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第9話 それでも、癒やし手は歩く


朝の光が、

治療所の

窓から

差し込んでいた。


柔らかく、

静かな

光だ。


私は

ゆっくりと

目を開けた。


胸の痛みは、

まだ

消えていない。


けれど、

呼吸は

できる。


生きている。


それだけで、

十分だった。


寝台の

脇に、

小さな

花束が

置かれている。


野の花だ。


豪華では

ないが、

丁寧に

束ねられていた。


「……誰が」


声は

掠れていた。


「街の人たちよ」


ミルキィが

静かに

答えた。


「名前も

名乗らずに」


「ただ、

“回復士へ”

って」


私は

花に

触れた。


指先に

微かな

温もりが

残る。


不要と

言われた

仕事。


数字に

ならない

価値。


それでも、

誰かの

記憶には

残った。


扉の

向こうで、

足音が

止まる。


「……入るぞ」


ブルーだった。


彼は

以前より

少し

疲れた

顔を

している。


「パーティは?」


私が

聞くと、

彼は

苦く

笑った。


「解散した」


それだけで、

理由は

察せた。


「効率を

求めすぎた」


「守ると

言いながら、

切り捨てていた」


彼は

床を

見つめた。


「……俺は

間違っていた」


私は

首を

振った。


「違います」


「あなたは

選んだ」


「私は、

別の道を

選んだ」


それだけだ。


ブルーは

何も

言わず、

深く

頭を

下げた。


その背中は、

もう

リーダーでは

なかった。


ただの

一人の

冒険者だった。


昼前、

ニールが

治療所を

訪れた。


「体は?」


「少し

壊れています」


正直に

答える。


ニールは

溜息を

ついた。


「それでも

歩くつもり

でしょう」


「はい」


迷いは

なかった。


「……愚かね」


そう

言いながら、

彼女は

微笑んだ。


「だから、

記録する」


「あなたの

回復を」


「理論として

残す」


私は

驚いた。


「いいんですか」


「いいの」


「次は、

誰かが

壊れずに

済むように」


その言葉は、

胸の

奥に

深く

沁みた。


夕方、

治療所の

外に

出る。


空は

高く、

澄んでいる。


街の

ざわめきが、

遠くに

聞こえた。


私は

杖を

手に、

一歩

踏み出す。


回復士は

不要。


そう

言われた

日から、

ずいぶん

遠くまで

来た。


私は

英雄では

ない。


聖女でも

ない。


ただの

癒やし手だ。


それでも、

手を

伸ばす。


救える

命が

ある限り。


そして、

いつか

歩けなく

なる日が

来たなら。


その時は、

誰かが

続きを

歩くだろう。


私は

微笑み、

街路を

進んだ。


癒やし手は、

今日も

ここに

いる。


それだけで、

世界は

少しだけ

救われる。


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