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放課後の安楽椅子探偵:鷹と梟の事件簿 非日常は明星高校ミステリー研究会にお任せを!  作者: 佐倉美羽
第一幕 鷹の聴取

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第5話 間宵ライラの歌声

 案内されたのは隣の空き教室。机がバリケードのように積み上げられており、現代アートのような様相を呈している。中央には教室にあるものと同じ机が向かい合うように置かれていた。細やかな配慮が行き届いているのか、机には強めの卓上ライトが煌々と存在感を放ち、周囲は陰に沈んでいた。

 これは……取り、調べ……


芹澤せりざわ先輩。あの……これって……」


「――よし!じゃあ、さっそく始めようか!じゃあ、間宵まよいさんは奥に座ってね!」


「はい!わかりましたっ!」


 芹澤せりざわミヤコは特に理由は無いが扉側に座って、卓上ライトの灯りを消した。普段は読み合わせやダンスの稽古で賑やかなエリアだが、気を使ってか今日はとても静かだ。ミヤコは咳ばらい一つ、気合を入れた。


「さて、間宵まよいさん。裏方から偽の台本を受け取ったって聞いたけど──その相手、誰だった?」


杉浦すぎうらカズキ先輩でした。照明担当の」


 ふむ。例の裏方は杉浦すぎうらカズキね。台本をすり替えることが出来るのは、ゴール地点の間宵まよいライラさんか、暫定スタート地点の照明担当の杉浦すぎうらカズキか。台本のリレーがどういう順番だったのか確定したいな。


「間違いない?」


「はい。顔もしっかり見えましたので、間違いないと思います」


「何か変なところ無かった?ソワソワしてたり、汗めっちゃかいてたり」


 間宵まよいさんは「すみません……そこまで見れてないです……」と、申し訳なさそうな顔をした。


 ミヤコは腕を組んで背もたれに身を預け、天井を見上げた。

 挙動不審だったならすぐに疑われるか。出会ってから間宵まよいライラに不自然な反応は見当たらない。これが演技なら主演女優賞ものだ。

 芹澤せりざわミヤコは勢いよく身体を起こして、間宵まよいライラの蒼い瞳をじっと見つめた。


「オッケー!じゃあ、初めから確認していくね。間宵まよいさんが証明担当の杉浦すぎうらさんに偽台本を受け取ったときのこと、覚えている限り教えてくれる?」


「……わかりました。ですが、緊張していて、当時のことをあまり覚えていないんです」


「ぜんぜんいいよー。間宵まよいさん、初めての舞台だったの?」


「はい。実はそうだったんです」


「おぉ!それはすごい!初めてであのクオリティはなかなか出来ないよ!」


「いえ……私なんて全然ダメダメで……、寺前てらまえ先輩の方がずっと……」


 方眉を上げながらミヤコは頬杖をついた。ずいぶん自分の芝居に対してネガティブだったけど、その原因が寺前てらまえ先輩か。一応深堀してみるか。


「ふむふむ。寺前てらまえ先輩って?」


「あ、はい。わたし、代役なんです。元々は3年の寺前てらまえルカ先輩が月の姫役でして」


「ほほう。その寺前てらまえルカ先輩はどうして下りたの?」


 机に上で組まれた間宵まよいライラの指先に力が入った。言葉を探すように蒼い視線が泳ぐ。ミヤコは微笑みながら間宵まよいライラの言葉をじっと待った。そして、意を決したようにライラの視線が定まった。


「実は、練習中に事故があったんです。フレネルライト……、吊り下げているライトが落ちてきて」


「えぇ!大丈夫だったの?」


「はい。幸い頭には当たらなかったので大事には至らなかったですが、肩に痣が出来てしまって、月の姫役の服を着れなくなったんです」


「それで、降板と……。可哀そうだねぇ」


「はい……。そのこともあって、わたし、本番では絶対に失敗しちゃダメだって。それで、緊張しちゃって、台本も確認できなかったんです……」


 芹澤せりざわミヤコは顎に手を当てて考え込む。

 そう言うことだったのか。それは不幸というほかない。でも、偽台本の台詞って確か――


“悲劇は、いつも神によってもたらされるのです。光が堕ちる。運命、なんてことは決してありえません”


 悲劇は運命じゃなく神によって……か。事故じゃなかったってことを暗示?いや、考えすぎか。


「なるほど。じゃあ、杉浦すぎうらカズキさんから偽台本を貰って、集中して台詞を読み込んでたら、本番が始まって、それであの空気ってことね」


 間宵まよいライラは「はい……思い出したくもないです……」と、心底うんざりした表情で頭を抱えた。


「大丈夫だって!歌はめちゃくちゃ上手だったから!うちの後輩も絶賛してたよ?」


「ほ、本当ですか?」


「ホントホント!じゃ、聞きたいことは以上なんだけど、何か言っておきたいことはある?」


 間宵まよいライラは口元を片手で覆うようにして目を細めて逡巡。呟くように言った。


佐伯さえき先輩、怒ってますよね……犯人見つけて、どうするつもりなんでしょうか……」


 謎を明かす責任か。ミヤコは大きく伸びをして考えた。申し訳ないけど、頼まれた以上、こちらも全力を尽くすだけだ。謎が明かされた後のことは責任が持てない。


「それに関してはどうとも言えないかなぁ。本人同士の問題だし。部長が何とかするんじゃない?」


「そうですか……。わかりました……」


 立場的には怪しまれても仕方のない状況なのに、間宵まよいライラは他部員のことを案じるように表情を曇らせた。


「ま、こっちも出来るだけ穏便に済ませるようにはするから。あんまり気負いすぎないでねぇ。間宵さん」


「はい……。芹澤せりざわ先輩。ありがとうございました」


「はいよー。じゃあ、次は照明担当の杉浦すぎうらカズキさんね。呼んできてくれる?」


「わかりました。失礼します」


 礼儀正しく頭を深く下げて、間宵まよいライラは退室していった。

 芹澤せりざわミヤコは扉が閉じられると、立ち上がって大きく伸びをする。バキバキと関節の鳴る音が机の山に吸い込まれていった。


 ◇◇◇


『ミス研グループチャット(2)』


【ミヤコ】月の姫役、間宵ライラさんとの聴取記録です。お納めください(16:23)


【リカ】拝読いたしました。碧眼。カラーコンタクトではなかったのですね(16:23)


【ミヤコ】そうそう!見つめると吸い込まれそうだったぜ……(16:23)


【リカ】月の姫役の事故の話、興味深いですね。無関係とも言えなそうです(16:23)


【ミヤコ】やっぱり?次は裏方の杉浦カズキさんの話聞く予定だよ(16:23)


【リカ】分かりました。佐伯シズカさんとの関係も聞いておいて下さい(16:23)


【ミヤコ】お、何か気が付いた感じ?(16:23)


【リカ】まだ、確実なことは言えないので何とも。頼みましたよ、ミヤコ先輩(16:23)


【ミヤコ】まかせろー(既読)


 つづく

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