プロローグ
「神っていうのはね」
脳裏に蘇るのは、いつだって同じ言葉。
まるでそれは呪縛のようにウルハの思考にまとわりついて離れない。
「神っていうのは、本当にいるんだ」
いるんだよ、念を押すように繰り返された過去の言葉に、ウルハは小さく「知ってるよ」と吐き捨てるように答える。
あの時のウルハには気圧されるように知らないまま頷くことしかできなかったけど、現在のウルハは、その事実を嫌というほど理解してしまっていた。
神というものは、本当にいるのだ。
そうしてウルハは、死にたくないとその手をとって。
あっけなく、死んだ。
死んで、終わることも始まることもない存在へと造り変えられた。
無慈悲で、自分勝手で、不平等。
そんな、人間の想像の産物の“カミサマ”とは正反対な神によって。
その代償は、たった一つの約束事。
ゆるり、持ち上げた視線を窓の外に見える子供達へと移す。
造り変えられて、十年。
気まぐれな神に与えられたこの体と同じ年数だけ、ウルハはこうして窓の外の様子を眺めてきた。
見つめて、焦がれて、羨んできた。
混ざろうとは、思えなかった。
――混ざろうとも、思えなかった。
この身に課せられた、約束事を思えばこそ。
だって、ウルハは知っている。
自分が奪った、命のことを。
自分がどうして、命を奪ってしまったのかということを。
だからウルハは、思い出したくもないあの神の言葉を繰り返し思い出すのだ。
奪うだけの存在には成り果てたくはないと、時折気紛れにその力を振るっては。
それでも諦めきれぬと眺め続けるウルハを、呆れたように、不思議そうに神が見ているのを、ウルハは知っている。
けれど、ウルハは。
人であることを奪われたとしても、人であったことを、忘れたくはなかった。
―――それだけは、誰にも否定なんかさせやしない。