第1話 朝に広がる星空
episode1 星月夜の密室
明星高校2-B教室。芹澤ミヤコはスマートフォンを片手に目を輝かせ、机に突っ伏している女生徒の元に押しかけた。
「朝倉さん!今朝の事件のこと何か知ってる!?」
女生徒、朝倉アキラはのそりと顔を上げた。芹澤ミヤコはスマートフォンを素早く操作し、画面を朝倉アキラに見せる。たちどころにアキラは眉を曇らせた。その顔には、はっきり“鬱陶しい”と書いてあった。
だが、こんなことで挫けていてはミステリー研究会部長は務まらない。どんな人にも素早く、的確に情報を聞き出す。それが一流の探偵というやつだ。ミヤコはスマートフォンを持つ手に力が入った。
「......今朝って、その絵のこと?」
「そう!綺麗だったよねぇ~!」と、満面の笑みを浮かべてミヤコは要件を伝える。「実は、昨日の放課後のことについて、聞きたいことがあってさ」
「あぁ、あーし、疑われてるわけね」朝倉アキラは寝起きのような声色で言った。
「いやいや、皆に聞いていることだよ!」ミヤコは笑顔のまま、朝倉アキラの反応を注意深く観察した。
「昨日、最後に教室に入ったの、朝倉さんなんだよね。その時にはもうあったのかな~って、あの絵。え~と。なんていったっけ……?」
「“星月夜”。ゴッホの」と、アキラは眉間に皺を寄せながら、若干食い気味に言った。
「そうそう!“星月夜”!昨日は何もなかったのに、今朝いきなり黒板アートが現れるんだもん。それも鍵が掛かった教室で!私も朝来てびっくりしちゃった!で、昨日のことなんだけど……」
「あっそ。あの絵、昨日の放課後は無かったよ。もういいでしょ?」
朝倉アキラはそれだけ言うと、もう話すことは無いとでも言うように、再び机に突っ伏した。
ミヤコはスマホを操作するふりをしながら、朝倉アキラの上履きをそっと確認する。白いシンプルな上履き。つま先から甲までべっとりとついたチョークの跡。彼女もあの黒板アートを近くで見ようとしたのであろうか。だけど、リカが言うには……。
そして、ミヤコはふと今朝の騒動を思い出した。黒板に突如として現れた星月夜。近くで見ようとクラスメイトが殺到して、今日はみんな足元がチョークまみれだった――
つづく