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第11章 選択の時

■ 再会と別れと


「澪、戻りました」


アルジェリスはそう言って、

一か月前と変わらない笑みを、私に向けた。


無事だと分かっていた。

分かっていたはずなのに。

姿を見た途端、涙が止まらなくなる。


安堵と、

言葉にできない別れの予感が、同時に押し寄せた。


「お、おか……えりな……さい」


人前だったことも、

私の涙を止める助けにはならなかった。


「ただいま、澪」


次の瞬間、

アルジェリスは、初めてと言っていいほど強く、

私を抱きしめた。


久しぶりに感じる体温。

匂い。

腕の力。


胸がいっぱいになって、

同時に、ひどく痛くなる。


――これが、最後になる。


髪を撫でられるのが心地よくて、

誰にもこの立場を譲りたくないと、

思ってしまう。


けれど。


この一か月、

何度も同じ夢を見た。


誰が見てもお似合いな、

絶世の美男美女の夫婦が並ぶ光景。

そして、その隣に立てない私。


偽りの花嫁である私は、

そこに並ぶ資格などないのだと、

何度も思い知らされた。


私の呼吸が落ち着くと、

アルジェリスは、私の顔を覗き込む。


「……無事で、よかった」


それだけの言葉なのに、

胸が締めつけられる。


不細工寄りの顔立ちの私に、

なぜ、ここまで想いを向けてくれるのか。


ただ、魂の形が似ていたから。

彼は、

そう感じるように導かれているだけなのだと、

私は信じていた。


返す言葉を見つけられずにいると、

「澪?」


アルジェリスの腕が伸びる。


――だめ。


この腕に捕まれば、

私はきっと、自分の幸せを優先してしまう。

そして、

彼の心を、もっと歪めてしまう。


触れられる前に、

私は数歩、後ろへ下がった。


驚いたアルジェリスの腕が、

再び伸ばされる前に。


空へ向かって叫ぶ。

私をここへ呼び寄せた存在へ、

届くように。


「召喚の儀式を、始めてください」


「媒体者は、代役の魂の伴侶――山田澪」

「召喚対象は、

アルジェリス・ノクティルナの、真の魂の伴侶」


その瞬間。

私の周囲に、

召喚結界が張り巡らされた。


結界は、

アルジェリスを含め、

範囲内にいた人々を外へ押し出す。


私は、

正しい選択ができたことに、

小さく息を吐いた。


「澪!!」


結界の外で、

アルジェリスが叫ぶ。


「何を言っているんですか。

どういうことです!」


結界風が吹き荒れているはずなのに、

彼は、その場に踏みとどまっていた。


青い光が、

結界に叩きつけられる。


怒り。

そして、それ以上の――不安。


その瞳が、痛い。


……でも。


私は、

アルジェリスの傍に立つには、

あまりにも不釣り合いだ。


容姿も、

性格も、

生き方も。


だからこそ、アルジェリスには。

彼自身の意志で選び、

対等に隣に立てる花嫁が必要だ。


結界に、

アルジェリスが手を突っ込んでくるのが見えて、

私は叫んだ。


「アルジェリス、お願い、やめて!」


私の知る限りの真実を、

言葉にのせる。


「この世界が危機的な状況になった時、

本当の魂の伴侶を、うまく召喚できなかったそうです」


「だから、

魂の型が似ていた私が、

代わりに選ばれました」


「……ごめんなさい、アルジェリス。

今まで、本当のことが言えなくて」


結界が乱れ、

雷撃や、刃のような光が、

アルジェリスを襲う。


「行かないでください」


悲痛な声が、

結界の内側まで響く。


「あなたが、

私のすべてなんです」


「代役かどうかなんて、関係ない」


――私は。


結局、

自分のことしか考えていなかった。


最初に、

代役だと告げていれば。

彼の心を、

惑わせずに済んだのに。


「……ごめんなさい、アルジェリス」

「どうか、幸せに」


意識が、

闇に沈んでいく。


――――――――――――――――――


■ 世界の意思


「やぁ、久しぶり」


何もない空間に、

声だけが響く。


「随分、悩んでたみたいだね」


「彼のことを思えば、

悩む余地なんてなかったはずです。

それでも……ずっと傍にいたかった」


「ミオ、勘違いしてるよ」


「確かに、

君とマリアの魂の波長は違う」


「でもね、

その差は、ほんの僅かなんだ」


「この世界にとっては、

君でもマリアでも、どちらでもいい」


「大事なのはさ、

誰を選ぶか、なんだよ」


……それでも。


マリアさんを知れば、

アルジェリスは、

きっと彼女に惹かれる。


「……マリアさんを、召喚してください」

「私は、もう……」


「はぁ……」


わざとらしい溜め息。


「それをやると、

マリアは元の世界で結ばれている相手と、

引き離されることになるけど?」


「……え」


「しかもね、

この前君と会った時とは状況が変わった」


「彼女の魂は、

もう、元の世界で定着を始めてる」


取り返しのつかない事態に、

胸が鋭く突き刺される。


「わ、たし……」


空間が、大きく揺れた。

稲光のようなものが、

外側に走る。


「これは……」


声に、

珍しく驚きが混じる。


「ナイトムーン・ヘイルが、

暴れてるみたいだね」


「やれやれ」


「君には、とりあえずこの世界に

留まってもらうよ」


「このままだと、

空間が歪みかねない」


「ちょ、待っ……!」


「もし、君が望むなら、次に呼ぶときは

もう定着しかけている魂でも、

無理やり引きはがして召喚するよ」


「ごめんね、ちょっとリサーチ不足だった」


抗議は、

虚しく消えた。


霧が晴れるように、

空間が切り替わる。


――――――――――――――――――


■ 拒めない腕


次の瞬間、

私は、再びその場に戻されていた。


考える間もなく、

体が浮き上がる。


「え、うわ……!」


横抱きにされた。

アルジェリスだった。


「私から逃げられると思ったのですか、澪」


低く、

静かな声。


「あなたは、私の花嫁です。

それ以外は、ありえません」


壮絶な笑み。


心臓が、

どこにあるのか分からない。


嬉しい。

怖い。

両方が、

一気に押し寄せる。


何も言えずにいると、

彼の周囲の青い光が、

さらに濃くなる。


「返事は?」


「……はい」


かろうじて、そう答えた。


アルジェリスは満足そうに頷く。


「では、

ドレスが出来次第、

速やかに婚姻式を行いましょう」


――婚姻式。


魂が、

完全に定着する。


「……アルジェリス?

婚姻は、半年後と……」


返事は、なかった。


笑みが、

さらに壮絶になる。


耳元で、囁かれる。


「澪がいない世界は、

私には、もう何の意味もありません」


「だから……」


ずるい。


顔を上げると、

懇願と、絶望と、

悲壮が混じった表情。


自分の勝手さを、

思い知らされる。


視界が揺れる。


違う。

アルジェリスの体が、

ゆっくりと傾いていく。


「え……!?

アルジェリス!!」


倒れ込む衝撃。

思わず、目を閉じた。


痛みは、なかった。


アルジェリスが、

私を庇って倒れたのだ。


それよりも。


――熱い。


抱きしめる腕から伝わる、

異常な体温。


そのときになって、

私は、ようやく気づいた。


彼が、

限界を超えていることに。

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