第2話 超常現象同好会の三人衆
明星高校、実習棟一階。美術部を筆頭に書道、茶道と漫研といった芸術系の部活動が共生するフロアの奥底に異質な雰囲気を醸し出す教室がある。いつも暗幕カーテンが掛けられて中の様子は誰も知らない。扉には毛筆で“超常現象同好会”と書かれた半紙が張り付けらえている。芹澤ミヤコは信田リカから受け取った怪文書片手に、その扉の前に来ていた。
――とりあえず、有識者の意見を聞こう。何か情報を握っているかもしれないし。丸投げも視野に入れる。いや……さすがにそれはリカが悲しむか。
ミヤコは軽く伸びをして、背筋を鳴らした。
「ま、行くとしますか」
コン、ココンッコンッ!
芹澤ミヤコはリズミカルに4回扉を叩き「こんにちは!ミステリー研究会部長の芹澤ミヤコです!幽霊の噂についてお聞きしたいことがありまして!」と、快活に要件を述べた。
しばらくすると、扉がガラリと音を立てて開かれる。
そこには、肩まで覆えそうな広いつば、リボン付き三角帽子を被った少女が慇懃に胸に手を当てて立っていた。横三つ編みが可愛らしい1年生。おぉ……魔女っ娘……。魔術とか占いとかそういう感じかな。
「ふふふ……。貴女が来ることは分かっていましたよ。さぁこちらへ」
魔女っ娘はしなやかに礼をしてミヤコを部屋に招いている。廊下が日差しに照らされて明るすぎるからなのか、部室は暗くてよく見えない。
「ど、どうもありがとう!じゃあ、ちょいと失礼してっと」
ミヤコが足を踏み入れると、扉はゆっくりと閉められる。薄暗い教室。長机が2つが並べられて、T字になるようにもう一つ長机が置かれている。それぞれの机に人の気配はするけど、良く見えない。目を凝らしていると、お誕生日席から灯りが怪しくついた。
「ようこそ。超常現象同好会へ。僕は会長の榊原レン。歓迎しますよ、芹澤ミヤコ君」
言い終わるや否や蛍光灯がパッとつけられ辺り一気にが明るくなった。
そこには、夏だというのに詰襟を着こなし、慎重に色を合わせたであろう軍帽を被った男、榊原レンが手を大仰に広げていた。スッと通った鼻筋に長い睫毛、優し気に細められた目。芝居がかった言い回しが胡散臭い。”Ⅲ”のピンバッチ、三年か。芹澤ミヤコは警戒レベルを2段上げた。
「おお!榊原レン先輩!『暁』で見ましたよ。どうも芹澤ミヤコです。お会いできて光栄です!」
「これはこれは、お噂はかねがね。星月夜事件に無人の夜想曲、体育館の怪を次々に解決とは!素晴らしいご活躍ぶりのようで」
「いえいえ!後輩に助けられただけですよ!」
「またまた、そんなご謙遜を!」
芹澤ミヤコと榊原レンは互いに視線を一切逸らさずに「アハハっ!」と笑いあった。和やかな空気の水面下で火花が散った。
「あら、仲がよろしいこと。ささ、ミヤコ様もそんなところで立っておられずに、どうぞこちらへ」魔女っ娘が横をスッとすり抜けパイプ椅子を出してくれた。机を挟んで榊原レンと机を挟んで向かい合うような形だ。
「お!これはご丁寧にありがとう。貴女は?」
「申し遅れました。わたくしは月城ヒナ。どうぞお見知りおきを」
月城ヒナはたおやかに微笑む。よかった。この子は信用できそう。芹澤ミヤコはそう思いかけた。しかし、長机に座った月城ヒナは机の上に小さな木の台座と、どこからか取り出した水晶玉?を置いた。ミヤコは心の中でウグッとうめき声をあげた。
「芹澤さん!自分、早乙女トオルって言います!よろしくお願いしますっす!」
「早乙女くんね。こちらこそ。よろしく!」
今まで席に座って黙っていた黒縁メガネにぼさぼさの髪を後ろに一つまとめ、白衣をまとっている男子が身を乗り出して言った。シャツには”Ⅱ”の文字。2年か。見るからに理系。だけど、ここまで来るともう大体予想がついてしまった。早乙女くん、君はあれだな?UFOとか宇宙人とかそんなところだろう。
改めて周りを見回す。自分が言うのもなんだが、一癖も二癖もある部員たち。部室の間取りはミス研に似ているが、周りに置かれている本棚にはまったく統一感がない。宇宙関連、妖怪や都市伝説関連、魔法や占い関連とエリア分けされているようだ。
榊原レンは頬杖を突きながら全員が着席したのを確認すると、パチンっと指を鳴らした。その瞬間、早乙女トオルと月城ヒナの背筋がピンっと伸び、微笑を浮かべて榊原レンを見ている。ミヤコも空気を読んで真似をした。
「それで、名探偵芹澤ミヤコ君。要件というのはなんのことかね?」
榊原レンがまるで議長のように話し出すと、他の部員たちがいっせいにミヤコに視線を送った。
芹澤ミヤコは今までに経験したことのないアウェーを肌で感じながら、笑顔で切り出した。
「コホンっ。最近噂になっている幽霊騒ぎについて、ミステリー研究会はこれを事件と判断しました。そこで、超常現象同好会の皆さんに知見をお借りしたいと考えております」
早乙女トオルがメガネを中指で軽く押さえて、待ってましたと言わんばかりに声を上げた。
「本当にしょうもないっすよね。幽霊なんて科学的に考えているわけないっすよ」
「それはどうだろうかトオル君。観測出来ていないから、という理由で存在しないと断じるのは、それこそ“科学的ではない”と思うが?」榊原レンは軍帽のつばに手を掛けて、眼光を隠すように意見する。
月城ヒナはタロットカードをシャッフルしながら「レン様のおっしゃるとおりです。UFOだって宇宙人の乗り物だと証明する物理的証拠は何もないじゃありませんか」と、追撃。引いたカードには“月”と描かれてあった。
「ぐぎぎぎ……!なら、現時点で検証可能な証拠はないと言い換えます!これならいいでしょう!」早乙女トオルは顔を歪ませながら頭を掻きむしり、訂正した。
その後も……
「ふむ。異論はない。だか、伝説によれば――」
「いえ、歴史的に見ても魔女は――」
「しかし、NASAがUFOを科学的に――」
(……あの、私いつ帰れるんだろ)
三方、次々とわけのわからないことをまくしたてはじめ、ヒートアップしている。もう初めの幽霊騒ぎについてはどこ吹く風。己の信念をぶつけ合うように弁論を繰り広げていた。
芹澤ミヤコは口角を引きつらせていた。この人たちはいったい何を言っているのだ、と。もう本人たちが答えを言っているではないか。
――“証拠がない”のに、いったい何を考えろというのか。
超常現象同好会の部室で三者の議論は踊る。独り芹澤ミヤコを残して。
話題は脱線に脱線を繰り返し、好き勝手に飛び散った結果、今やとぐろを巻いている始末。
白目をむいていた芹澤ミヤコが“証拠”を持ち出すまで、あとわずか。
3,2,1――
つづく




