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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
魔王編

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第45話 魔王の住処



 サイと私は魔王のすぐ手前のところまで来ている。


 休息しながら進んだからかなり時間が経ってしまった。アルベールは心配しているだろう。


 だが、サイとの会話も中々面白い。



「つまりオレは、唯一の成長する魔王だったという事だろう」


「魔王とは成長しないものなのか?」


「しないだろうな。戦い方が精練していく事はあるだろうが、身体能力が向上したり魔力量が増えたりなどといったことはあり得ん。魔王を作るのには素体が必要だ。人間の素体は死後成長する事は無い。だが、初めから完成されている。ヴァルハザールも誕生した頃からお前に殺されるまで成長はしなかっただろうな。だから魔王というのはせっせと魔人を作る訳だ」



 ……面白い。

 魔王に素体が必要だとは思わなかった。



「ヴァルハザールの素体は人間だったという事か?」


「恐らくそうだろう。オレは最強のオーガを素体にされた訳だが。愚かな我が母は初の人間以外の素体だったから失敗したと思ったらしい」


 はは。それはなんとも間抜け話だ。


 我が子の成長に期待しない母など、裏切られても仕方ないな。


「イザベラよ、お前は何故転生した?」


 おっと私の話か。

 正直、私の転生について話せることはあまり無い。


 サイは私の転生について確信しているようだから多少話せる事もあるだろうが、転生という奇想天外な事をまず信じてもらえない事には話が進まんからな。


「何故、と言われてもな。私の意思では無いし、正直分からん事の方が多い」


「それはそうだろうな……」


 サイは考え込むように黙ってしまった。

 そうだ、聞いてなかった事があったな。


「サイ、魔神を知っているか?」


 聞いた途端、考え込んでいたサイがこちらに振り向いた。

 神妙な顔つきだ。


「……それを何処で知った」


 なんだ、この反応。

 やはり何か知っているのか。


「前世でお前の母に殺された時、私の持つ力のことを"忌まわしい魔神の力"だと言っていた。私のこの黒き魔力と力は魔神由来のものらしい。何か知っているか?」


 サイはまたも考え込むように黙ってしまった。

 全てを知っている訳では無さそうだな。


「先に言っておくが、オレもよく知らん。だが……魔神は、我が母が忌み嫌っている存在だ。オレが知っているのは、元は魔神とセラフィエルは同じ存在だったという事だ」


 うん?

 どういう事だ?


「同じ存在?」


「あぁ。元は魔神しかこの世界にはいなかった。我が母はその魔神の半身であったらしい」


 つまり、セラフィエルは魔神だった?

 何かが起こって、魔神は二人に別れた。


 この際どうやって分かれたのかはどうでもいい。



 何(・)故(・)分かたれたのか、という事が重要だ。



「セラフィエルと魔神は元は一つだった……。何かが起こって二人に分かたれたのか。何故?」


「理由はオレにも分からん。その後魔神は姿を消し、セラフィエルがこの世界に君臨した。それが事実だということはオレの中に残された記録だ。オレですら魔神など見たことはないし、この話以外に聞いた事も無い」


 悠久の時を生きるサイですら魔神をほとんど知らない……。



 私はセラフィエルが世界をリセットしている理由について、魔(・)術(・)は(・)都(・)合(・)が(・)悪(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)だと思っていた。


 だが、都合が悪いのは魔術ではないのではないか。


 魔神そのものが都合の悪い存在で、魔術は魔神に繋がる何かがあって……消された?


 ダメだ、やはり分からん。


 情報が足りん。魔神について確実な事が何一つ無い。


「すまんなサイ。魔神については本当に分からん。ただ、セラフィエルが私の力を魔神の力と言ったことは確実だ。間違いない」


「……まァ、あのセラフィエルが言ったのならそうなんだろう。魔神の力、か。力というより、加護に近いのかもしれないな」


 ……そう、だな。

 これは魔神の力を授けられたというより、魔(・)神(・)の(・)加(・)護(・)を与えられたという方が正しいのかもしれない。


 問題は、なぜそんなものが私に与えられたのかという事だが、それが分からんので何も分からん。


 サイも難しい顔で考え込んでしまっているが、サイの知識にも引っかからない魔神の存在。

 未だに謎だ。



「それにしても、お前のあの五感を奪う術には恐れ入った。もう一度あれをやられたとしても対処法が思い浮かばんな」



 ん?

 あぁ、"常闇"のことか。



「あれは五感を奪うのでは無い。私の魔術領域へ誘い込んでいるだけだ」


 魔術領域とはその人が持つ精神世界だ。今立っている位相とは異なる世界の展開。


 今この世界の常識が通用しない世界だ。

 上も下も右も左も無い。


 五感を奪っているのではなく、五感など無い世界に入ってしまっているという事だ。


「セラフィエルは私の魔術領域でも適応しそうだが、多少の影響は与えられるだろう。なんにせよ、ヤツはこちらへ引きずり込まないとまともに攻撃が通用しないだろうからな」


「……そうだな」


 前世で死ぬ前に放った"黒雷"は強力だった。私の命を削って放った魔神の全力攻撃が強くない訳が無い。

 それでも、鎧が焦げただけだった。セラフィエルは歩いていたし、声色も余裕そうだった。


 ヤツにまともに攻撃を通すためには魔術的な攻略が必要だろう。そこへサイの全力攻撃と私の術式が合わされば……。

 希望はあるだろう。


 まぁいい。

 ひとまず魔王を殺したあとも王都に戻らねばならん。

 遅ければ遅いほどアルベールが孤立する。



 帰り道にでもまた話をすればいい。



「サイ、分からん事について長々と考えていても仕方がない。さっさと魔王の元へ案内しろ」


「……あァ、そうだな」


 どうせこやつは魔王に会っている。

 力を求めるサイが、その力を持つ魔王に興味を示さない訳が無い。


 そして、今代の魔王は死んでいない。

 呪いによって弱っている魔王など眼中に無かったから見逃したんだ。


 その時に殺していれば魔人が人里に降りてくる事も無かっただろうが、勘違いしてはいけない。


 サイは人類の味方でも、ましてや魔王の味方でもない。


 ただ力を求め彷徨う鬼だ。

 そこに善悪など無い。


 だが、私についてくると言うならばそんな事はもう許さん。

 人類の味方はしなくていい。私(・)の味方をしてもらう。



 ふはっ。

 こんなに都合のいい事があるとはな。



 私の魔神の力に無意識に誘い込まれたか、夜伏に気づいたのだろうな。



 どっちでもいいが、この鬼が私の味方というのは強力なピースになる。王国の権力争いに巻き込まれることはもう無いだろう。


 私の魔神の力の試し斬りにしてもいい。


 あァ、できる事が増えるというのはなんとも甘美だな。




 ◇◇




 そうしてサイを急かして魔王の居住へたどり着いたが……。


「これは……なんとも見窄らしいな」


 ヴァルハザールが住処にしていた城は、まさに城と呼ぶのがお似合いな巨大な建造物だった。帝国に建てられた城よりも遥かに巨大で、黒黒しく輝いたその城は地獄の一等地だと言わんばかりに魔人が溢れかえっていた。



 しかし……。



「だから言っただろう。つまらんとな」



 この魔王の住処は村人の家ほどの大きさしかない。



「……生まれた傍から魔人を殺し尽くしている魔王だ。それを前提に合理的に考えれば、一人が住むに十分な大きさという事だろう」


「いや、どうだろうな。オレが思うに、弱りきっているからこの程度の大きさしか保てないのではないか?」


 まぁ、それも有り得るだろうな。

 魔王の住処は魔王自身の魔力で作られている場合もある。魔人達に作らせていないのであれば、これは魔王の弱さの象徴なのかもしれない。


 何せ、魔人を逃してしまう程度の力だ。ヴァルハザールの所にいた柱(ゾイレ)と同程度、もしくはそれよりも弱い可能性がある。



「家ごとぶっ潰してしまうか?」


「いや、話を聞きたい。そのまま殺すのはよせ」


 サイが物騒なこと言い始めたが、本当にやめてほしい。聞きたいことが山ほどあるんだ。


 それに、魔王自身にも時間が無いだろう。


 最弱の魔王の住処の扉へ手をかけ開け放った。




「ようこそ、イザベラ。待ちくたびれたぞ」




 そこで目にしたのは。





「……アーサー?」





 かつての私だった。



 

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