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放課後の安楽椅子探偵:鷹と梟の事件簿 非日常は明星高校ミステリー研究会にお任せを!  作者: 佐倉美羽
第一幕 鷹の聴取

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第8話 佐伯シズカの脚本

 夏真っ盛りの17時はまだまだ明るく、カーテンの隙間から薄金の光が床に線を描くように差し込み、時間が止まったようだった。芹澤せりざわミヤコは佐伯さえきシズカに聞き取りの約束を取りつけて、その時を今か今かと待っていた。


「失礼します」


「どうぞー」


 芹澤せりざわミヤコの軽い了承と共に佐伯さえきシズカは扉を開けた。緊張しているのか、少し強張っているように見える。


佐伯さえきさん、お疲れー!座って座って!」


「は、はい」


 上ずる声と共に、まるで式典のように固い一歩を重ねて、佐伯さえきシズカは芹澤せりざわミヤコの正面に腰を下ろす。あまりこういう面接のような場所は得意ではないのかな。芹澤せりざわミヤコは頬杖をついてフニャリと表情を崩した。


「いやぁ、難しいねぇ。甘いものでも食べないとやっていけないよぉ」


「甘いものですか。分かりました。すぐ用意します」


「お、本当に!?いや、助かる!聞き込みも順調なんだけどさー。いまいち決め手に欠けるんだよねぇ」


「決め手……ですか。例えばどんなものがあれば――」


「動機」


 佐伯さえきシズカの言葉を遮るように、芹澤せりざわミヤコは言い切った。頬杖を付きながら佐伯さえきシズカの目を射貫く。どういう反応をする?なにか心当たりがあるのではないか?刹那の揺さぶり。佐伯さえきシズカの瞳が一瞬逸らされ、すぐに戻った。


「――とか~、犯行方法とか~、台本はどうやって複製したのかなぁとかな」


「……芹澤せりざわさん、それが分かれば苦労しないのでは?」


「おっしゃる通り!でも、佐伯さえきさんの話を聞けばわかりそうなんだよね」


「そういうことですか。分かりました。どうぞ。なんでも聞いてください」


 芹澤せりざわミヤコは「よし来た!」と、椅子を引いて姿勢を正す。そして、卓上ライトをパッとつけた。


「じゃあ、偽台本ってフォントもページ数も全部同じだったんだよね。どうやって複製したと思う?」


「あぁ、台本のデータはクラウドに保存しているので、データ自体は誰でも入手できます。改竄かいざん自体はそれほど難しくありません」


 佐伯さえきシズカはスマートフォンさっと操作すると、保存画面をミヤコに見せた。


「おお!そうだったんだ!ハイテクだねぇ。印刷はどこでやってるの?」


「部室にプリンターがありますのでそこで。紙は部費で再生紙を買っています」


「わお、リッチだねぇ!さすが演劇部。でさ、佐伯さえきさんって元々照明担当だったの?」


 突然の話題転換に佐伯さえきは面食らうも「えぇ。2年になってから挑戦しています。それが何か?」と、変わらない調子で言った。


「いやいや。杉浦すぎうら先輩がおっしゃってたので気になってさ。仲よかったの?」


 視線を落としながら、考え込むよう佐伯さえきシズカは沈黙した。杉浦すぎうらカズキ曰く、あっさりした関係だったような印象だったけど……。


「そうですね……。はい。かなり熱心に教えていただけました。脚本にも生かされていますので、感謝しています」


「おお!いいねぇ!」


 芹澤せりざわミヤコは椅子に大きく持たれ、何でもないことのように「それでさ、寺前てらまえルカさんの事件について何か知ってる?」と、切り出した。佐伯さえきシズカの目が見開かれて、息を呑む音が微かに聞こえた。


「ルカ先輩の……ですか。それは台本のすり替えに何か関係あるのですか?」


「あるある!だって、その混乱に乗じて台本のすり替えが起こったんだよ?さすがに無関係は無理があるって!」


「そう……ですか。そうですね。確かに。あの場には私もいました」


 事故当時、佐伯さえきシズカは舞台袖にいて、照明の昇降を補助していた。バトンを降下させていると何か引っかかりのような違和感を感じた。だけど、その時にはもう遅く、勢いよく何かが外れたような衝撃の後にフレネルレンズライトが落ちたのだという。


「え、じゃあ、佐伯さえきさんが操作してたライトが落ちたってこと……?」


「……そうです。それからというものの、毎日が地獄です。よりによって……ルカ先輩に……」言葉にしながら、佐伯さえきシズカの顔にみるみる影が差す。


「そうだったんだ……。でも、事故だったんだよね?なら、佐伯さんは悪くないよ」


「……はい。お気遣いありがとうございます……」


 今にも泣きだしそうな雰囲気の佐伯さえきシズカに、芹澤せりざわミヤコは「寺前てらまえ先輩とは仲が良かったの?」と、優しく問いかけた。


「はい……。私の憧れです。ルカ先輩を照らすために照明担当をしていましたから……」


「そっか……。初脚本で憧れの人がヒロインだったんね。それが……」


 芹澤せりざわミヤコは涙ぐむ佐伯シズカにかける言葉が見つからなかった。安直な慰めの言葉はかえって彼女を傷つけるだけだ。


佐伯さえきさん。最後に、答えづらいかもしれないんだけど、どうしても聞いておかないとけないことがあるんだ。いい?」


「はい……」


 芹澤せりざわミヤコは一瞬だけ言いよどんだ。これを彼女の口から言わせていいのか。だけど、これこそが犯人の動機――少なくとも、そこに手が届く証言になる。短く息を切って、佐伯シズカの目をまっすぐに見つめて言った。


「“悲劇は、いつも神によってもたらされるのです。光が堕ちる。運命、なんてことは決してありえません”

 この台詞の意味、本当は何か心当たりがあるじゃない?脚本担当として、どう思う?」


 部屋の中で静かに響く呼吸音。時計がカチ、カチと時を刻む。芹澤せりざわミヤコは佐伯さえきシズカの言葉をじっと待った。


「……わかりません」


「本当に?」


 佐伯さえきシズカの目が固く閉じられた。涙が頬を伝う。身体を震わせて、息を詰まらせて。スカートが皺になるほど握られていた。そして――


「……わ、私を……攻めてるんだと、思います……。お前の、せいだって……」


 消え入りそうな声で言った。


「話してくれてありがとう。佐伯さえきさん。聞きたいことは以上です。犯人は絶対に私たちが見つけるから。安心してね」


 芹澤せりざわミヤコはそう力強く言い切ると、身を乗り出して佐伯さえきシズカの肩に手を置いた。

 涙が落ちるたびに、夏の光がわずかに揺れていた。


 ◇◇◇


『ミス研グループチャット(2)』


【ミヤコ】佐伯シズカさんの話聞いたよ。見てみて(17:12)


【リカ】ふむ。佐伯シズカさんは部内でもかなり弱い立場なんですね(17:14)


【ミヤコ】そうなんだよねぇ。いたたまれないよ(17:14)


【リカ】そうですね。とはいえ、これで偽台本の生産ルートが割れました(17:14)


【ミヤコ】えぇ!そうなの?(17:14)


【リカ】詳細は部室でお話します。次は主演の俳優さんですね。もう一息です。(17:14)


【ミヤコ】了解!もうひと踏ん張り頑張るぞー!(17:14)


【リカ】コーヒーを準備してお待ちしてます(17:14)


【ミヤコ】あいよー(既読)


 つづく

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