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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
魔王編
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第41話 破滅への序章

 

 サイはセラフィエルに創造された魔王の失敗作だと言っている。

 もはや意味が分からないな。戦闘の疲労もあり頭が回らん。


「失敗作というのはどういう意味だ。お前は私が知る魔王よりも余程強かったぞ」


 サイはその悪どい面の口元を緩ませた。


「お前の知る魔王とやらが分からんが、確かにオレは強くなったんだろう。だが、生まれた時は失敗だった」


 生まれた時か。

 つまり、サイは成長したという事か。


「魔王とは生まれた時から強大な力を持ち、魔物や魔人等を超越する人型の超個体だ。対してオレは魔王を創るための膨大なエネルギーを注がれたにも関わらず、誕生した瞬間はザコ同然だった。オレの姿も既存の魔物と酷似していたからな。我が母はさぞ残念がっただろう。オレを野に放ち、そのままにしやがった」


 魔王を創造するためのエネルギー……。


 そうか。さすがのセラフィエルも魔王を創り出すために大きな力を使うに違いない。

 その先に生まれたのが、ただの普通の魔物程度の強さだとしたら放り投げてしまうのも頷けるが……。



 その結果、魔王を超越するバケモノじみた強さにまで成長したサイが誕生した。



「すぐ近くにいる奴の他に、今魔王は存在するのか?」


「いや、分からん。そもそも魔王の存在意義は人類を滅亡させる事だ。失敗作のオレでも分かる。だが、なぜ滅亡させなければならないのかはオレにも分からん。だから、他に魔王がいるかもしれないし、いないかもしれない」


 つまりは分からんという事だ。


 だが、ヴァルハザールを生み出したのがセラフィエルだとするならば、魔王は複数生まれていると考えてもいいだろう。


 人類の滅亡の先に、何がある。


 それに、本当のところは滅ぼされてはいない。その証拠は私の存在が示している。

 魔王の存在意義が果たされた事は一度たりとも無いという事だ。

 なのに膨大なエネルギーを消費してまで魔王を創造し、人類を滅ぼす一歩手前まで繰り返し追い詰める理由とは……?


 恐らく以前も考え付いた魔法と魔術に関係があるのだろうが、ヒントが足らないな。

 転生後との差異は魔術の有無だ。セラフィエルにとって魔術は都合の悪いものだった故に、世界は何度もリセットされた。


 だが、魔王の用途は……?

 魔王が人類を滅ぼせなかったのは偶然じゃない。滅ぶ手前にセラフィエルの干渉があったはずだ。


 逆に人類を存続させないといけなかった理由は何だ?


 ……これは思考をしても無意味だ。ヒントになる材料が足りなさ過ぎる。


 だが、覚えておこう。



 そして、最後の質問だ。


「サイよ。お前の目的は何だ。どうして強くなろうとする?」


 そう、サイは()()()()

 鍛えるにしても相手がいなかったはずだ。それは、私と同じで過酷な鍛錬の末にたどり着いた力。


 何かを目指していなければ到達し得ない力の果ての一端だ。


「オレの目的は……我が母セラフィエルをこの手で抹殺する事だ」


 っ!!


 やはりそうだった!こやつはセラフィエルに操られてなどいない。

 創造されたが、野に放たれた事でリンクが切れた。


 サイは魔法の詠唱をしたにも関わらず、セラフィエルの影を感じなかった。サイの中からセラフィエルは消えている。



 ならば、私と目的は一致している。


 さて、私の足はそろそろ限界だ。

 締めの挨拶でもしておこうか。



「サイよ。いつまでもお前の作る壁に拘る必要は無かろう。このイザベラと共に来い。その程度の壁、この私が悉く破壊してやろう」


「……」


 幼い子ならそれだけで殺してしまいそうな眼光をこちらに向け睨んでいる。


「お前の成長に限界など無い。私の力の根源に興味は無いか?」



「……あぁ。なるほど」



 たっぷりと時間をかけて地面を凝視し思考を巡らせたサイは何かに納得したようだ。


 何だ?




「お前、滅ぼされた過去から来たのか」




 私は言葉を失った。



「……何故分かった?」


「イザベラ、お前はオレに強過ぎると言っていたが、逆だ。人間が弱過ぎるんだ。魔王として生まれたオレにしてみれば、敵対している人間は簡単に根絶できる筈だ。だがイザベラ。オレに言っていた言葉をそのまま返そう。お前は()()()()



 確かにそうだな。

 私の力は普通の人類とは隔絶した強さだろう。


 だが、これは魔神の力よるものだ。私自身の力じゃない。


「それに、魔王システムは人類を滅ぼせない。俺の知る魔王は、全て過去に人間の力によって倒れた。おかしいだろう。オレとタイマンを張れる程の力を持つ魔王が、人類に倒されるなど有り得ん。常々思っていたんだ。異常な力を持つ人類が突発的に生まれるか、力を引き継いで未来に誕生している人間がいるとな」



 ハハ、大当たりだ。

 やはりこいつ、ただ力を求め彷徨っていた訳じゃない。この世界の矛盾を紐解いていたんだ。


 私という存在をここまではっきりと言及した奴は初めてだ。


 いいだろう。

 褒美だ、教えてやる。


「私は恐らく数千年前に生きていた人間だ。魔王ヴァルハザールを殺した後、セラフィエルによって人類ごと滅ぼされた生き残りだ」


「……そうか!過去の魔王ではなく、直接我が母に殺されたのか。だからこそ、あやつもセラフィエルに憎悪を向けているわけだな」


 サイは納得したように膝を打った。


「それにヴァルハザール!あの傲岸不遜な輩の怪物を人の身で殺したとは恐れ入った!」


 やはりヴァルハザールは魔王の中でもかなり強い部類だったようだな。そりゃあそうだ。配下の魔族すらとんでもなく強い柱がゴロゴロいたんだ。


 私の存在がいなければ滅ぼされていただろう。



 それに、今サイが言っていたあやつとは……?

 サイの他にもセラフィエルに敵対する存在が?



「まぁ、いい。少し休もう。オレの身体も治さねばならんし、お前も休息が必要に見える。もう決めていたが、イザベラ。お前と共にこの世界を見るのも悪くない」


「!!」


 思ったより簡単に言ってくれたな。もう少し説得が必要かとも思ったのだが。


「そう言ってくれて助かる。お前をこのまま殺すのは少々勿体ないからな」


「クハハ!よせよ。まだ夜は続く。休息しながらオレの知る全てを語ってやろう」


 剛毅な笑い方だ。魔神の力を宿した私と正面から戦える相手など今までいなかったからな。



 お互い、良い訓練相手になるだろう。



 まずは、気絶しそうなほど痛む節々を治してからにしようか。



 夜はまだまだ長いのだから。





 ◇◇





 私はエイルと共にこの地獄のルベリオを探索していた。


 どこを見ても死体、死体、死体。

 なのに血の海になってない。血ではなく、腐って黒くなった死肉が長々と撒き散らされている。


 そのせいで、そこら中に酷い臭いが蔓延してる。


 胃の中は全て空になったしまったハズなのに、まだ何かが出てしまいそう。


「ティナちゃん、少し休もうか?まともな生存者も見つからないし」


 エイルは心配そうな顔でこちらを見てくる。私がルベリオに行くって言った時のお父様と同じ顔。


 ふふ。女の子なのに、さすがはイザベラの婚約者ね。頼り甲斐があるわ。


「これくらい、ぜんっぜんヘーキよ!早く行きましょ」


 平気じゃないけど、平気そうな態度をとらないと自分が保てなくなりそう。恐怖に呑まれてはいけないから。


 それに、戦力に関しては問題無い。エイルは卒業時Aクラスだったし、イザベラからの指導もたまに受けていた。

 私は魔術への理解があるし、イザベラとの実戦形式の試合も何度もして鍛錬した。


 大怪我もしたけどね。あんなに慌てたイザベラは最初で最後でしょうね。


 思わずイザベラを思い浮かべる。

 尊大な態度が良く似合う壮麗な顔立ち。


 早くも寂しくなってしまった。


 ……会いたいなぁ。


 そんな事を考える程の油断があったせいか。

 私達は気づけなかった。



 まさか、この期に及んで()()()()()()()()()()本当に思わなかった。





 エイルと私は協力してまともな生存者を探していた。ルベリオ王国の中でも二番目に大きい街だけれど、本当に居ない。


 そもそも、私達はこのルベリオ王国についての情報をあまり知らない。

 おそらく何らかの疫病が蔓延してるだろう、という事しか分かってない。私がイザベラから習った聖域の魔術で浄化しながら歩いてるからどうにか生きていられるけれど、これが無かったらしっぽ巻いて帰るしか無いわね。


「それにしても、本当に閑散としているね。この街は本当は賑やかで露店もあったし、そこらで劇もあったしお祭りも何回も開催されてたんだ。もちろん見た事があるし、そういった催しをこの国での唯一の楽しみにしていた程なんだ」


 神妙な顔つきでエイルが過去を話してくれている。


 ……エイルの過去。

 興味が無いと言えば、嘘になる。


 女の子である事は明かしてくれたけれど、何で男装してるのかまでは聞けてなかった。


 聞いてみたら、教えてくれるのかな?



「ねえエイル。あなた、どうして……」




 その瞬間。




神性たる十字架(ディバインバインド)




「ぐっ!」


「うわっ!」



 地面から光の鎖が急に飛び出て私達二人を拘束した。


 一体何!?

 それに、拘束が強い……!


 並の使い手じゃない!



「こんばんは、エイル様。またお会いしましたね。貴方を捕らえよと命令を受けました。大人しく付いて来てくれますか?」




 そう気軽な様子で話すのは、予想外も予想外。




 イザベラの親友だったハズの、クリスタだった。





 

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