第6話 幕間のゲーム
芹澤ミヤコは顎に手を当て、教室の端から端を行ったり来たりしながら、考えをまとめていた。教室に山積みにされた机は、演劇部を守る城壁みたいだ。けど、どんな砦も裏口が開いてたら意味ないんだよね。ミヤコは間宵ライラの証言を精査しながら、その抜け道を懸命に探していた。
――間宵ライラの証言は信用ならない。何かを知っているようで、肝心なところは言葉を濁す。本当は何も覚えていない?いやでも、目に戸惑いのようなものも感じた。いったい何を隠している。何かを守りたいのか?
「……さっぱりわからん!次行こ、次!」
ミヤコは立ち止り、腕をクロスさせるように肩のストレッチをする。コンスタンティノープルは戸締りばっちり……。いや、トロイの木馬受け取り拒否かな、などと考えていると扉が鳴った。
「はいよー」
「ちぃーす!どうも!杉浦カズキでーす!」
扉が開けられると、チャラ男が人差し指と小指を立てたハンドサインを振りかざしながら入って来た。
「君がミヤコちゃん?うわ、めっちゃ可愛いじゃん!てか、俺に興味あるってマジ!?」
「マジマジー。もう超会いたかったって感じっす。杉浦先輩」
芹澤ミヤコは瞬時にキツネのハンドサインで対抗する。
頭頂部が黒い金髪。着崩した制服にⅢの刺繍。首周りには磁気ネックレスか。上手く乗せられれば自分からペラペラ喋るタイプかな。関係ないことまでダラダラ喋りそうだからそこは注意っと。
「どうもミス研の芹澤ミヤコっす。実は台本のすり替えについて調べてて、杉浦先輩に聞きたいことあるんですよ」
杉浦カズキはニヤニヤと口元を歪めると「ならー、ミヤコちゃんのチャットID教えてくれたら喋ろっかな―?」と、おどけて言ってのけた。
「えー!どうしよっかなー。でも、ただで教えるのもつまんないですし、ゲームしませんか?先輩が勝ったら教えてあげます!」
芹澤ミヤコは膝を寄せて前かがみになり、上目遣いで杉浦カズキを見た。
「私が勝ったらなんでも教えてくれますよね?」――杉浦カズキはノリと楽しさを大切にする人物だろう、絶対に乗ってくる。そう確信してミヤコは挑発的な笑みを浮かべた。
「いいね!乗った!何する?手押し相撲とか?」
杉浦カズキはノータイムで承諾。肩に手を置いてグルグルと回して口元を緩めた。ミヤコは後ろに手を組んでしなを作りながらほくそ笑んだ。
「20を言ってはいけないゲーム!」
「20……?何それ?」
「お互いに1から3ずつ数字を数えて行って、20を言った方が負け!簡単でしょ?」
「うげぇ!数学苦手なんだよなぁ。でもミヤコちゃんIDの為なら……!」
杉浦カズキはこれ見よがしに顔を顰めるも、握りこぶしを鳴らして士気を上げる。ミヤコは喜んだ顔でガッツポーズをして見せた。
「そう来なくては!じゃあ、私が先攻でいいですよね?レディファーストなので」
「いいぜ!カモン!」
「じゃあ、行きますよー!」
◇◇◇GAME START!◇◇◇
ミヤコ「1、2、3」
カズキ「4、5、6」
ミヤコ「7」
芹澤ミヤコが一切迷いを見せずに“7”で踏みとどまった。その様子を見て杉浦カズキは思わず押し黙った。
「どうしました?先輩の番ですよ?」
「ミヤコちゃん、刻むの早くない?」
「実は小心者なんです……緊張しちゃって!」
「そ、そうかー。なら俺はジャンジャン行っちゃうぞー」
杉浦カズキは気を取り直すように咳ばらいすると、再び数字を積み上げ始める。
カズキ「8、9、10」
ミヤコ「11」
またもや、芹澤ミヤコは踏みしめるようして“11”で止まった。
「ミヤコちゃん、やっぱりなんか企んでるよね?」
「まさか!先輩がいくつ数えるかわからないのにそんなこと出来るわけないじゃないですか!」
芹澤ミヤコのとぼけた顔に何か裏を感じるも杉浦カズキは「まぁ、そうか……」と納得した。そして、少し考えてから、数を一つだけ積み上げた。
カズキ「12」
その瞬間、芹澤ミヤコは最善手を打つAIのように迷いなく数字を乗せていった。
ミヤコ「13,14,15」
ギョッとした杉浦カズキは目を泳がせる。追い詰められていることを敏感に感じ取り、何とか勝利の糸口を探そうと思考を巡らせる。だがもう遅い。
カズキ「じゅ、16」
ミヤコ「17,18,19」
カズキ「……20」
◇◇◇GAME SET!◇◇◇ WINNER!:芹澤ミヤコ
「いやぁ!危ないところでした!どうぞ、そこにお掛けください!」
「もう一回!もう一回やろう!」
「いいですよー。なら、またレディーファーストで私から――」
――その後、何度やっても杉浦カズキは芹澤ミヤコに勝つことは出来なかった。
「……な、なんでだ……」
「じゃ、約束通り色々教えてくださいね」
「マジかよ……」
うなだれた杉浦カズキの横顔に、ミヤコは卓上ライトを当てた。鳶色の瞳が杉浦カズキを捉える。光と影――この瞬間、主導権は完全に彼女のものだった。
つづく




