第3話 回復士にしか救えない命
下水路は、
思っていたより
深く続いていた。
湿った石壁に、
微かな魔灯が
等間隔で灯っている。
案内された先には、
倒れ伏した冒険者が
横たわっていた。
若い男性だ。
装備は軽装。
「三時間前から
この状態だ」
先ほどの男が
腕を組んで言う。
「毒か?」
「わからない」
私は首を振った。
毒なら、
もっと急激に
症状が出る。
私は彼のそばに
膝をつき、
胸に手を当てた。
……重い。
命の流れが、
どこかで
滞っている。
「この人、
無理をしましたね」
男たちが
顔を見合わせる。
「無理?」
「魔力の使い過ぎです」
私は静かに
説明した。
「体力と魔力の
釣り合いが
崩れています」
「このままだと、
眠るように
死にます」
空気が、
一瞬で冷えた。
「助かるのか?」
問いは、
切実だった。
「……助かります」
「ただし」
私は、
はっきりと言った。
「時間が必要です」
男は
歯を食いしばり、
頷いた。
「やってくれ」
私は目を閉じ、
深く息を吸った。
魔力を流す。
強くは流さない。
細く、
丁寧に。
乱れた流れを、
一つずつ
解いていく。
回復魔法とは、
奇跡ではない。
命に、
寄り添う技だ。
十分。
二十分。
時間が
過ぎていく。
額から
汗が落ちた。
私の視界が
少しだけ
揺れる。
――代償が
来ている。
私の回復は、
私自身の
生命力を使う。
だから、
連続では
使えない。
それを、
誰にも
教えなかった。
やがて、
男性の呼吸が
深くなった。
「……っ」
彼の指が、
微かに
動く。
「成功です」
その瞬間、
力が抜けた。
私は
その場に
座り込んだ。
「おい!」
男が
慌てて
支える。
「無理をするな!」
「大丈夫です」
私は
笑おうとして、
少し失敗した。
「慣れていますから」
それは、
半分は
本当で。
半分は、
嘘だった。
地上に戻ると、
夕暮れだった。
報酬の
銀貨三枚が
手渡される。
男は
少し迷ってから、
もう一枚
差し出した。
「これは……?」
「礼だ」
「うちの回復士は、
“すぐ治る”
ことしかしなかった」
「だが、
あんたは違う」
私は
その銀貨を
受け取った。
重みが、
確かだった。
「ありがとうございます」
その夜。
私は
安宿の
狭い部屋で、
横になった。
胸が、
少しだけ
苦しい。
代償は、
確実に
残っている。
それでも。
私は
目を閉じた。
今日、
私は救った。
確かに、
命を。
回復士は不要。
そう言った
誰かの声が、
遠くに聞こえた気がした。
だがもう、
それは
怖くなかった。
私には、
私の救い方がある。
それだけで、
十分だった。




