第4話 価値を測る者たち
翌朝、
胸の重さは
まだ残っていた。
深く息を吸うと、
少しだけ
痛む。
代償は、
正直だ。
私は安宿の
硬い寝台から
起き上がり、
身支度を整えた。
鏡に映る顔は、
少し青白い。
「……動ける」
それで十分だ。
ギルドに向かうと、
いつもより
人が多かった。
ざわつきの中心で、
聞き覚えのある
声がする。
「回復士一人で
下水の衰弱を
治したらしい」
「しかも死者ゼロだ」
足が、
止まった。
私の話だ。
掲示板の前には、
数人の冒険者が
集まっている。
その中に、
見慣れた背中が
あった。
ドレッドだ。
重い鎧を
そのまま着た彼は、
じっと依頼票を
見つめていた。
声は、
かけなかった。
今の私は、
ブルーファングでは
ない。
受付に立つ
ミルキィと
目が合う。
彼女は
一瞬だけ
目を見開き、
すぐに
微笑んだ。
「依頼を
お探しですか」
「はい」
短く答える。
彼女は
声を落とした。
「……昨日の件、
ギルド内で
話題になっています」
「評価は?」
「半々です」
正直だ。
「遅いが確実」
「だが、
一人で倒れる
回復士は危険」
それが、
大方の意見だ。
私は
頷いた。
正しい。
「それでも
受けますか」
ミルキィが
尋ねる。
私は
迷わなかった。
「はい」
彼女は
一枚の依頼票を
差し出した。
――旧採掘坑
――魔力汚染
――浄化役必須
浄化とは、
乱れた魔力を
静める行為だ。
回復士の
本領。
「報酬は
銅貨二十枚」
安い。
だが、
理由は明白だ。
「成功率が
低いから、
ですね」
ミルキィは
苦笑した。
「……はい」
その時、
低い声が
割って入った。
「一人で
行くつもりか」
振り向くと、
ドレッドが
立っていた。
兜を外し、
真っ直ぐに
私を見ている。
「護衛が
要る」
それだけ言った。
「報酬は
出せません」
「構わん」
即答だった。
その場の
空気が
少し張り詰める。
「ブルーは
知っている?」
私が聞くと、
彼は
視線を逸らした。
「……知らない」
それで、
十分だった。
私たちは
簡単な準備をし、
街を出た。
旧採掘坑は、
街から
半日ほどの距離だ。
道中、
会話は少なかった。
やがて、
ドレッドが
口を開く。
「お前は、
削っているな」
「何を?」
「命を」
足が、
止まった。
彼は
続けた。
「前から
薄々
気づいていた」
「だが、
聞けなかった」
私は
しばらく
黙ってから、
答えた。
「……はい」
否定は、
しなかった。
「それでも
やるのか」
「はい」
理由は、
一つだ。
「救えるから」
ドレッドは
それ以上、
何も言わなかった。
採掘坑の
入り口は、
黒く口を
開けていた。
中から、
不穏な
魔力が
漂ってくる。
私は
一歩踏み出す。
価値を
測る者たちは、
きっと
外で待っている。
効率と
数字だけを
見て。
それでも。
私は
中へ進んだ。
私の価値は、
私が
決める。




