第7話 壊れると知っていても
雨は、
夜になって
降り出した。
細く、
長く、
止む気配がない。
私は
街外れの
簡易治療所に
いた。
指名依頼だ。
倒れたのは、
子ども。
年は、
十にも
満たない。
原因は
魔力暴走。
体が
小さい分、
流れの乱れが
致命的だった。
母親が、
私の前で
膝をついている。
「お願いします……」
声が
震え、
涙で
歪む。
私は
その手を
そっと
取った。
「顔を
上げてください」
優しく
言ったつもりだが、
喉が
少し
痛んだ。
診れば、
すぐに
わかった。
今の私では、
助からない。
回復すれば、
確実に
私が
壊れる。
心臓が、
強く
打った。
逃げ道は、
ある。
「手遅れです」
そう
言えばいい。
誰も、
責めない。
私は
深く
息を吸った。
「……時間を
ください」
母親が
何度も
頷く。
私は
子どもの
胸に
手を当てた。
命の流れは、
絡まり、
引き裂かれ、
悲鳴を
上げている。
ここまで
ひどいのは、
初めてだ。
魔力を
流す。
細く、
慎重に。
すぐに、
視界が
暗くなる。
――来る。
代償が、
一気に。
胸が
締めつけられ、
息が
浅くなる。
それでも、
止めなかった。
誰かが
やらなければ、
この子は
死ぬ。
それだけで、
十分だ。
流れが、
少しずつ
整っていく。
子どもの
呼吸が
戻る。
小さな
指が、
私の
袖を
掴んだ。
「……おねえちゃん」
声が、
聞こえた。
その瞬間、
膝が
崩れた。
視界が
真っ暗に
なる。
床に
倒れる前に、
誰かが
私を
支えた。
「……やりすぎだ」
低い声。
ニールだった。
「ここまで
削る必要は
ない」
私は
笑おうとして、
失敗した。
「……あります」
「この子は」
それ以上、
言えなかった。
意識が
遠のく。
次に
目を
覚ました時、
天井が
見えた。
簡易治療所の
寝台。
体が、
動かない。
呼吸が、
重い。
横で、
ニールが
腕を組んで
立っている。
「一歩
遅れていたら、
死んでいた」
私の
ことを
言っている。
「……後悔は?」
私は
少し
考えた。
そして、
首を
振った。
「ありません」
ニールは
目を
伏せた。
「愚かだ」
そう
言いながら、
声が
揺れている。
「だが……」
彼女は
続けた。
「その愚かさを
計算に
入れない社会は、
もっと
愚かだ」
私は
何も
言えなかった。
体が、
確実に
壊れている。
それでも、
胸の奥は
静かだった。
雨音が、
窓を
叩く。
壊れると
知っていても、
私は
手を
伸ばした。
それが、
私の
選んだ
生き方だ。
そして――
この選択が、
誰かの
世界を
変えることを、
私は
まだ
知らない。




