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五章 タイムスリップ

五章タイムスリップ



 俺は、ミスター・クロックマンにほとんど乱暴にその体内に取り込まれた。なんていうんだろう?うん、取り込まれた。マントの中に引きずり込まれるような、そんな感じで。そして、気がつくと俺たちは真っ暗なところに居る。

「ここどこさ?狭いよ、もっと離れて!」

「押すな、そもそもお前には肉体がないだろうが!」

 そういえば、そうだ。思い出したとたんに、その空間が広く感じた。いや、ただ単に、色んなものを通り抜けられる身体だからなんだろう。体の中に、いいしれない異物感を感じる。なんていうか、コレは普通通り抜けられるようなものではないっていう固定概念が、そのまま適応されているだけであって。それを考えたら、俺は俺じゃない何かにでもなれるということなんじゃないか?

「何してる?」

「いや、なんとなく。」

 俺はなんとなく、自分が巨大な蜘蛛であると認識してみたら、どうやら本当にそんな形になったらしかった。ついでに、蜘蛛の目玉は8個あると聞く。ここが真っ暗でなければ、いったいどんな風に見えるのだろう?


 ガラッ!


 不意に、闇が開いた。

 そこには、なんと俺が居た。しかも、紫色の穴の開いたトランクスいっちょで。

「これって、過去?」

「そうさ。お前が未練を残した過去の一つだ。」

「俺たちのこと、見えないの?」

「お前に本物の霊感が無ければ、見えないはずだ。」

「ふーん。」

 俺は押入れから這い出して、部屋の中を見渡した。

「うん、普通に俺の部屋だ。」

「まだそんなかっこしてんのか?」

「いいじゃないか。せっかくなんだから。」

 背後で「ああそうですか。」というやっつけな返事が聞こえたが。

 パソコン机の上においてあるデジタル時計は、もう少しで日付が変わるところだった。二月の二十六日。そうか、母さんの誕生日だ。

 この部屋の主は、ぼんやりパソコンでゲームをしていた。時折だるそうにケータイを見つめる。そして、カレンダーを見ては、ため息をついていた。

「電話!」

「あ?」

「電話だよ!母さんに、電話するんだ!」

 せめて、誕生日に何か一言あってもいいじゃないか。そしたら、もしかしたら思いとどまってくれたんじゃないか。そんなことを思っていた。

「なら、憑依すればいい。お前の身体だ。簡単に入れるだろう。」

「そんなことできるの?」

「かつての身体よりは動かしズらいだろうが、仕方ないだろうよ。」

 ぽんと背中を押されると、俺は俺の身体に飛びこんだ。

 不意にずしっと身体の重みを感じた。空気の冷たさも、水槽のモーター音も聞こえてきた。

 けれど、それと同時に当時の俺の記憶も全部戻ってきた。

「そうだ、俺、なんか親に電話するの恥ずかしかったんだよな」


 ぷるるるる、ぷるるるる、ぷるるるる、ぷるるるる・・・。

 普通に考えて、もう寝ている時間だ。

 ぷるるるる、ぷるるるる、ぷるる

「・・・、もしもし?」

「俺。」

「おお、ユエか!どうした?」

「今日、母さんの誕生日だから。ちょっと声聞きたいな~・・・、なんて。もう寝てる?」

「ああ。さっき、いつものところからケーキ買ってきて。二人でお祝いして食べたところだ。そしたらすぐ寝ちゃったよ。」

「そっか。起こしてくんない?」

「もう寝てるぞ?明日にしたらどうだ?」

「いやだ、今日がいい。ほら、後ちょっとで日付変わっちゃう!」

「あ~、はいはい。」


 電話口から、父さんが母さんを呼ぶ声がする。そして、寝ぼけた女性の声が、母さんの声が聞こえてくる。「なに?ユエから?!」


「もしもし?ユエ?」

「母さん?」


 ずっと聞きたかった、母さんの声だ。


「も、もしもし?」

「どうしたの、泣いてるの?」

「いや、別に。声聞きたいな~と思って。」

「あら、珍しい。まだおきてたの?ちゃんと歯磨いて寝るんだよ、」

「解ってるよ。」

「お仕事のほうは大変?」

「別に。」

「今度いつ帰ってくるの?」

「う~ん、3月くらいかな。」

「待ってるね。」

「うん。お母さんの煮物食べたい。」

「いっぱい作っておくよ。イカの塩辛も作ろうか?」

「うん。いっぱいね。」

「はいはい。」


 いつもの、ちょっとそっけない会話。たいしたことを話すわけではない。けど、それがすごく大切な事に思えた。

 電話を切るのが、忍びなくて。



 できたら、ずっと・・・。




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