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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
魔王編
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第47話 希望

 

「アンタ、イザベラの事本当に好きになっちゃったのね」


 思わず反応してしまった。


 なぜ、何故バレた!


「そういう事か……。さすがはティナちゃんだね」


 捕縛対象のエイルも確信したようだった。

 いや、今まで疑っていたが、今の私の反応で確信したようだ。


 これはまずい。

 もしバレてしまえば、私の居場所は無くなる。


 婚約者を捕縛しようとした私は今度こそイザベラとは決別してしまう。


 イザベラが許しても、他の者たちが許さないだろう。私のような不穏分子を抱えていられるほどイザベラサイドに余裕は無い。


 それに何より、ヴォルコフ家に消される。

 ソロン様を裏切り、イザベラを援助しようとした挙句に婚約者の捕縛依頼を受けたなど、ヴォルコフの恥だ。

 家の名誉を取り戻すため、どんな手を使ってでも私を殺しに来る。

 最悪、お兄様が来る。私はあの人に殺されるのだけは嫌だ。


 だが、エイルの口封じはできない。

 イザベラが大事にしている婚約者を殺すつもりは元々無い。


 捕縛依頼を受けない訳にはいかなかった。それこそ怪しまれてしまう。

 でも、任務を完全に遂行してしまえばエイルは王宮に閉じ込められる。


 完全に手詰まりだ。


 この任務の真意は、恐らくルベリオの血を確保する為だ。イザベラへの人質としてじゃない。


 そもそも、イザベラと敵対して武力で勝てるものじゃない。下手をしたら人質ごと全てを破壊されるかもしれない。


 イザベラは本物の王の素質がある。

 婚約者を盾にされて大人しく従うとは思えない。


 つまり、エイルは人質じゃない。

 だとすれば、エイルのもうひとつの価値、ルベリオの血が目的のはず。


 ルベリオの血が必要なのは、もうすぐルベリオがめちゃくちゃなことになるからだと思う。

 王族の血が絶えるのはアストリア王家にとって都合が悪いんだ。


 多分、世界地図が塗り替えられる。

 どの程度かは予測できないけど、現状のルベリオ王国を見て大人しくしていられる国家は数少ないだろうとは思う。



 その上で、この状況。

 どうすれば最善を尽くせるのか……。


 何も分からない。

 何も実らない。



「私はっ!」


 私は……。



 私は、何がしたいの。


 何も言えなくなってしまった。



「クリスタちゃん。一つ、いい方法があるよ」


「!」


 神妙な面持ちでエイルが囁く。


 まるで悪魔の誘惑のようだ。


「あのね、クリスタちゃん。僕たちはもう既に捕縛されたよ」


 ……?


「だから、何?」


 意味が分からない。

 エイル達を捕まえて……。


「だからさ、クリスタちゃんの任務は達成されたんじゃないかな?」


 ……。

 あぁ、そういう事。



 私に下された依頼は()()()()()()

 それ以外は特に指定されていなかった。


 つまり、エイルを魔法で拘束した時点で私への依頼は達成されたってこと。


「あっそ。で、だから何?」


 そんな屁理屈が通るような人じゃないでしょ、ソロン様。それに、依頼が達成したからそのまま見逃せとでも言うつもり?


 くだらない。



「終わったんだからさ、イザベラと一緒に帰ろうよ」



 ……!!



「帰るって……どこに?」


「そりゃあ決まってるよ。君たちが今住んでるとこ、学園だよ」



 どうして。

 私は、もう学園生なんかじゃない。


 ヴォルコフ家の次期ロゴスの実妹。

 王家から直接依頼を受ける裏の刺客。



 それに。


「……イザベラはどこにいるの?」


 イザベラと合流なんてできないはず。

 彼女は魔王討伐に向かったってソロン様が言っていた。


 森の奥地に恐らくいる。ルベリオ王国の寂れた死体の街に姿を現すなんて偶然は、ありえない。


「それができるんだよ。ね?ティナ」


 私とエイルの視線がティナへ移る。


「へぇっ!?わ、私?……あっ」


 何かを思い出したように返事をした。


「た、確かにあるわ。習ったわよ、()()()()。イザベラがアルベールを呼んだのを見て、万が一の時にって教えてもらったわ」


「……呼応術式?」


 知らない言葉だ。

 でも呼応って事は、イザベラを呼び出せる……?


「呼応術式って言ってね。発動すると対象者に特定の振動波長を与えることができるんだよ。イザベラを対象とした場合、イザベラは即時に震源を特定してこちらに向かってくるだろうね」


 エイルは真剣だ。

 真剣に私に語りかけてくれている。


 今までのような軽薄な姿じゃない。



 イザベラに会える……?


 私、イザベラと一緒に帰れるの……?



「クリスタちゃん。任務は達成したんだよね?それに、これからイザベラを呼ぶんだ。全部説明して、全部話して、それでどうしたいか気持ちを伝えようよ。イザベラならきっと、全部飲み込んで一緒に居てくれる」


 とても優しい語り口。

 真摯な想い。




 私は……私は!




「私は……一緒にいても、いいの……?」














 


「ダメだね」



 ……ッッ!!!!



 振り返ったら、目の前にいた。


 私が、ここまで接近されるのに気づかなかった。

 久しぶりに死を覚悟した。


 慌てて距離を取ったが、この取った距離に意味があるのか分からない。


 多分、まだ彼の射程だ。



「姉さんに裏切り者はいらない。ブサイクな君はここで退場だ」



 アルベール……! 



「クリスタちゃん!急いでこの拘束を解いてくれないか!」



 すぐさま私はエイルの言う通り、エイルとティナの拘束を解いた。

 害意は恐らく無い。


 アルベールが誰を殺しにきたのか分からないけれど、私は確実だ。

 さっきまでの会話、どこまで聞かれていたか分からない。


 だけど、()()()()って言われてた。



 それは、王家に対してなのか、イザベラに対してなのか。


 分からないけれど、私一人で敵う相手じゃない!



「エイル、ティナ。ごめんなさい。私、君たちのこと信用できなかった。イザベラの親友と婚約者を、信用できなかったの。ごめんなさい!」


 私は必死で叫んだ。


 一瞬だけ見えた希望なの。

 私にだけ見えた光明なの。



「いくらでも謝るから!何でもするから!」



 お願い。

 お願いします。


 私、死にたくない!




「助けて!」




「当然だよ、レディ」



 エイルは輝くような身体強化魔法をお披露目しながら私の前に立った。



「助けを求めたクリスタちゃんを助けないなんて、あの子に知られたくないからね」



 それと、もう一人。



「私はアンタのことあんま知らないけどさ。イザベラが好きならそう言えばよかったじゃない。ごちゃごちゃ難しいこと考えずに、家のことなんて置いといてさ。ストレートに言ってみなさいよ。案外、どうにかなるわよ」


 オルシュ家の娘、ヴァレンティーナ。

 小さい背中だけど、大きく見える。


「……ありがとう」



「いや、あのさ。邪魔なんだけど。僕はそこの出来損ないを殺しに来ただけなんだよね」


 笑顔のアルベール。

 だけど、イザベラの隣にいる時とはまるで別人。


 迫力が違い過ぎる。


「アルベール。アンタ、本当にシスコンなのね。お姉ちゃんが他の友達に取られちゃうのがそんなに悔しいの?」


 挑発的な笑みを浮かべて罵るティナ。

 いや、挑発的というよりもはやただの挑発だ。


「姉さんが誰かに取られちゃうだって?面白いね。姉さんは誰のものにもならないよ。あの人は特別だ。僕や君たちとは全く違う別次元の存在だよ。姉さんが誰かのものになる心配をしてるんじゃないんだ。使()()()()()()()()()()()()()()()()をしているんだよ。馬鹿だね」



 使えないゴミ。

 私のことだろうね。


 やっぱり、私が友達だということをよく思わないのはアルベールなんだ。



「そうかそうか。イジーは確かに悪食だからね。落ちてるゴミを拾って食べちゃうこともあるかもしれない。アルベール、確か君も拾ってもらったんだっけ?イジーにさ」


 エイルがそう言うと、アルベールは目を細めた。



「エイル。お前は姉さんじゃなくて母さんに拾ってもらったんだっけ。母さんは、姉さんよりも掃除が得意でね。特にゴミ掃除なんか、僕よりも上手なんだよ。君は殺されないとでも思っているのかい?安全だとでも思っているのかい?」



 えっ、エイルに流れるルベリオの血は必要なんじゃないの?


 確かに捕縛せよと命令が……。


「言い忘れてたみたいだね。それは申し訳ない事をした。クリスタ、君に命じたのは『エイルを捕縛せよ、()()()()()()()』だよ」


 嘘……でしょ。


「そ、そんな事したら、ルベリオの血族が……っ」


「ルベリオの血族なんて別にいらないよ。いたらルベリオ王国の跡地を継いでもらおうと思ってたけど、居ないなら単純にルベリオを滅ぼせばいいしね。別に必要ないよ」


 ……なんて事なの。

 さすがのエイルも冷や汗をかいてる。


 勿論、自分の命が危ぶまれているからじゃない。

 ルベリオ王国を潰すことを当然のように言っているからだ。


「あ、跡地って……この国はまだ僕の祖国だ!この土地も民も、お前達アストリアのものじゃない!」


「馬鹿だね。そう決まったんだよ。このパンデミックは簡単には収束しない。恐らく、死人が出続ける。だからルベリオは放棄する事にしたんだ。この病への具体的な対応方針が出るまでルベリオは保てない。無論、元国王の孫がいたらラッキーだけどさ、正味どっちでもいいんだよね。ひとまずはアストリアが引き受けることになったよ。全く、こんなクソみたいな国はいらないんだけど」



 この反吐が出そうなほどの邪悪になぜ気づかなかったの……!


 これがあのイザベラの双子の弟……?


「じゃあ、お話はこれでおしまい。クリスタ、最期に言い残す事はあるかい?」


「さ、いご……?」


 私、本当に死んじゃうの……?

 頭の先から血が冷たくなる感覚がする。




 恐怖。




「させると思うのかい!」


「"聖域(サンクチュアリ)"」


 エイルの白き瞬刃たる剣技、ティナの聖属性魔法のような神聖な輝きを放つ支援強化術式。

 イザベラから魔術について教えて貰ってるというのは本当みたい。


 こ、これなら……。

 私だってまだ動ける!


 私は懐に隠していた短剣を握り締め、隙を伺おうとしたその刹那。




「"魔怒鎚(レイジ)"」




 エイルとティナが冗談みたいに吹き飛んだ。



 …………え?



 轟音と共に吹き飛ばされた二人が、血を撒き散らしながらドサドサと地面に落ちる音が聞こえた。


 嘘、でしょ。

 そんな、学園の時とは強さが違い過ぎる。


 あれでも、力を抑えてたって言うの……? 



「はぁ。弱いね、ホント。で、もう一度聞くけど……」



 荒い息遣いが私から聞こえる。


 心臓の音もうるさい。


 冷や汗も止まらない。



「最期に言い残したことある?」


 その邪悪で美しい瞳だけは、イザベラにそっくりだった。


「私は……」


 私は死ぬ。

 涙が止まらない。


 エイルもティナも、巻き込んでしまった。


 もっと知りたい事があった。

 もっと教えて欲しい事もあった。


 まだ、イザベラと一緒にいたかった!



「まだ、死にたくないッ!!」



 全力の身体強化魔法。数分後には意識を失ってしまうだろうほどの大幅な強化だ。


 全身の骨と筋肉が軋む。

 少し動かすだけで全身に発狂しそうな痛みが走る。


 でも、それでも。


 私は……。




「お前らの勝手な考えで、死んでたまるかッ!」




「"魔刃"」




 一瞬何かが光った。

 アルベールが何かをしたんだ。


 見えなかった。



 ……?何故か立てなくなっちゃった。


 あぁ、右足が切り落とされたんだ。


 私はその流れで更に左腕を切り落とされた後、腹を蹴られ弾き飛ばされた。



 やっぱり、ダメだったか。



「そうそう、感謝を忘れてたよ。君の裏切りのおかげで姉さんはまた孤独になった。ありがとう」



 あぁ、イザベラ。

 もっと話したかったなぁ。



 ちゃんと私以外にもお友達できるかな?

 ちゃんと適度に休んでくれるかな?



 いつも王族の責任とか聞かされて、うんざりしてたよね。



 

 王族になんてさ、なるもんじゃないね。




 ……貴族になんて、なるもんじゃないね。 





 ──────────────


 魔王編、終了です。

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