがあるから、聖騎士は、あたしの許可なく神聖魔法を使うのは禁止だ」


 ミューズが派手に舌打ちする。

 な!?

 そんな便利魔法があったとは!?

 悔しそうにしているところを見ると、ミューズも知っていたようだ。


「あんたたちのことは、この町の誰かが常に見張っている。

 あたしたちは、そういうことを生業としてきた。

 気付いていないかもだから、一応、教えておく」


 その言葉に、僕は辺りを見回した。

 見る限り、誰かがいるような感じはしないが……?

 僕のその様子に、ティアが微笑む。


「今だって、誰かが見張っているはずさ。

 マーテル先生やリゲル長老も、現役を引退したとはいえ、あんたたちに気付かれずに見張るくらいの芸当は可能だよ?

 この町で、隠密行動が出来ないのはリックぐらいさ。

 あいつだって、そろそろ、カナンのお蔭で出来るようになるんじゃないかな?」


「協力しなければ、殺すと言いたいわけかい?」


 ミューズは、再びティアを睨む。


「いやいや。あんたたちは、今まで通りに生活していてもらっていい。

 カナンに聞いてもらえば、あたしたちが、いかにカナンを大事にしてきたか分かるはずだよ」


 ミューズは、その言葉に僕の方を見た。

 確かに、僕は人質としては破格の扱いを受けてきた。

 衣食住に関しては事足りているし、それって、この世界では、とても貴重なことなんじゃないだろうか?

 ミューズは僕の顔をどう判断したのか分からないが、諦めたように首を振った。


「分かった。

 君たちに協力できるかは、これから判断させて頂くよ」


 こうして、アルデンの町の生活に、ミューズが加わった。

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