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三章 再会

三章 再会



 なんだろう。とても、安らかだ。ひんやりと、冷たい。けれど、とても懐かしい・・・。


「ユエちゃん、ユエちゃん・・・。」

 俺は不意に呼ばれて、目を覚ました。

「・・・、かあさん?」

 そこには、なんと、母さんが居たのだ。

「ユエちゃんッ!」

 母さんは、俺をきつく抱きしめてひたすら泣いた。それでも、俺は幸せいっぱいの気分だった。嗚呼、やっぱり。母さんは俺にずっとついていてくれたんだ!!

 しかし、視界の端にいるミスター・クロックマンを捕らえると、恐ろしい記憶が戻ってきた。

 そうだ。俺は、母さんに殺されたのだ・・・。

 母さんを抱き返していた俺の手は、力なく滑り落ちた。

「ごめんね、ごめんね。ユエちゃん!」

 恐る恐る振り返ったそこには、俺がぶら下がっていた。

「な・・・、なんだよ。コレ、なんなんだよ!」

「ごめんね、ごめんね・・・。」

 俺は、母さんに泣きつかれながら、呆然とその光景を眺めていた。


「お前を殺したのは、確かに母親だ。だが、この母親とお前を殺した母親とは別の人物だ。」

「なるほど、そういうことか・・・。」

 たとえば、実在するあの子と、俺のイメージするあの子が同一人物ではないように。けれど、俺の中の真実は、俺のイメージするあの子が真実でありすべてになっている。そういった具合で、俺は空想の母さんを真実として、俺の世界の現実にしてしまったのだ。

そして、俺はその空想に取り憑かれ、殺された。

「俺が、母さんを殺したと思ったんだ。母さんも、俺を恨んで死んだんだって。そしたら、それ以外のこと、考えられなくなって・・・。すごい形相の母さんに、死ねって言われて・・・。」

「そんなことお母さん言わないよ。ユエちゃんのやりたいことがあって家を出たんなら、好きなようにやってよかったんだよ。ユエちゃんは、ユエちゃんの道を行けばよかったんだよ。お母さんも、お母さんの道を行くから、ユエちゃんは・・・。ユエちゃんには幸せになって欲しかったんだよ。」

「じゃあ、どうして俺を残して死んだんだ!俺、母さんのこと・・・。」

 頬を涙が伝った。だが、果たしてコレは生前涙と呼んでいたものなのかは解らなかった。それでも、俺は確かに泣いているんだろう。

「解ったから、解ったから・・・。ユエちゃん、ごめんね。ごめんね。もう、耐えられなかったんだよ。お母さん弱かったね。ごめんね、ユエちゃん・・・。」

 俺は、母さんを裏切ってしまった。そんな罪悪感でいっぱいになった。存在意義なんてもう意味が無い。もう、存在していないのだから。

「お母さんね、何にもできなかったんだよ。ユエちゃんが、お母さんの亡霊に殺されるの、止めてあげられなかったんだよ。ずっと、ずっとそばに居たのに。とめて、あげられなかったんだよ・・・。」

 嗚呼。自分の分身の亡霊に、愛しのわが子をこのような形で殺され、その亡骸を目の前に吊るし上げられるなんて。どれほど辛いものなのか。想像に耐えない。せめて俺が気丈に振舞って、母さんをその苦しみから解放してあげなくてはいけない。

 だが、さすがの俺も自分の変わり果てた肉体を前にすると、そんな強気もくじけてしまった。自分の身体に戻ろうとすると、断末魔の苦しみが俺を襲った。まだ、身体は生きている。だが、そこから降ろさない限り、首が絞まってまもなく死ぬだろう。見る見るうちに、俺の身体はかつての俺の面影を失って行く。紫色のカエルのような、それはもう、酷い醜態だ・・・。

 母さんが、肩を震わせて泣いている。

「大丈夫だから、もう、いいよ。俺は、コレで幸せなんだ。」

 実際、そんなものは口からでまかせだった。こんな母さん、見たくなかった。どうせこんな死に方するくらいなら、最期まで生き抜いて。「お帰りなさい」の一つでも言ってもらいたかったのに。俺は何十年という長い記憶のアルバムを開いて、あの時はこうだった、この時こんなことがあって・・・。そんなふうに、笑い話を沢山してあげたかった。なのに・・・。


 なるほど、コレが、地獄なのか・・・。


 やがて、俺の身体は、死んだ。

 その瞬間、まるで火がついたかのように。母さんのけたたましい泣き声が、薄暗い部屋に響き渡った。

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