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第8話 回復士不要論の崩壊


朝、

街の鐘が

鳴り響いた。


重く、

低い音。


私は

まだ

起き上がれずに

いた。


胸が

焼けるように

痛む。


息を

吸うたび、

世界が

遠のく。


「……動くな」


ニールの

声がした。


「今の

あなたは、

魔力循環が

崩壊寸前よ」


専門用語だが、

意味は

単純だ。


命の流れが、

戻らない。


「それでも……」


起き上がろうとして、

失敗する。


その時、

治療所の

扉が

乱暴に

開いた。


「レティーナ!」


聞き慣れた

声。


ブルーだった。


後ろには、

ドレッドと、

ミルキィ、

そして――

ダーレン。


空気が、

張り詰める。


「子どもを

救ったそうだな」


ダーレンが

言った。


声は、

硬い。


「命と

引き換えに」


私は

答えなかった。


ニールが

一歩、

前に出る。


「正確に

言ってください」


「彼女は

自分の

寿命を

削った」


「数字に

換算できない

犠牲を

払って」


ミルキィが

唇を

噛んだ。


「……街中で

噂になっています」


「回復士が

倒れた理由」


「そして」


彼女は

続けた。


「救われた

子どもが、

目を覚まして

泣きながら

“ありがとう”と

言ったこと」


沈黙。


ダーレンは

初めて、

言葉を

失った。


「……それでも」


彼は

絞り出す。


「回復士は

効率が

悪い」


その瞬間、

治療所の

外が

騒がしく

なった。


扉の

向こうから、

声が

重なる。


「その回復士を

出せ!」


「俺の

仲間を

見てくれ!」


「金なら

払う!」


ダーレンの

顔色が

変わる。


「……何だ」


ミルキィが

小さく

答えた。


「指名依頼です」


「十件以上」


「今、

増え続けています」


ギルド長は

拳を

握りしめた。


「……統制が

取れなくなる」


ブルーが

一歩

踏み出す。


「違う」


低い声。


「これは、

もう

止められない」


「人は

数字より、

命を

見た」


ダーレンは

私を

見た。


その視線は、

初めて

“人”を

見ていた。


「……君は」


言葉を

探す。


「回復士として、

異常だ」


私は

小さく

笑った。


「知っています」


「でも」


息を

整え、

続ける。


「私が

いなければ、

死んだ人が

います」


それだけを

言った。


長い

沈黙の後、

ダーレンは

言った。


「……特例を

設ける」


「君を、

独立回復士として

登録する」


「依頼の

選択権は、

君に」


「報酬は……」


私は

遮った。


「最低限で

構いません」


ダーレンは

目を

見開いた。


「代わりに」


私は

続けた。


「回復士を

“不要”と

呼ばないでください」


「それだけで

いい」


その言葉は、

治療所に

深く

落ちた。


ダーレンは

静かに

頷いた。


「……了解した」


その日、

噂は

街を

駆け巡った。


回復士は

不要ではない。


命の

最後の

選択肢だ。


私は

寝台に

横たわり、

天井を

見つめた。


体は、

もう

限界に

近い。


それでも。


私の

名前は、

誰かの

希望に

なった。


それで――


十分だった。


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